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#みんなの文化 (曳航の足あと) No.3

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みんなの文化 第3号目です。 大体、250~300ページで、次号へ向かいます。 こちらでは、わたしの代弁をしてくれる、あるいは、わたしを新しい世界へと導いてくれた大切な記事を、…
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#コラム

生と死の視座~「ノルウェーの森」の謎をとく。

  Wind rises ,I have to try to live.

⭐ノルウェーの森にわけ入って
     (改訂版 その3)

 前回、ノルウェーの森という物語の展開した1969年を中心とした日本社会の現実のイメージについて語った。それを読んで(あるいは、知って)ある事実に気づいた方は、いないだろうか?それは、その時代の社会の喧騒や混乱が、この物語のなかにいると全く感じられないことだ。こ

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⭐土器通信  ~南関東地域(東京、埼玉県)=古代では武蔵の国 における〈坏〉の切り離し技法と底部調整の話を中心に。

⭐土器通信  ~南関東地域(東京、埼玉県)=古代では武蔵の国 における〈坏〉の切り離し技法と底部調整の話を中心に。

a.切り離し技法~ヘラ切り→糸切りへ

この地域でのヘラ切りは、8世紀第1四半期までです。この時期は、まだ東京に須恵器の窯はありませんから、ヘラ切りの須恵器は、埼玉県や浜松の湖西窯などの搬入遺物の話です。
 ところで、糸切りの切り離し技法には、静止した粘土塊から、器の形になったものを切り離す静止糸切りと、回転台で回転している粘土塊を器の形にしつつ、切り離す回転糸切りの2つの方法があります。南関東の

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⭐〈ノルウェーの森〉にわけ入って

⭐〈ノルウェーの森〉にわけ入って

〈ノルウェーの森〉は、やはり単なる恋愛小説ではなかった。多分今回で三回目になると記憶しているが、この小説は、本当はハードボイルドなんだ、ということが今回よくわかった。
あれだけのパターンの性愛のシーンを一冊の本のなかで描いた小説はこの時代にだけでなく、この後の時代でもあまりないだろう。その中のいくつかを箇条書きにしてみる。

1. 31歳のレイ子さんとレズの中学生(13歳)の性愛のシーン。

2.

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コラム

⭐〈ノルウェーの森〉にわけ入って
            (その2)
「ノルウェーの森」の舞台となった1969年は、70年安保の前年で、全国の大学生たちを巻き込みながら、日本の学生運動は、これから苛烈になっていく。世界は、アメリカとソ連との二極化構造で、世界の各国も、単独の国内でも、大局に立てば保守、革新のそれぞれの勢力が、これら2大大国の代理闘争をやっているようなある意味陳腐な現実の印象がある一

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★切り離し技法について                 (その2)

★切り離し技法について         (その2)

        

ここではます一般的な切り離し技法について述べて、わたしが調査、整理した南関東(東京、埼玉県)について、実態を述べてみます。

★★つぎに一般的な説明です。
須恵器は、ヘラ工具を使います。
ヘラ切りです。回転台の上で中(高)速回転している粘土魁から切り離すときは、回転ヘラ切りと呼びますね。静止した粘土魁から切り離すときは、ヘラ起こしと言います。それに対して土師器は糸

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★土器製作における切り離し技法について                                                (その1)

★土器製作における切り離し技法について (その1)

本日は、粘土魁からの土器の切り離し技法についてお話しします。わたしの専門は須恵器ですので、今回は古墳時代から古代の須恵器、土師器の切り離し技法、そのあとは主に近世のカワラケの切り離し時の回転方向について、お話しします。
その前に須恵器、土師器、カワラケってどういうもの?どんな系譜の土器なのかを簡単にお話しします。
須恵器の伝わったのは、諸説あるようですが、4世紀末~5世紀初頭頃には、日本に伝わって

