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#小学生

「天才とホームレス」 第10話

「天才とホームレス」 第10話

僕は母親を見下していた。

いつも自信がなさそうで、
いっつも自分の意見じゃなくて、
いっつもパパに見下されてる。

僕はそんな母親に、最近イラついていた。

僕らが初めて負けたあの日の夜、
もう耐えられなくなって、全部ママにぶちまけた。
どうせこんなこと、言ってもわからないだろうけど、と思いながら。

牧場のこと、おっちゃんのこと、僕らが考えたビジネスのこと、それに対する社長の答え、、、
良いこ

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『公園物語』 その8

『公園物語』 その8

炎天下の2時間鬼ごっこはキツい、、、。

ラジオ体操に行き続け、3日に1回は鬼ごっこに誘われる。
どうして小学生は鬼ごっこが好きなんだろう。
僕が鬼の時が面白すぎるので(大人だからわがままも暴言もぶつけられる)、
「もう、あんたがずっと鬼やってよ!」
、、、それのどこが面白いんや、、、。

とまぁこんな感じで順調に仲良くなる。

2週間はあっという間に過ぎた。

そのラジオ体操をやっているのは、林

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「天才とホームレス」 第9話

「天才とホームレス」 第9話

「あ〜、これはビジネスとしてはダメだねぇ〜」
その言葉に、目の前が真っ白になった。

「いや、あくまで、、、」
社長さんは続けるが、そのあとの言葉が入ってこない。
てっぺいもあんぐり口をあけている。

「今日はもうやめとこっか」
ニコニコしながら社長が言った。
僕はハッとして、
「あ、すみません、、、
 あの、、、」

「いや、わかるよ。
 ごめんね、キツイこと言って。
 おっちゃんに本気でやれっ

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『公園物語』 その7

『公園物語』 その7

朝、7時に目が覚めた日は、散歩に出ることにした。

我が家の朝は遅い。
自慢じゃないけど遅い。

子育てが始まってから、仕事がないにも関わらず、
自分一人で静かにする時間は少なくなっていた。
当然だ。

でも、静かにする時間は僕にとって必要だった。
放っておいたらカラカラと回り出してしまう頭を、空っぽにする時間だからだ。

何も考えずに「ただ生きる」ということを、
僕は妻から教わった。
もちろんな

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「天才とホームレス」 第8話

「天才とホームレス」 第8話

さっそくロードマップをおっちゃんに見せる。

おっちゃんはじっくり見た後、ニヤリと笑って
「あとは社長と話せや」
と、言った。

3人で猪肉を食べて解散した。

次の日、河川敷にあの3人が遊びにきていた。
宇宙の映像を夜まで眺めていたあの3人だ。
町工場に派遣されて3ヶ月ほどが経っていた。
数学女子のセナ、パソコンオタクのハマ、日焼け坊主のヤヘイである。

