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#小学生

「天才とホームレス」 第5話

「天才とホームレス」 第5話

中学が始まるまでの春休み、
僕らは毎日おっちゃんのとこにいた。
朝から晩までだ。

あれからママがとやかく言うことはなくなった。
まだパパとは話せていないけど。
おっちゃんはそのことについて、何か聞いてくることはなかった。

その日、おっちゃんのナワバリの広さに、さらに驚くこととなった。

朝、おっちゃんが「肉が食べたい」とつぶやいたかと思うと、農具を置いて歩き出した。
僕らも声をかけられて、おっ

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「天才とホームレス」 第3話

「天才とホームレス」 第3話

てっぺいは「教室ビジネス」を急速に発展し始めた。

家庭教師が教えてくれたことがある。
「良いビジネスモデルは売れる」
僕はこのとき、この言葉を理解した。

てっぺいはクラスに弟子を作り始めたのだ。

「えんぴつけずり」「消しごむハンコ」の注文は増え続けていた。
そして自分でもできるんじゃないか、という男たちも出てきていた。
それを見て、「教えてやろうか」と声をかけていったのだ。

そして注文をそ

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「天才とホームレス」 第2話

「天才とホームレス」 第2話

日曜の夜、僕にパパとの交渉の場が設けられた。

毎日あった家庭教師を半分に減らしたい。できるだけあの河川敷のブルーシートの家で、てっぺいとおっちゃんと過ごしたい。そして門限を6時に設定し、余計な心配をされるリスクを減らしたい。だから、まずてっぺいの話をしてその次、、、

「ダメだ」
は?

なにも言っていない内に放たれたパパの一言目がそれだった。
あまりの強引さにイラついた。
用意してただけに狼狽

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「天才とホームレス」 第1話

「天才とホームレス」 第1話

小六のこんな中途半端な時期に転校してきたコイツは、ひどく個性的な見た目をしている。

髪の毛はボサボサで、服は汚れていて、ずっと口を開けている。
授業中もずっと歌ってるし、貧乏ゆすりもひどい。
黒板を見ることもなく、何かをノートに書き殴っている。

かと言ってずっとひとりぼっちなわけじゃなく、休み時間になるとクラスの人気のある女子を口説いていた。
とにかくマイペースで周りの目は気にしない。
だいぶ

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小説「洋介」 13話

小説「洋介」 13話

 始業式の朝。
教室につくと、久しぶりに見るあの子がいた。
なんとなく緊張してしまった。
あのあと何度か河原に行って練習をしていたが、結局冬休みの間は一度も会えなかった。

そのときは目が合っただけで会話なかった。
他の女子と話していたし、そのあとすぐに体育館に移動したから。
そして校長のあいさつやら、連絡事項があり、その間、一度も会話はなかった。

すぐに帰る時間になり、校門を出たところで彼女が

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小説「洋介」 12話

小説「洋介」 12話

 冬休みに入って一週間が過ぎた。

 親戚が家に来たり、家族でおばあちゃんの家に行ったりした。
普段は仕事で忙しい両親に、ここぞとばかりに連れ回されて、僕も忙しかった。
そのため、冬休みに入ってから河原には、行くことすらできなかった。つまりはあの子にも会えない。
会うためには家に直接行くしかない。
河原からすぐのところにあるらしい。
三丁目のスーパーの近くの一軒家らしい。
探せばすぐ見つかるだろう

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小説「洋介」 11話

小説「洋介」 11話

 決意の翌日。

 学校であの子を見つけると、うれしくなって「おはよう!」と笑顔で話しかけた。
僕の前日からの変わりように彼女は驚いているようだった。
そうだった、昨日は気まずかったんだっけ。

彼女は少し照れくさそうに「おはよう」と言ってくれた。
その間に流れる空気に少し緊張した。
でも、自然な流れにゆだねようと決めたのだ。
リラックス、リラックス、感情が自然に出てくるままに。
緊張はあっても、