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〈小林秀雄試論〉全

〈小林秀雄試論〉全



1.はじめに
作品は何処へ帰着するのか、という問いが、批評にとって重要に思えるのは、そのことが、批評の言葉の帰趨を決定するように思われるからだ。だが、もともと作品は(ということは批評も)、どこかへ帰着する必然性を備えた存在なのだろうか。こういう疑念は、詮じつめれば言葉というものが、一体、誰の所有に帰属するのかという困難な問いに収束していくように思われる。現在まで、この

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★土器を観察する上での基本情報

★土器を観察する上での基本情報

今回から複数回、土器(ここでは縄文土器から土師器、須恵器、磁器、陶器、セッキ、などの総称)の製作技法、焼成技法についてお話しします。これらは、考古学の基本的な情報なんですが、結構専門家でも見落しがちな部分です。施釉は装飾技法になりますが、土器はこれら三つの観点から眺め、生産地と年代を推定すると、見方に広がりと奥行きがでます。それからこれは大変重要な観点なのですが、土器には必ず、材質の異なるオリジナ

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コラム

★土器の製作技法

一般的に土器の材料は、その文字の通り土です。土の中でも粘土と砂を混ぜて真水で濾してねかしたものがつかわれることが多い。それをこねて碗や皿などの形を作っていきますが、轆轤が使われるようになるのは、ずっと後のことです。日本の公的な記録で、轆轤を土器製作に使うとは、少なくとも古代まではないということです。ただし土器の中の碗や皿などは、仕上がった時の平面的な断面形(円形)から回転力なし

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コラム

★施釉の話
今日は主にわたしたち考古側からの釉の話、とくに近世(江戸時代)を中心に整理して、ここに書いてみます。
近世の器は、基本的に磁器、陶器、せっ器、土器に分類されます。おもに施釉されるのは、磁器と陶器ですが、本日はこの種別に簡単に整理してみます。ご質問があれば、随時。やすだにわかることは、お答えします。
1.磁器~国産磁器が作られるのは、17世紀初頭からです。磁器焼成技術は、朝鮮半島か

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コラム

施釉の話 続

今日はこのまえの続きですが、陶器から。
陶器の施釉は、産地によっては、銅緑釉などの金属を溶媒に溶かしたものをかけることもありますが、灰釉や鉄釉を掛ける場合が多いです。
灰釉の施釉は、最も古く、一般的には、8世紀末くらいが初源で、愛知県、瀬戸地域あたりの窯で行われたようです。標識窯は、折戸窯や岩崎窯になります。有名なのは、猿投地方の黒笹14号窯やその後の黒笹90号窯、その後の折戸53

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コラム

施釉の話 続々
  
では、セッ器と土器について、お話しします。
セッ器は、漢字に変換できませんが、火の隣に石と表記します。それに器でセッキと読みます。近世考古学の定義では、セッキは、無釉なんです。非常に高温で焼かれた焼締め陶器のことを陶器、磁器と区別して
、セッキと呼んでいます。何がセッキであるかは、ほぼ生産地で決まっています。
備前、丹波の擂鉢他一部の器種以外の製品、常滑、などの生産地の製品を

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コラム

〈小林秀雄 試論〉
   
  7. 回帰
小林秀雄の生涯は、何故か生き急いだ人のそれのようだ。そして多分そのように見えるのは、小林秀雄という傑出した才能と資質に〈戦時期〉という我が近代最大の劇的な一幕が用意されていたからだ。やがて、彼の魂が演ずるドラマの舞台は、彼の生きた時代とともに一挙に暗転する。『肉体の動きに則って観念の動きを修正するがいい、前者の動きは後者の動きよりはるかに微妙で深淵だから

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 〈小林秀雄 試論〉

 〈小林秀雄 試論〉

  

6. Xへの手紙 その(2)
現代に知識人など存在可能かという〈知的な〉問いはしばらく置くとしても、現在の日本のインテリと自称し他称される者たちに、『書物に傍点を施してはこの世を理解』するような『こしゃくな夢』を持つ者がいるとは到底思えない。何故なら第二次世界大戦後、全世界がアメリカナイズされていったことで、かって近代的知識人の自意識にとってプラトニックな憧れでありかつコンプレック

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