ヤナイユキコ

ワインとビールと珈琲を愛するフードライター。ヤナイユキコ名義で文章や小説を書いたり、料…

ヤナイユキコ

ワインとビールと珈琲を愛するフードライター。ヤナイユキコ名義で文章や小説を書いたり、料理レシピ制作をしています。どうしたらおいしくお酒を飲めるかを考えるのが趣味。三男一女の母であり「mg.」というZINEの制作メンバーでもあります。先天性心疾患や発達障害に少々通じています。

マガジン

  • しりとり手帖

    • 31本

    しりとりをしながら、最後の音節で始まる言葉をテーマにした何かを担当メンバーが発信します。

  • 綾子と達也のはなし

    綾子と達也という二人の男女の物語をベースに毎回ひとつの食べ物をめぐって展開する連作短編小説を書いていきます。

記事一覧

キッチンドリンカー 担当:ヤナイユキコ

主に女性が家事をしながらお酒を飲むことを、キッチンドリンカーという。 なかにはキッチンドリンカー=アルコール依存症となった人、と言い切ってしまう解説もあったりで…

19

あなたと喋っているような

今年の5月に、初めて自分の名前で本を出させていただきました。 無名の自費出版なのに、張り切りすぎて最初から二冊(笑) 写真がメインである『朝ごはんのやり直し』は …

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担任の小平せんせい

三、四年の担任だった小平先生の印象は今でも鮮烈だ。 小平先生は私たち生徒に、人間の善性について説き、自ら行動して見せ、それを植え付けた人だ(根付かなかった生徒も…

ヤナイユキコ
1か月前
10

目だけ長瀬智也に似てる兄の話

今月で私は兄より三つ年上になった。 兄は三十六歳で亡くなったのだ。 事故死で、兄の不注意が原因だった。あと、運が悪かった。 今だから言えることだけど、誰も責めない…

ヤナイユキコ
2か月前
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綾子と達也のはなし④|泣き顔にケンタッキー

「ただいまー」 達也のほっとした声が消え入ってしまいそうに、玄関の扉を開けると部屋は真っ暗だった。この日二時間近く残業をした達也だったが、先の連絡によれば、綾子…

ヤナイユキコ
4か月前
7

ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

時が経ちすぎたのもあって、 未だにあれは現実に起きたことなのか、 それとも妄想の類いだったのか、 曖昧な記憶がある。 私ひとりでは到底入る機会もない、 仄暗いラウン…

ヤナイユキコ
4か月前
16

綾子と達也のはなし③|ふたりで餃子

「達也くんっていつも、餃子に何つけて食べてる?」 キャベツをフードプロセッサーにかけている達也に玉ねぎを渡しながら綾子は問いかけた。 「餃子のたねに玉ねぎも入れ…

ヤナイユキコ
5か月前
9

生まれ変わったら。

生まれ変わったら男になりたい。 自分自身が男性から裏切られたり、 友人から嫌な男の話を聞くうちにそう思うようになった。 でもこれは、私が私のまま男になったら、 女…

ヤナイユキコ
6か月前
16

また吸いたいと思うその日まで

10年くらい、たばこを吸っていた。 初めて買ったのは、好きな人が吸っていた金色のマールボロだった。彼の影を追って。 そのくらいの気持ちで手を出し、 子どもが出来たこ…

ヤナイユキコ
7か月前
7

BEER(ビール) 担当:ヤナイユキコ

AM11:15 「セットのお飲み物はいかがなさいますか?」 来た、この時が。 ケイコは滑らかにそれがいつものように 「グラスビールで」 と、言った。ついに言った。 「グ…

ヤナイユキコ
7か月前
12

綾子と達也のはなし②|タモリと克実と市販ルウ

「綾子さんのつくるカレーは、どうしていつもチキンカレーなんですか?」 達也はキッチンに立つ綾子の背中に向かって話しかける。綾子は切った鶏肉に塩を振っているようだ…

ヤナイユキコ
8か月前
12

ひとりごと|通る人が変わればころっと好きになる

最近立て続けに、文章のもつ力に沁み入った。 一つは、私も制作に関わっている「mg.」というZINEの最新号「さつまいもをめぐる」にゲスト寄稿してくれた、シモダヨウヘイ…

ヤナイユキコ
8か月前
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三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録②

「このままじゃ一家心中するぞォ!!!」 これ一語一句そのまま、次男の三歳児健診で浴びせられた小児科医の名(迷)言である。 このとき次男は三歳三ヶ月。 まだ人間の姿…

ヤナイユキコ
8か月前
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三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録①

「子どもが4人います!」というと、 単純に驚かれることもあれば、「どうして!?」という理解しがたさを隠しきれない反応をいただくときもあります(笑) そうですよね、…

ヤナイユキコ
8か月前
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綾子と達也のはなし①|恋は焼きいもから

「綾子(あやこ)さんって、いつもおいしそうな食べ方しますよね」 向かいに座っている達也(たつや)が、今まさに焼きいものひと口目を頬張ろうとする綾子をじっと見つめ、そ…

ヤナイユキコ
8か月前
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連作短編に挑戦します!

