ヤブクグリ文庫

杉の町、大分日田を拠点に、全国のメンバーと人と森の関係を問い続けるヤブクグリ。はじまり…

ヤブクグリ文庫

杉の町、大分日田を拠点に、全国のメンバーと人と森の関係を問い続けるヤブクグリ。はじまりは2013年。以降、イベント開催や日田きこりめしの開発、2022年には生活道具研究室が発足。本文庫は、メンバーとその仲間による散文集です。https://www.yabukuguri.com/

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プロローグ

 ヤブクグリという山や森や木のことを考えるチームを作って早10年以上が過ぎたが、今でもヤブクグリがいったい何の団体か分からない人が多く、自分たちでもうまく説明でき…

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木の記憶07/焚火

 その日は以前からの山の友だちたちと一緒に、登山に出かけていた。このところ忙しく、山を忘れているような生活をしていたが友だちに誘い出されたのだった。山を越えてく…

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木の記憶06/柱のしるし

 居間と子ども部屋をつなぐ家の柱にたくさんのしるしがある。娘や家に遊びに来た子どもたちの身長を記録したしるしだ。 わが家は千客万来。盆正月も関係なく親戚がよく集…

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木の記憶05/匂い

 匂いは記憶を強く喚起させる。古い写真を見ても、何となくその時を思い出す程度だが、匂いが引っ張り出してくる記憶は単なるイメージではなくて、360度の感覚で、その時…

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木の記憶04/今日が一番キツかった。

 木の記憶と言われて思い出すのは、20数年前に(株)九州木材市場に入社し、杉や桧・木材のことを全くわかっていなかったので現場作業から入ったことだ。原木市場は、山か…

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木の記憶03/木造建築が好きなんですよね?

 仕事柄「木造建築が好きなんですよね」という前提でお話が進んでいることがあるのだが、本当に良いよねと感じたのはここ最近だと思う。  小さい頃は築100年以上の木…

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木の記憶02/山とおとぎ話

 最初の木との出会いってなんだろうと振り返ってみると、父親がクラフトハウスYASMAという木工所で木工をしていたので、家は常に木に溢れていたことを思い出す。でも一人…

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木の記憶01/五感が覚えている。

 70年近く生きていると、想い出は多様で膨大で、とりとめがない。テーマを木に絞ってみても、物心つく頃からつい昨日のことまで、大海のごとくだ。それらは、アルバムにキ…

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プロローグ

プロローグ

 ヤブクグリという山や森や木のことを考えるチームを作って早10年以上が過ぎたが、今でもヤブクグリがいったい何の団体か分からない人が多く、自分たちでもうまく説明できないでいる。しかし、山や、森や、木が好きな人たちが集まっていることは、最初から変わらない。ホームページが新しくなるこのタイミングで、メンバーの山や森や木への想いをここに綴っていくことで、その人格が少しでも伝わっていくことができればと思い、

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木の記憶07/焚火

木の記憶07/焚火

 その日は以前からの山の友だちたちと一緒に、登山に出かけていた。このところ忙しく、山を忘れているような生活をしていたが友だちに誘い出されたのだった。山を越えてくる雲が美しかった。そればかりでなくこうしているうちに、何もかもが、これまでは気づかなかった美しさを見せてきた。森の中で名前のわからない鳥がよく鳴いていた。その声を立ち止まって聞いていると、僕を取り囲んでいる周囲が段々と自分に馴染んで来るのを

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木の記憶06/柱のしるし

木の記憶06/柱のしるし

 居間と子ども部屋をつなぐ家の柱にたくさんのしるしがある。娘や家に遊びに来た子どもたちの身長を記録したしるしだ。
わが家は千客万来。盆正月も関係なく親戚がよく集まる。すると、娘たちの従兄弟らはちょっと見ない間に身長がぐんと伸びていて、はじめは背中を合わせて背比べをしていたが、いつの頃からか、柱に身長を書き記すようになった。柱に立たせ、頭上ギリギリに鉛筆を当て、線を引く。名前と月日を書き込む。ひとり

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木の記憶05/匂い

木の記憶05/匂い

 匂いは記憶を強く喚起させる。古い写真を見ても、何となくその時を思い出す程度だが、匂いが引っ張り出してくる記憶は単なるイメージではなくて、360度の感覚で、その時抱いた感情さえもリアルに呼び起こす。かつては日常の中にあり、普通に感じていた空気感、でも今は完全に過ぎ去り、記憶の片隅で完全に眠っていた感覚だ。
 娘に「お父さんは木の匂いがする。」と言われたことがある。でも多分それは、木だけから来るもの

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木の記憶04/今日が一番キツかった。

木の記憶04/今日が一番キツかった。

 木の記憶と言われて思い出すのは、20数年前に(株)九州木材市場に入社し、杉や桧・木材のことを全くわかっていなかったので現場作業から入ったことだ。原木市場は、山から来た丸太を選木機に通してフォークリフトで運び、はい積み作業(※)をし、販売までを行っている。当時、機械化が進んでいなかった現場作業は、この作業を人力で「とび」と言われる”かぎ爪のついた棒”で丸太を揃えるところから行っていて、ぼくの木材人

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木の記憶03/木造建築が好きなんですよね?

木の記憶03/木造建築が好きなんですよね?

 仕事柄「木造建築が好きなんですよね」という前提でお話が進んでいることがあるのだが、本当に良いよねと感じたのはここ最近だと思う。
 小さい頃は築100年以上の木造の家に住んでいた。子供ながらに「暗いから怖いし、ギシギシ音はするし、隙間から風が入って寒いし」というあまり良い印象ではなかった。その家の柱がシロアリにやられたことがきっかけで、住居部分のみ新築することになった。両親は改修も試みたが、あまり

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木の記憶02/山とおとぎ話

木の記憶02/山とおとぎ話

 最初の木との出会いってなんだろうと振り返ってみると、父親がクラフトハウスYASMAという木工所で木工をしていたので、家は常に木に溢れていたことを思い出す。でも一人暮らしをする時期まではこれが普通だと思っていたので、意識的ではない。そう思って、もっと遡ってみると、あったあった、ありました。伐株山(きりかぶさん)と木を運ぶトラックとテレビCM。

 伐株山は、日田市を流れる三隈川の上流に位置する玖珠

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木の記憶01/五感が覚えている。

木の記憶01/五感が覚えている。

 70年近く生きていると、想い出は多様で膨大で、とりとめがない。テーマを木に絞ってみても、物心つく頃からつい昨日のことまで、大海のごとくだ。それらは、アルバムにキチンと整理されていると言うよりは、身体と心の奥深くに染み込んでいて、もはや一部になっているような気もするのである。それでも、残像を辿ってみると、60年以上前に家族で暮らした佐賀市内のお寺が想い浮かぶ。
 間借りをしていた和室二間の縁側寄り

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