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木の記憶06/柱のしるし

 居間と子ども部屋をつなぐ家の柱にたくさんのしるしがある。娘や家に遊びに来た子どもたちの身長を記録したしるしだ。
わが家は千客万来。盆正月も関係なく親戚がよく集まる。すると、娘たちの従兄弟らはちょっと見ない間に身長がぐんと伸びていて、はじめは背中を合わせて背比べをしていたが、いつの頃からか、柱に身長を書き記すようになった。柱に立たせ、頭上ギリギリに鉛筆を当て、線を引く。名前と月日を書き込む。ひとりがやると、おもしろがって「ぼくも測って〜」と子どもたちが近寄ってくる。家に遊びに来た友人の子どもたちも柱のしるしを発見し、私も測りたいと可愛くせがんだ。私の名前なんていくつも柱に刻んである。もう伸びもしないんだから1回だけでいいのに、子どもたちと一緒になって競り合ったのだろう。
 やがて、しるしは柱の高い位置へと刻まれるようになり、バスケ部の甥っこに至ってはもう書き込めないほど背が高くなった。彼は、昔の自分のしるしを見ては懐かしんでいる。成人した娘たちも、さほど伸びずか測る機会がなくなった。柱は静かだ。
 一番低いしるしは? と、ふと気になりしゃがんで見ると、娘が幼い頃から大事にするぬいぐるみの名前が書いてあった。いつの間に…。
 それぞれのしるしにそれぞれの記憶がある。子どもたちは社会に出てこれから色々なことが起こるだろう。つらいことや大変なことだって。
 柱も私も見守ることしかできないが、しるしを残していたことになんだかホッとした。(連絡・源流係 音成葉子)

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