こんにちは! フードライターのヤナイユキコです。 制作に携わるZINE「mg.」の最新号「さつまいもをめぐる」が先日文学フリマ東京37で初出しとなり、その中で「恋は焼きい…

ヤナイユキコ
8か月前
19
キッチンドリンカー 担当:ヤナイユキコ

キッチンドリンカー 担当:ヤナイユキコ

主に女性が家事をしながらお酒を飲むことを、キッチンドリンカーという。
なかにはキッチンドリンカー=アルコール依存症となった人、と言い切ってしまう解説もあったりで、私はもうアル中なのか、とぼんやりする。

数日前にXでつぶやいたのだが、私は料理をしながらのお酒が一番うまいと思っている。
未完成の段階の料理に塩を振ったり、マヨネーズをちょびっとのせたりしてつまんで流し込むビールはもう堪らなくおいしい。

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あなたと喋っているような

あなたと喋っているような

今年の5月に、初めて自分の名前で本を出させていただきました。
無名の自費出版なのに、張り切りすぎて最初から二冊(笑)

写真がメインである『朝ごはんのやり直し』は
私のXの朝ごはん投稿をmg.編集長のかわかみなおこ氏がフィーチャーし、編集・デザインをしてくれたおかげで完成した本。

もう一冊は、mg.さつまいも号に掲載する小説のためにイラストレーター・五嶋奈津美氏が手掛けた扉絵がとてつもなく素敵で

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担任の小平せんせい

担任の小平せんせい

三、四年の担任だった小平先生の印象は今でも鮮烈だ。

小平先生は私たち生徒に、人間の善性について説き、自ら行動して見せ、それを植え付けた人だ(根付かなかった生徒もきっといたけれど)

担任になった当初はギョッとすることが多かった。

小平先生は配膳された給食を前に下を向いて瞼をふんわりと閉じ、
「父よ」からはじまる言葉で欠かさずお祈りをしていた。
私たちは小平先生がその呪文のような文言を一通り言い

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目だけ長瀬智也に似てる兄の話

目だけ長瀬智也に似てる兄の話

今月で私は兄より三つ年上になった。

兄は三十六歳で亡くなったのだ。
事故死で、兄の不注意が原因だった。あと、運が悪かった。
今だから言えることだけど、誰も責めない、誰も恨まないで済む死に方は
実に兄らしかったと思う。

怨念を抱く対象がいないというのは、残された者にとって楽でもあるし、空虚でもある。
だから今でも私にとって兄は5年近く会っていない、でもいつでも連絡はとれる、そんな存在のままだ。

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綾子と達也のはなし④|泣き顔にケンタッキー

綾子と達也のはなし④|泣き顔にケンタッキー

「ただいまー」

達也のほっとした声が消え入ってしまいそうに、玄関の扉を開けると部屋は真っ暗だった。この日二時間近く残業をした達也だったが、先の連絡によれば、綾子はすでに帰宅しているはずだった。廊下の明かりをつける。視線を下にやると綾子が今朝履いていたローヒールがそこにあった。突き当たりに目を凝せば、キッチンとリビングを隔てるドアの磨りガラスから色をもった光がちらちら動いているのが見てとれた。

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ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

時が経ちすぎたのもあって、
未だにあれは現実に起きたことなのか、
それとも妄想の類いだったのか、
曖昧な記憶がある。

私ひとりでは到底入る機会もない、
仄暗いラウンジバーだった。
鼈甲色にぼんやり灯る照明は、
近距離でしか表情が読み取れないほどに心許ない。
あまり周囲に顔を見られたくない人たちにとっては都合のいい明るさなのだろう。
お忍び向き、ひと言で言えば、そんな店だった。

好きになるのは初

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綾子と達也のはなし③|ふたりで餃子

綾子と達也のはなし③|ふたりで餃子

「達也くんっていつも、餃子に何つけて食べてる?」

キャベツをフードプロセッサーにかけている達也に玉ねぎを渡しながら綾子は問いかけた。

「餃子のたねに玉ねぎも入れるんですか?」

「うん。玉ねぎを入れると化学調味料に頼らなくても甘味が旨味になる」

「へぇ、そうなんですね。おいしそう」

達也は細かくなったキャベツをヘラでこそげ取り、大きなボウルへ移す。そうして空になったフードプロセッサーに、先

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生まれ変わったら。

生まれ変わったら。

生まれ変わったら男になりたい。
自分自身が男性から裏切られたり、
友人から嫌な男の話を聞くうちにそう思うようになった。

でもこれは、私が私のまま男になったら、
女性をうーーーーんと幸せにしてあげられるのに、という話。何して欲しいがわかるから。
顔面も男顔だからこのままで、性別だけ変えてくれたらな。
と、ここまで書いて、私は生まれ変わっても、
幸せにしてあげたい側なんだなと気づく。

