少し地上で生きすぎていると感じるときは、 思い切って高い場所に登る 天と地の境目、 限りなく空に近いところまで登り、 広大な空と、 ミニチュアな町を ぼんやりと…
あなたに、手紙を描きたい どこにもいない、そしてどこにでもいるあなたへ あなたは今、どこに隠れているのですか 私には、あなたが見えません どこに行ってしまったので…
生前の約束 「怖くて怖くて、たまらないのです」 そう言う少女の目は、どこまでも静かな湖面のようで、 なんの色も読み取れない なにが怖いのだ? そう問うと、少女は相…
雨の日の扉 雨の日が好きだ 普段はそれ以上でもそれ以下でもない人間の街が、 道路も、 建物も、 公園も、 全てが自然の水をかぶって反射する 美しいこの世界を反射す…
螺旋階段 螺旋階段のようにぐるぐると、 「日々」は同じように、 しかし着実に下っている 螺旋階段のてっぺんには 「理想」があって、 それは神々しく辺りを照らすが、 …
セカイ 喧噪が絶えない都会の片隅で、 寝たきりの老人は、ランプの下がった天井を見つめながら思考を飛ばす 天井の上には 雲があり、 雲の上には 空があり、 空の上には …
言葉の重力 一体全体どうして、この人の話す言葉には重力があるのだろう? 若者は、目の前で語る小さな老婆を見つめながら考える 言葉に重力があると知ったのは、この老…
夢のなかのあの人 夢の中で見たあの人は、 現実のあの人とは似ても似つかなかったのに、 わたしはひとめであの人だとわかった その人の姿、表情、話し方、 どれをとって…
ことばの一生 ほんとうののことばを追い求める すると、確かにこの先に見えたはずのそのことばは、 まるで煙のように すっと姿を眩ませてしまう 見失って、私は立ち止ま…
だれでもなくなって 私じしんが、 私という物語の主人公になっていけばいくほど、 想像の世界の生き物は ぼうっと霞んでいく 私が現実世界に満足すればするほど、 私を取…
生きるということ 生きるということは、何かを成し遂げることだと思っていた 何者かになりたくて勉強し、 何かを掴み取りたくて学…
風の大地 風の大地を歩ける者でありたい たとえ、ビルが立ち並び 排気ガスが絶えない街で 生き物の入り込む隙間もない コンクリートの上を歩んでいても 私の周りには、 …
絶望と希望の狭間で 絶望して、絶望して、絶望を極めてゆくと、 ある時点で、絶望しきれない己に気付くことがある。 するすると、全ての希望の網をすりぬけて、 ただ一人…
朝靄 刺すように冷たい空気に揉まれながら 朝靄に包まれた世界の始まりを行く 世界の始まりは、いつだって冷たい 冷涼な空気は、何一つ余…
だれでもない詩人
2022年1月29日 09:14
少し地上で生きすぎていると感じるときは、思い切って高い場所に登る天と地の境目、限りなく空に近いところまで登り、 広大な空と、ミニチュアな町をぼんやりと、満足のゆくまで眺めてみるそうしているうちに、頭と身体だけを対流していた血液がゆっくりと動きを変え、届いていなかったあらゆる場所に、時間に、セカイに、脈々と流れ込んでゆくそうして空と密かに交わした約束だけを抱え
2022年1月24日 10:43
あなたに、手紙を描きたいどこにもいない、そしてどこにでもいるあなたへあなたは今、どこに隠れているのですか私には、あなたが見えませんどこに行ってしまったのですかあなたがいないと、私の心は満たされません偽りの幸福で、満たされていると錯覚しても、自分は恵まれている身なのだと、相対的な視点で自分自身を納得させようとしても、私は、心のどこかで知っているのですそんなもので誤魔化しても、
2021年8月1日 22:37
生前の約束「怖くて怖くて、たまらないのです」そう言う少女の目は、どこまでも静かな湖面のようで、なんの色も読み取れないなにが怖いのだ?そう問うと、少女は相変わらず前をひたと見つめて言葉を紡いだ「存在することです」それを言って、少女は押し黙ってしまった永遠の時間が経ってから、少女はまた口を開く「あなたは、存在するものに、存在の意味を与えないまま、送り出しになるのでしょう」それ
2021年6月27日 14:02
雨の日の扉雨の日が好きだ普段はそれ以上でもそれ以下でもない人間の街が、道路も、建物も、公園も、全てが自然の水をかぶって反射する美しいこの世界を反射する雨が降った日、この世界とあの世界の境界が、開かれる私たちは、あらゆる場所に現れた扉をくぐって、あらゆる世界に飛び込んでゆく
2021年6月4日 07:27