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小説「洋介」 10話

小説「洋介」 10話

 次の日の学校。

 ロクにあの子の顔を見ることができない。
さっと顔を避けてしまう。
彼女もこっちを見ないようにしている気がした。

 放課後、河原に行ったが、とても練習する気にはなれない。
今日、あの子が来る可能性は低いけど、なんとなく土手に座って、あの子のことを考えていた。
「どうしてキスしたくれたんだろ。僕のことすきなんかなぁ」
そんなことを、足をバタバタさせながら、にやにやして考えた。

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小説「洋介」 9話

小説「洋介」 9話

 最近は日が沈むのも早くなった。
河原に来ても、長くいられないのが残念だ。
夕日に間に合わないこともあった。

でも浮くまでのスピードも、ずいぶん早くなった。
最初の時は、浮くのはいつも、ピンポン玉ぐらいの大きさの、きれいな丸い石だった。
最近は、違う石が浮くこともある。大きめの石も時々浮く。。

この時はまだ、特定の対象を浮かすというよりは、浮いてくるのを待つという感じだった。どうやって浮く石が

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小説「洋介」 8話

小説「洋介」 8話

 石を浮かせられるようになったと、僕は確信した。
その方法を掴んだ、と。
あれから何度も、石を浮かせることに成功した。
特に意識していないが、いつも浮いてくる石は同じな気がする。

しかも、どんどん早くなっている。
浮かせるまでの一つ一つのポイントも言葉にして理解できている。
うれしい。
特に何がしたいとかじゃないけど、うれしい。

さらに熱心に、毎日夢中になって練習した。
練習は河原でのみ、ほか

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小説「洋介」 7話

小説「洋介」 7話

 河原についた。
誰もいなかった。
河原に来るともう、自然にスイッチが入る。
太陽のほうに体は向いていて、集中に入る。
ここまでは無意識だ。

心を静めて、自分の中の声を聴く。
目を閉じているよりは明るいほうをぼうっと見ているほうが集中できる。

「ん?あれ?お?」

 ぐんぐん集中が進んでいく。
今日はなんだか調子がいい。

自転車が乗れるようになった時を思い出した。
一度できたら、できなかった

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小説「洋介」 6話

小説「洋介」 6話

 次の日の学校。女子に話しかけられた。
「なぁ、昨日河原おらんかった?」
 ギクリ。なんとなく嫌な気持ち。
河原の練習のことを知られたら自分の世界に集中できなくなる。

「いやまぁ帰り道やし」
 ちょっとぶっきらぼうになってしまった。

「ふーん。なにしてたん?」
「べ、別に。ただ河原すきやねん」
「そうなん?!私も!」
 いきなりテンション上がるやん。
クラスで話すときは関西弁になるんだ。

 

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小説「洋介」 5話

小説「洋介」 5話

 初めに石が浮いてから3か月。
二回目から2ヶ月。
今日もいつものように、誰もいない河原で練習していた。

もはや石を浮かそうという気持ちは薄れている。
むしろこの静まる時間が好きになっていた。
石を浮かすことは頭の片隅にそっとある、という感じだった。

ちょうど1時間ぐらいたち、周りの色がオレンジを過ぎ、青が少し混じってくるころが好きだ。
心は静かに、温かい気持ちになっていく。

そして段々と、

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小説「洋介」 4話

小説「洋介」 4話

 うちの家族の帰りは遅い。
だから学校の後には大量の暇がある。
そして僕はどうやら変わり者らしい。
あんまり友達はいない。
話はできるやつが何人か。

いいんだ。一人のほうが好きだし。
どうやら周りのみんなもそれをわかっていた。
あんまり焦らない性格だったし、焦りを必要としない環境だった。
そのため他のことは気にせず、石を浮かせる練習にじっくりと時間をかけた。

“心の凝り”をほぐしていくにつれて

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