生きるということ

生きるということ

                 

生きるということは、何かを成し遂げることだと思っていた

何者かになりたくて勉強し、
何かを掴み取りたくて学問し、
学問に失望して世界を渡り歩き、
私は何のために生きているのかと問い続けた

私は、これでないと思うものはとことん捨てた
捨てなければ、進めない
私を掴んで引きずり降ろそうとする数多の手を振り払うためには、
己の信じるもののみを頼りに
突き進むしかなかったのだ

ひとたび満足してしまえば、
あとは妥協の道を転がり落ちるだけ
人生に敗北した大多数の連中のように、
揉まれ呑み込まれ
甘ったるい人生に安住するのだけは
己が己に許さなかった

私は、突き詰めて、突き詰めて、突き詰めた
そして、たどり着いた
己の求めていたはずの玉座に

たどり着いた場所には、
しかし、
何もなかった
さらさらの砂が、指の間から零れ落ちるように、
己が追い求めていたものは、いともたやすく
あとかたもなく消えてしまった

そして、悟ったのだ
ああ、生きるということは、こういうことだと

何かを成し遂げることなど誰にもできない
できるのは、成し遂げたと思い込むことだけ
人間は永遠に成し遂げられない

だって世界は永遠で、
私は永遠の一部だから


永遠の道を、永遠に行くよりほかはないのだ


人の時間には、奥行きがある
その一瞬一瞬に、壮大な物語を含む
宇宙なんてはるかに超えてしまうような
人間のバカらしいお花見さわぎの奥の奥に
広がっている
果てしない世界たち

今ここにいる私は、
全体である私の、
たった一部でしかないのだ


そのことを、己の中の住人が理解した瞬間、
私はもう
生きることを始めていた






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?