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木の記憶09/山の中で育つ

 昭和50年頃、小学生だった私は、天瀬町の山の中、玖珠川沿いの道から急坂を登った袋小路の村で育ちました。家の前には田んぼが広がり、周りは杉の山に囲まれていました。田んぼの畦道には浅い用水路があり、メダカやカニ、カエルを捕まえるのが日課でした。隣の家は昔の庄屋で、山主が住んでおり、毎日のように山の手入れをしていました。
 ある時期、杉の木の伐採を数日見ることができました。緑の山は、所々茶色に変わり、チェーンソーの音が反響し、鉄索を使って木材を運ぶ様子は圧巻でした。鉄索は山の斜面に木で組んだ架台を据え付け、木材を束ねてロープウェイのように運ぶ仕組みでした。田んぼの上を木材が飛んでいる風景は、まさに壮観でした。伐採した木材は馬搬(どんだびき)で運び、起伏のある狭い道を10本ほどの木を束にしてゴロゴロと音を響かせながら進む。馬に大声で指示を飛ばす姿に、小さな私は圧倒されました。木の伐採は鉄索、馬搬、トラックに積んで運ぶ。その先は、大工の手によって家の柱になるのだと想像していました。
 木にまつわる思い出は他にもたくさんあります。ナタを片手に裏山に入り、雑木林を切り開きながら進むと、見たことのない植物や木の実、大きな蜘蛛の巣、キジに出会うこともありました。気に入った木を見つけては家に持ち帰り、ナタで削って木刀を作り、友達とチャンバラごっこを楽しんだりしました。木と木の間を葛をロープにして渡る、ターザンごっこのスリルは格別でした。友達と秘密基地を作り、戦争ごっこもしました。枝で作った弓矢やゴム銃、木刀を武器にして戦いました。
 モズを捕まえるために、果実を餌にした首絞め罠を仕掛けた。そのモズを家に持ち帰り、毛をむしって火で炙り、「焼き鳥だぞ!」と大はしゃぎでみんなで食べた。ハツのような歯ごたえで、これがまた美味しかった。実は当時、焼き鳥っていうのはモズやスズメのことだと信じていました。本当は鶏だとは知らなかった。
 ある時、テレビで見たクリスマスツリーに憧れて裏山の2mぐらいの檜を切り、クリスマスツリーの飾り付けの準備をしていたら、隣のおじさんが訪ねてきた。境界線で植えていた木を斬ったのは誰かと。その時、山には境界線があることを知った。怒られると思いましたが、注意されただけで済みました。
 天気の良い日は、裏山の神社のさらに上の山は気持ち良い風が吹く。木に腰掛けて遠くを眺め、風が木の間を通り抜ける瞬間に自然の神様が自分の中に入り込むような感覚を覚える。その時の安心感は今でも残っている。
 こうした山村での暮らしは、自然と共に過ごす豊かな体験に満ちていました。木々に囲まれた日々の中で、自然の未知の楽しさを育んだ記憶は今でも鮮明です。

(名産品係/梶原道生/カジワラブランディング株式会社)

ビワの実の収穫体験。

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