宮崎本大賞のnote( https://note.com/miyazakibon/ )で公開されているショートストーリー集「好きなページはありますか。」の執筆を小宮山剛が務めてい…
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2023年1月の記事一覧
8.わたしたちの一冊、彼女だけの一生:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
そんな不気味なまでに丁寧な文章で始まる手紙を受け取ったのは、今から6年前の冬だった。冬がいっそう深まるちょうどこの頃、1月の終わりだ。
実際のところその手紙は、かなり不気味だった。わたしが喫茶「ロンリイ」で時間働きをしていたのは手紙を受け取る10年以上も前のことで、たしかにお店でわたしに声をかけてくる男の人はたくさんいたけれど(手紙とか、寮の電話番号とか、いろんな贈り物とかをもらったっけ)、お店
7.沈黙するストーブ、踊るページ:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
「河野先生、残業するんやったら無駄な電灯は消しとってくださいよ」
「ああ、はい。すみませんです。後藤先生もお疲れさまでした」
正月気分が抜けきらぬ気だるさが、目の前の紙の束をいっそう分厚く見せる。職員室に置かれただるまストーブが「キン」と音を立て、儚い金属音は誰の返事も待つことなく夜闇に消えていった。
ストーブは再び沈黙した。やはり、この街の冬は暗い。
後藤先生は私よりも二つ下なのだが、九