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ひとりごと|通る人が変わればころっと好きになる

最近立て続けに、文章のもつ力に沁み入った。

一つは、私も制作に関わっている「mg.」というZINEの最新号「さつまいもをめぐる」にゲスト寄稿してくれた、シモダヨウヘイさんのエッセイだ。

シモダさんは文筆家であり、
福岡にあるブックバー「ひつじが」の店主であり、
かなりの焼酎通である(きっとお酒全般お詳しい)。

そんなシモダさんが「mg.」のために、
芋焼酎のエッセイを寄稿してくれたのだ。
これが、やわらかく心に響く、読んだら飲みたくなる文章で、
好きを押しつけないシモダさんの文体がとても心地いいのです。

テーマがさつまいもと決まったとき、
さつまいも、ももも……芋焼酎!!!と、
連想ゲーム的に芋焼酎で何か書けないか?と思った。

でも私、お酒が大大大好きだけど、焼酎だけ、飲めない。
いや、飲めないは嘘で、焼酎の香りが少々苦手なことを理由に、
好きになる気も予定もなかった。

ビールもワインも日本酒もウイスキーもカクテルもいける口。
それだけ飲めれば毎日おいしく楽しいし、困ることもなかったのだ。
(焼酎の取材はいつも先輩に回っていたけれど)

そしてこれは何を暗示していたのか偶然か、
私の現夫も元婚約者(ダイヤの指輪をもらい式場も押さえていたのにお別れした彼)も焼酎、なかでも芋焼酎が好きだった。

食事をしながら「焼酎はあまり…」という私を前に二人とも
「焼酎うまいのに〜!とくに芋!」と、
たまらない表情で、ときどき眼鏡を曇らせたりしながら、
それはそれはおいしそうにお湯割りを飲んでいた。

そのとき、一口もらったり、匂いを嗅がせてもらったりはしたけれど、
「いや〜熱燗のほうがいいや」と、
私は私の愛する彼らから、
彼らが愛する芋焼酎の影響を
一切合切受けることがなかったのだ。
(受け取らなかったのだ)

であるからして、

そんな私が先日、人生で初めて、
自分のために芋焼酎を買ってきたことを知った夫は、当然いい顔をしない(笑)

「急にどうしたの!? 芋焼酎なんて買ってきて」

との問いに、

「いやあね、『mg.』にゲスト寄稿してくれたブックバーの店主さんの芋焼酎エッセイがすんごくおいしそうで〜! で、その方のお薦め芋焼酎を買ってきたのだよ!」

今まで散々勧めてきたじゃないか!
芋の香りが苦手なら「尽空」を飲んでみたらって、
散々、散々勧めてきたじゃないか!
って顔に書いてある。

さらにそこは素通りで、
今まで夫も買ってきたことがない「松露」を買ってくるもんだから、
ひいては不安そうでもあった。
(ごめんよ、今度尽空も飲んでみるからさ)

私が私のために買った「松露」。
エッセイの通り、器をあたため、
お湯を先に入れてから芋焼酎を注ぐ。

なんでしょうね。
ひと手間ひと手間を重ねることによって、
味わいがぐっと深まる感じ。
私はお酒をいかにおいしく飲むかを人生の糧に過ごしているからか、
手順や、その手間をかける意味などを噛みしめ、大切に思うのが愛おしい。

その気持ちとシモダさんのエッセイとがリンクして、
私を芋焼酎へと導く、初動となったのだ。
これが文章の力なのだろうと思う。

これまで頑として開かなかった焼酎への興味を、
世界を開いてくれたことを、とても感謝しています。


もう一つは、作家でエッセイストの岸田奈美さんのXのpostだ。

【障害者が作るクッキーが最高にやばい】

というタイトルのそれは、
ちょうどデザインフェスタに出店していた
例のマフィン屋さんのニュースが飛び交っている最中に投稿された。

そのマフィンに絡めるかのように、

「障害者がつくったクッキーは、障害者がつくっているからと素通りされるのに、どんな環境でつくられたかもわからないデザフェスのマフィンは売れる」

というような内容のpostをたまたま目にした後に、
岸田さんの投稿を読んだのが私にとって最高の流れだった。

もちろん岸田さんのご家族に障害者がいることや、
きちんと取材もされて、知識も理解も深いことは大きい。
140文字じゃ伝えきれないことも、
何千字と使えば伝わることもある。

でも、それでも、岸田さんの【障害者の作るクッキー】
の紹介の仕方はまっすぐで素晴らしく、
素材の良さもおいしさもズバンと伝わってユーモアもあって、
唯一無二だと思った。

同じ事柄でも通る人が変われば
こんなにも色鮮やかに魅力を伝えることができるんだ

と感動した。ちょっと泣いちゃうほどに。

シモダさんの芋焼酎然り、
岸田さんのクッキー然り、
通る人が変わるところっと好きに傾く。とたんに興味が湧く。
武塙麻衣子さんの食べてるものも全部おいしそうに見えちゃうんだよなぁ。

私もそんな、自分を通ると景色が変わる力をもった文章を書きたいと、
肌寒い部屋で松露のお湯割りを飲みながら、このnoteを書いている。


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