昨日に引き続き、河川敷は宴会である。

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「天才とホームレス」 第7話

「天才とホームレス」 第7話

河川敷に着くと、目一杯に紙を広げて、
てっぺいが何かを描いていた。
牧場で描いていた地図に熱心に書き込んでいるようだった。

それが読めない文字なのか、絵なのか、僕にはわからない。
でもとにかく思いつくままに書き殴っている。
出てくるアイデアに手が止まらないという感じだ。

おっちゃんは微笑みながら、その横を通って家に入っていった。
僕はてっぺいをずっと見ていた。

一時間が経つ。
てっぺいはまだ

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「天才とホームレス」 第5話

「天才とホームレス」 第5話

中学が始まるまでの春休み、
僕らは毎日おっちゃんのとこにいた。
朝から晩までだ。

あれからママがとやかく言うことはなくなった。
まだパパとは話せていないけど。
おっちゃんはそのことについて、何か聞いてくることはなかった。

その日、おっちゃんのナワバリの広さに、さらに驚くこととなった。

朝、おっちゃんが「肉が食べたい」とつぶやいたかと思うと、農具を置いて歩き出した。
僕らも声をかけられて、おっ

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「天才とホームレス」 第3話

「天才とホームレス」 第3話

てっぺいは「教室ビジネス」を急速に発展し始めた。

家庭教師が教えてくれたことがある。
「良いビジネスモデルは売れる」
僕はこのとき、この言葉を理解した。

てっぺいはクラスに弟子を作り始めたのだ。

「えんぴつけずり」「消しごむハンコ」の注文は増え続けていた。
そして自分でもできるんじゃないか、という男たちも出てきていた。
それを見て、「教えてやろうか」と声をかけていったのだ。

そして注文をそ

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「天才とホームレス」 第2話

「天才とホームレス」 第2話

日曜の夜、僕にパパとの交渉の場が設けられた。

毎日あった家庭教師を半分に減らしたい。できるだけあの河川敷のブルーシートの家で、てっぺいとおっちゃんと過ごしたい。そして門限を6時に設定し、余計な心配をされるリスクを減らしたい。だから、まずてっぺいの話をしてその次、、、

「ダメだ」
は?

なにも言っていない内に放たれたパパの一言目がそれだった。
あまりの強引さにイラついた。
用意してただけに狼狽

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「天才とホームレス」 第1話

「天才とホームレス」 第1話

小六のこんな中途半端な時期に転校してきたコイツは、ひどく個性的な見た目をしている。

髪の毛はボサボサで、服は汚れていて、ずっと口を開けている。
授業中もずっと歌ってるし、貧乏ゆすりもひどい。
黒板を見ることもなく、何かをノートに書き殴っている。

かと言ってずっとひとりぼっちなわけじゃなく、休み時間になるとクラスの人気のある女子を口説いていた。
とにかくマイペースで周りの目は気にしない。
だいぶ

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小説「洋介」 13話

小説「洋介」 13話

 始業式の朝。
教室につくと、久しぶりに見るあの子がいた。
なんとなく緊張してしまった。
あのあと何度か河原に行って練習をしていたが、結局冬休みの間は一度も会えなかった。

そのときは目が合っただけで会話なかった。
他の女子と話していたし、そのあとすぐに体育館に移動したから。
そして校長のあいさつやら、連絡事項があり、その間、一度も会話はなかった。

すぐに帰る時間になり、校門を出たところで彼女が

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小説「洋介」 12話

小説「洋介」 12話

 冬休みに入って一週間が過ぎた。

 親戚が家に来たり、家族でおばあちゃんの家に行ったりした。
普段は仕事で忙しい両親に、ここぞとばかりに連れ回されて、僕も忙しかった。
そのため、冬休みに入ってから河原には、行くことすらできなかった。つまりはあの子にも会えない。
会うためには家に直接行くしかない。
河原からすぐのところにあるらしい。
三丁目のスーパーの近くの一軒家らしい。
探せばすぐ見つかるだろう

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小説「洋介」 11話

小説「洋介」 11話

 決意の翌日。

 学校であの子を見つけると、うれしくなって「おはよう!」と笑顔で話しかけた。
僕の前日からの変わりように彼女は驚いているようだった。
そうだった、昨日は気まずかったんだっけ。

彼女は少し照れくさそうに「おはよう」と言ってくれた。
その間に流れる空気に少し緊張した。
でも、自然な流れにゆだねようと決めたのだ。
リラックス、リラックス、感情が自然に出てくるままに。
緊張はあっても、

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小説「洋介」 10話

小説「洋介」 10話

 次の日の学校。

 ロクにあの子の顔を見ることができない。
さっと顔を避けてしまう。
彼女もこっちを見ないようにしている気がした。

 放課後、河原に行ったが、とても練習する気にはなれない。
今日、あの子が来る可能性は低いけど、なんとなく土手に座って、あの子のことを考えていた。
「どうしてキスしたくれたんだろ。僕のことすきなんかなぁ」
そんなことを、足をバタバタさせながら、にやにやして考えた。

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