幸せにしても

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また吸いたいと思うその日まで

また吸いたいと思うその日まで

10年くらい、たばこを吸っていた。
初めて買ったのは、好きな人が吸っていた金色のマールボロだった。彼の影を追って。

そのくらいの気持ちで手を出し、
子どもが出来たことを機にやめた。

母体であるわたしが喫煙者だったから、
だからその子どもが喘息持ちなのかも、
アレルギーがあるのかも、
自閉症なのかも、
心臓病があるのかも。
と、自分を責め出すとキリがない。

どうしてそうなったかなんて一生解き明

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BEER(ビール)  担当:ヤナイユキコ

BEER(ビール) 担当:ヤナイユキコ

AM11:15

「セットのお飲み物はいかがなさいますか?」

来た、この時が。
ケイコは滑らかにそれがいつものように

「グラスビールで」

と、言った。ついに言った。

「グラスビールですね、かしこまりました」

主婦であろう女が、意外だと思われただろうか。
店員の表情が気になりそちらを向くと、バチッと目が合い、微笑み返された。
ケイコもマスクの下で笑みをつくり、心の中で呟く。「今日は歩きで来

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綾子と達也のはなし②|タモリと克実と市販ルウ

綾子と達也のはなし②|タモリと克実と市販ルウ

「綾子さんのつくるカレーは、どうしていつもチキンカレーなんですか?」

達也はキッチンに立つ綾子の背中に向かって話しかける。綾子は切った鶏肉に塩を振っているようだ。

「ん? タモリさんがカレーはチキンに限るって」

料理を始めた頃、いや、もっと前から、綾子はタモリの料理に絶大な信頼を置いていた。子どもの頃テレビ番組で見た、熟れた手さばきや腕前を目の当たりにし、出演者が「タモさんの料理はうまい!」

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ひとりごと|通る人が変わればころっと好きになる

ひとりごと|通る人が変わればころっと好きになる

最近立て続けに、文章のもつ力に沁み入った。

一つは、私も制作に関わっている「mg.」というZINEの最新号「さつまいもをめぐる」にゲスト寄稿してくれた、シモダヨウヘイさんのエッセイだ。

シモダさんは文筆家であり、
福岡にあるブックバー「ひつじが」の店主であり、
かなりの焼酎通である(きっとお酒全般お詳しい)。

そんなシモダさんが「mg.」のために、
芋焼酎のエッセイを寄稿してくれたのだ。

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三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録②

三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録②

「このままじゃ一家心中するぞォ!!!」

これ一語一句そのまま、次男の三歳児健診で浴びせられた小児科医の名(迷)言である。

このとき次男は三歳三ヶ月。
まだ人間の姿をした宇宙人で、
話は通じないし、発話はほぼゼロ、3秒と座っていられない明らかな多動だった。

三歳児健診と言えば、視力に聴力、簡単な受け答え(「今日はどうやってここまで来たの?」や「今日お父さんはどこにいるの?」などに答えさせる)、

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三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録①

三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録①

「子どもが4人います!」というと、
単純に驚かれることもあれば、「どうして!?」という理解しがたさを隠しきれない反応をいただくときもあります(笑)
そうですよね、手もお金もかかるし、私だってその気持ちわかります。

なのでこれまで、自分の子育てについて、踏み込んだ文章を書いてきませんでした。だって「うわー……大変そう……」って若干、いやだいぶ引かれる様子がすでに目に浮かぶのですよ。

簡単にうちの

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綾子と達也のはなし①|恋は焼きいもから

綾子と達也のはなし①|恋は焼きいもから

「綾子(あやこ)さんって、いつもおいしそうな食べ方しますよね」

向かいに座っている達也(たつや)が、今まさに焼きいものひと口目を頬張ろうとする綾子をじっと見つめ、そう言った。すでに勢いがついた綾子の口元はブレーキが効かず、返答するよりも先に、今にも蜜が溢れ出しそうな焼きいもにかぶりついた。とろけるような果肉を口いっぱいに味わいながら「そうかなあ?」と、もごもご答える。一方頭の中は「甘い、濃ゆい、

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連作短編に挑戦します!

連作短編に挑戦します!

こんにちは!
フードライターのヤナイユキコです。

制作に携わるZINE「mg.」の最新号「さつまいもをめぐる」が先日文学フリマ東京37で初出しとなり、その中で「恋は焼きいもから」という短編小説を寄稿しました。素敵な扉イラストはイラストレーターの五嶋奈津美さんによるものです。

焼きいもをテーマに書いた3000字ほどのお話なのですが、フードライターらしく、純粋においしそうだなぁと感じる表現や視点、

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