螺旋階段螺旋階段のようにぐるぐると、「日々」は同じように、しかし着実に下っている螺旋階段のてっぺんには「理想」があって、それは神々しく辺りを照らすが、光が強すぎて、それが一体何なのかははっきり見ることができない「理想」を出発し、永遠とも思われる「日々」を下り始めてから一体どれくらいの時が経つのだろう?出発してすぐは、背後の光が真っ白に眩くて、全てを包み込んでしま
2021年5月23日 08:56
セカイ喧噪が絶えない都会の片隅で、寝たきりの老人は、ランプの下がった天井を見つめながら思考を飛ばす天井の上には雲があり、雲の上には空があり、空の上には太陽があり、太陽の上には宇宙があり、宇宙の上には未知があるしかしながら、人間として懸命に生きすぎた人は、天井までの世界でしか生きられなかった天井の上の雲も、空も、宇宙も、未知も人間の住処の外へ追いやられてしまっ
2021年5月14日 07:38
言葉の重力一体全体どうして、この人の話す言葉には重力があるのだろう?若者は、目の前で語る小さな老婆を見つめながら考える言葉に重力があると知ったのは、この老婆に出逢ってからだそれまでは、言葉なんて風に舞う葉よりも空虚で、持ち主の口を離れたとたんにどこかへ飛んで行ってしまうものだと思っていた少なくとも、若者の周りには、幻よりも実体のない言葉を振りまく人間しかいなかっただが、違う
2021年5月10日 09:15
夢のなかのあの人夢の中で見たあの人は、現実のあの人とは似ても似つかなかったのに、わたしはひとめであの人だとわかったその人の姿、表情、話し方、どれをとっても違うのに、わたしにはすんなりとその人がその人であることがわかったのだああもしかしたら人間は、現実よりも夢の世界を生きているときのほうがずっと、神に近い目を持ちうるのかもしれない人の蠢く感情の底に沈むほんとうの姿を、
2021年5月9日 08:20
ことばの一生ほんとうののことばを追い求めるすると、確かにこの先に見えたはずのそのことばは、まるで煙のように すっと姿を眩ませてしまう見失って、私は立ち止まるどんなに目をこらしても、必死に痕跡を辿っても、そこにはなにもないまるで、最初から存在しなかったかのようにただ、恋焦がれるように求めざるを得なかったことばが、確かに存在したはずなのだそんな朧げな記憶が、巨大な喪失感とと
2021年5月8日 07:44
だれでもなくなって私じしんが、私という物語の主人公になっていけばいくほど、想像の世界の生き物はぼうっと霞んでいく私が現実世界に満足すればするほど、私を取り巻いていた豊かな世界たちは、だんだんと薄れてしまいには私の意識ではとらえられなくなってしまう見えないものの存在がはっきり感じられるときは私が私でありすぎないときだ私という存在から離れて、名前も立場も役割も、何も
2021年5月6日 07:31
生きるということ 生きるということは、何かを成し遂げることだと思っていた何者かになりたくて勉強し、何かを掴み取りたくて学問し、学問に失望して世界を渡り歩き、私は何のために生きているのかと問い続けた私は、これでないと思うものはとことん捨てた捨てなければ、進めない私を掴んで引きずり降ろそうとする数多の手を振り払うためには、己の信じるもののみを
2021年5月5日 10:22
風の大地風の大地を歩ける者でありたいたとえ、ビルが立ち並び排気ガスが絶えない街で生き物の入り込む隙間もないコンクリートの上を歩んでいても私の周りには、どこまでも続く大地が広がっている碧空を仰ぎ風の声に呼応しながら両手を広げてただただ果てしない緑の地を歩む鳥の鳴き声を、風の声が追いかける私は大地を踏みしめ、大地は私を押し上げる大地を分断する人間の痕跡と時間を分
2021年5月3日 12:55
絶望と希望の狭間で絶望して、絶望して、絶望を極めてゆくと、ある時点で、絶望しきれない己に気付くことがある。するすると、全ての希望の網をすりぬけて、ただ一人、奈落の底へと永遠に落ちていくかのように思えたのに、もう二度と、はるか上の方で笑いながら生きている人々の元へは登っていけない、あまりにも己は落ちすぎてしまったと思ったのに、全ての気力を放り出し、絶望に身を任せ、暗闇へ、
2021年5月3日 11:37
朝靄 刺すように冷たい空気に揉まれながら朝靄に包まれた世界の始まりを行く世界の始まりは、いつだって冷たい冷涼な空気は、何一つ余計なものを含んでいなくて、心もからだも始まりの水で満たしていく早起きの鳥が鳴きかわす声まだ太陽の明るさに慣れていない控えめの空一度として、同じ日はないことを知っている草木たちが、新たな世界の始まりに体を震わせながらこ