マガジンのカバー画像

哲学のかけら

70
哲学も少しはかじっています。なにもそんなこと考えなくてもいいんじゃない、と言われるところも、でもさ、と考えてみる、それが哲学。独断と懐疑に終わらずに常に自分の至らなさを認めるあた…
運営しているクリエイター

#読書

『道徳的人間と非道徳的社会』(ラインホールド・ニーバー:千葉眞訳・岩波文庫)

『道徳的人間と非道徳的社会』(ラインホールド・ニーバー:千葉眞訳・岩波文庫)

岩波文庫から、ニーバーの著作が出る。そのニュースだけで、すぐに注文した。ニーバーといえば、キリスト教の世界でその祈りを知らない人はいないであろう。本書でも、訳者解説の最後の頁で紹介されている。
 
  O God, Give us
  Serenity to accept what cannot be changed,
  Courage to change what should be chan

もっとみる
『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

なんとも思想らしくないタイトルである。同時に、一般の人が手に取りやすいタイトルである。「人生」を問うことが、哲学であるかのように見なされやすい日本の風土では、こうした誘いは適切であるのかもしれない。
 
だが、実のところ、この問いは、哲学の中では案外疎い分野である。問われて然るべきであるのに、あまり問題にされない。日本人だからこれを問う、というのではなく、もっと原理的に、根柢的に、この問題は扱われ

もっとみる
『死刑 その哲学的洞察』(萱野稔人・ちくま新書)

『死刑 その哲学的洞察』(萱野稔人・ちくま新書)

テーマは死刑、ただそれだけである。死刑は是か非か。そういうふうに受け止めても構わないだろう。だが、それを試験や感情で片付けるようなことをするわけではない。そもそもどういうことを根拠にそれを肯定するのか、否定するのか、などを考慮しようとする。そこが「哲学的」という意味なのだろう。だが、著者は社会理論を専門分野としているように、プロフィールで紹介されている。社会学的視点というものは、どうしても強く働い

もっとみる
『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

大きな問い。人類の難問。哲学と縛ってよいかどうか分からないが、思想全般において、大きな問題となっていることを網羅する。「大いなる探究の現在地」という日本語が付せられている。一つのテーマを深める営みではないけれども、そもそも「現代思想」誌は、多くの論客の原稿が、10頁ずつくらいの長さで集められたものである。但し1頁あたりの文字数はかなり多いため、ボリュームはなかなかのものだ。連携して思索を展開すると

もっとみる
『神さまと神はどう違うのか?』(上枝美典・ちくまプリマー新書)

『神さまと神はどう違うのか?』(上枝美典・ちくまプリマー新書)

ちくまプリマー新書というのは、もしかすると岩波ジュニア新書を意識したかもしれないが、「プリマー」というからには「オトナ未満」をターゲットにした新書シリーズである。物事を、比較的分かりやすく、ティーンエイジャーに伝わるように説き明かそうとする目的があると思われる。
 
なんだ、若向けか。そんな印象を与えてしまう可能性もあるが、少なくとも本書に限っていえば、そんなことは全くない。ガチである。確かに説明

もっとみる
『現代思想2023vol.51-5 総特集 鷲田清一』(青土社)

『現代思想2023vol.51-5 総特集 鷲田清一』(青土社)

失礼だが、これだけ大きな特集をされるとなると、まさか亡くなられたのでは、と錯覚しそうだった。現代の哲学者としての第一人者であり、大阪大学総長まで務めるという教育者であり経営者でもあった。現象学を学び、それを「現場」で生かす「臨床哲学」という分野をもたらした。とくにファッションというものを哲学から読み取り、またそうした必要性を哲学のために生かした功績は大きい。文章の巧さも光っており、論文もなんだか「

もっとみる
『目的への抵抗』(國分功一郎・新潮新書)

『目的への抵抗』(國分功一郎・新潮新書)

中動態の話からこの著者の本に触れ、その見るアングルが楽しく、また説き聞かせる口調が読みやすいせいもあり、何冊か拝読してきた。その中動態が責任とつながるという切り口は、とてもフレッシュであり、かつ考えさせられた。この著者により、新たにまた新書という手軽に入手できる本が発行されたので、すぐに読みたいと思った。
 
よく見ると「シリーズ哲学講話」とあるので、また続きが出てくることを期待しているが、さしあ

もっとみる
『精神現象学』(100分de名著)に学ぶ

『精神現象学』(100分de名著)に学ぶ

NHKEテレの「100分de名著」も、ずいぶん長く続いている。始まるときのこともよく覚えている。よい番組だ。よくつくりこんでいる。先月には、新約聖書の福音書が、若松英輔さんのよいリードで紹介された。聖書を、読んでみようという気持ちにさせる番組となった。制作者自身がそういう心になったし、世間の評判もよいようだ。これは特筆すべき現象である。
 
これをどうしてキリスト教界がもっとバックアップしようとし

もっとみる
『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

私は電子書籍で読んだ。それが入手しやすいのではないかと思われた。
 
25匹のネコを飼う人の綴る、思索交じりの風景。哲学だけを求める人には、ネコの話が邪魔だろう。ネコだけを愛したい人には、哲学の話がうざいだろう。その意味では、中途半端な本である。だが、あいにく私はどちらも好きだ。楽しくて仕方がない。
 
拾ったり、かくまったりして、なんだかんだとネコが増えていく。
 
著者はギリシア哲学研究家。だ

もっとみる
『良心学入門』(同志社大学良心学研究センター編・岩波書店)

『良心学入門』(同志社大学良心学研究センター編・岩波書店)

同志社大学良心学研究センターは、2015年に設立されたという。「良心」というキーワードを中核として、理系文系に拘わらず、凡ゆる領域で探求するという場であるらしい。現代社会での様々な問題の根柢に、「良心」が関わっているのではないか、という見通しの下、リベラルアーツ教育にも適う営みが始められたのである。
 
同志社大学は、新島襄により創立され、キリスト教主義を基本としている。近年そのリベラルさが、キリ

もっとみる
『現代思想2022年8月 vol.50-10 特集・哲学のつくり方』(青土社)

『現代思想2022年8月 vol.50-10 特集・哲学のつくり方』(青土社)

面白かった。そもそも哲学とは何か。そんなベタなことを問う企画が、近年殆ど見られなかった。あるのは、100年前に生まれたような方々の、真面目な人生論が問いかけて、哲学とは、と語るようなものばかりだった。ポストモダンすら歴史的産物となったような中で、もはやかつての哲学などという姿とは無縁な思想状況となっているようだ。互いに通じない言語を用いてあれこれ論評するかのようなものが、なんだかファッショナブルに

もっとみる
読書の契機と今後

読書の契機と今後

中学生のとき、数学が面白かった。それで、大学でも数学を学ぼうと漠然と考えていた。だが、勉強以外のことに熱を入れたこともあり、数学というものをそれほど真剣に考えていたわけではなかった。数学科を受験したが、かなわなかった。当然だったと言える。
 
その頃、哲学という分野があることを知った。いや、自分の関心のあることが、ひとつの学問として存在しているということを知った、と言ったほうがよかった。なんと知恵

もっとみる