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【感想】あなたの善意が、時に誰かの心を殺す凶器となるかもしれない。「流浪の月」/凪良ゆう

どこかに理性が残ってた。邪魔だった。

この、わたしの中にある理性のような、正義感のようなものはなんなのだ。
気づけば、「善意をふりまく側」になって読んでいた。
仕事でずっと、子どもと関わっている。中には、壮絶な環境で育った子もいる。だからたぶん、そっち側の立場で読んでしまったのだろう。その仕事をするために、国家資格だって取った。だからもう、感覚として染み込んでしまっているものがある。
資格取得のための授業で叩き込まれるものは、人間に対する尊厳だ。そしてその尊厳を日常生活で具現化したものが、配慮なんじゃないかと思う。この作品でいうところの、善意だ。その感覚がずっとついてまわるものだから、もはや善意が、「偏見」となってつきまとい、わたしの心を支配する。

「壮絶な環境」、それによって勝手に「壮絶な環境で育った子ども」のストーリーが作られ、その子に関わる大人が配慮をする。当然のことだ。そしてそれは経験として積み重なっていく。そのストーリーは、ある子どもとある子どもには通用したかもしれない。けれど、他の子には通用しないかもしれない。にも関わらず、偏見として身についてしまった善意が威力を発し、さらに経験を強固にする。さらなる善意が身につく。善意の雪だるま。そんなものただのはりぼてなのに。

こうした方がいい、読み進めながら何度も思った。然るべき手続きをふんだ方がいい、警察に相談した方がいい、するすると、わたしの心は声を発し、物語の進行にブレーキをかける。それなのに、ページをめくる手が止まらない。この矛盾はなんなのだ。わたしの心は、グラグラと揺さぶられる。自分の中にあった偏見。それを改めて見つめる。下記にあるインタビュー記事で、同様に戒めをしてる人も多いんだなって、わかった。

「4章 彼のはなしⅠ」で、そんな理性と偏見なんて一気にぶっ飛んで、苦しくて泣いた。

全部で313ページ。これほどのページを費やしても、その中で強く強く、誰かのことを想っても、その思慕には名前がない。この二人の関係性にも名前がない。その名前のない世界の中で、生きるということ。つきまとう情報と好奇の目。不安と恐怖。けれど、二人でいたら、二人にさえ、わかりあえる確かなものがあれば、そこにあるのは安心と平穏、なのかもしれない。「いつ」とか「どこで」が問題じゃない、出会いって。

インタビュー記事を読んだ。
「家族の絆」の美しさと正しさに、追い詰められていく人もいる、と題されたインタビュー。
(https://mi-mollet.com/articles/-/23471)
凪良さんがBL出身の作家さんだというのは別のインタビューで知っていて、文の描写はまさにBLという作品から飛び出してきたかのように感じられるほど、美しく儚げだった。
インタビューの中で、「家族」や「絆」に違和感を持っていると語る凪良さん。血縁、というだけでがんじがらめにされる社会。すべて血縁で片付けられると、そこにはまらない人たちは苦しくなる。そんな苦しさを抱えている人にとっては、紛れもなく救いの作品になる。

読み終わってから、パタンと、本を閉じる。改めて見る表紙の写真。この本を開く前とは、全く印象が違って見えた。

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