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SF - Sumo Fiction

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狂気に満ちた相撲SFの世界(手動収集)
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#小説

『狂気山部屋にて』

『狂気山部屋にて』

「発狂用意」行司の声がそのように聞こえた、と大関・群馬灘は語った。だが、それ以降の記憶が曖昧だという。

「初めは強く当たって――その後のことはよく覚えていません」

取組のVTRを見ると幕内最重量の巨漢大関が小兵・土根性(どこんじょう)に突き当たり、廻しを取った途端に膝をついて敗れている。決まり手は「腰砕け」とされ、幕内下位の土根性が八連勝で勝ち越しを決めた。

今大会の台風の目となった小兵・土

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ゴジラ対横綱 完全版(2020年)

「観音崎。」

車に乗った横綱はそれだけ言った。ハンドルを握る付き人の大車輪は、たっぷりと10秒は黙って、聞き返さず「はい」とだけ言った。

脳裏に疑問は無限に浮かんだが、全ては無意味だと感じた。横綱が行くと言えば行く。横綱が相撲を取ると言えば取る。やれと言えばやる。それが付き人の大車輪の役目だ。

車が発進する。車内には大車輪と横綱だけ。両者無言だ。

「ラジオ、いいすか。」

「ん。」

大車

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BWD:アヴァタール・リキシ

朝、少年が目覚めるとリキシになっていた。
ベッドを降り、力強く四股を踏み、かしわ手を打つ。まごうことなきリキシである。

「タダシ?どうしたの?」

四股の荒々しき音を聞き付けて少年……タダシの部屋に現れた母親はいるはずのないリキシに卒倒し、床にひっくり返った。

「母さん!」

タダシは床に倒れ伏した母をそのたくましいリキシの腕で抱き上げる。普段のタダシからは大きく見える母はリキシの目線ではひど

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ゴジラ対横綱

「観音崎。」

車に乗った横綱はそれだけ言った。ハンドルを握る付き人の大車輪は、たっぷりと10秒は黙って、聞き返さず「はい」とだけ言った。

疑問は無限に頭に浮かんだが、全ては無意味だと感じた。横綱が行くと言えば行く。横綱が相撲を取ると言えば取る。やれと言えばやる。それが付き人の役目だ。

車が発進する。車内には大車輪と横綱だけ。両者無言だ。

「ラジオ、いいすか。」

「ん。」

大車輪が沈黙に

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ケハヤ・トライバル

神武以来の最速昇進と謳われる新小結・双月。その立会を合わせる時、大関・大破壊は違和感を覚えた。

ブレる。まるで双月が二人居るように、カブって見える。

目をギュッと瞑って、また見るが、ブレる。泥酔したときのように双月が二人に見える。俺もとうとうヤキが回ったかと溜息を吐いた。

今場所はもうカド番なのだ。負ければ降格。膝の古傷を思えば何時まで相撲が取れるかもわからないというのに、横綱どころか大関の

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国技館ロイヤルランブル外伝『ラストクリス升席』

※作者より
本作はカクヨム掲載のためのリライトです。また「 #書き手のための変奏曲 」参加作品でもあります。

トンタントンタン。
トンタントンタン。
トンタントンタントンタントンタン。

シャンシャンと鳴り響く鈴の音に合わせて相撲太鼓が軽快にリズムを刻む。その年は、久しぶりのホワイトクリスマスだった。

相撲シティ両国。日本有数の観光地として知られるこの土地は、雪が降っても喧騒が収まることはない

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ミッド・スモー

ミッド・スモー

 完全無観客会場となった両国国技館。そこでは例年通りに、力士たちが土俵入りの厳粛なる儀式を行っていた。
 土俵中央の行司を円状に囲んで、力士たちがバンザイを行う。普段と異なるのは、土俵上方に、伝説の力士、雷電の図柄が掲げられており、土俵は花畑と化し、土俵中央にP○ntaカードが円状に配置されている点だ。
 角界の理事長が脇に控える小姓につぶやく。
「委細、問題ないな?」
「はい、全国への中継は欺瞞

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星の海は力士の土俵 スペースリキシVSシリーズ  #1200文字のスペースオペラ

星の海は力士の土俵 スペースリキシVSシリーズ  #1200文字のスペースオペラ

ビロードの黒いカーテンに、ネコが爪で穴をあけたが如き星々が瞬く空間を、力士が征く。巨大なスペース障害物が、あの伝説的リキシレスラーが放つロケット頭突きめいた姿勢で巡行する力士の髷にあたっては、何の障害にもならずに砕けて散っていった。

長距離遠洋漁業船「大漁丸」こそが、この力士に名付けられた四股名である。リキシブレインにあたる操縦席で、出てくる時代を間違えている古典的な海の男が艦長席に身を委ねて鼻

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#3

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#3

【前回】大柄な男が小柄な男を背負い、スコップを杖に洞窟を進む。入口は塞がれ、松明も角灯もなく、暗闇の中を歩く。ところどころに光る苔やキノコがあり、ぼんやりと道を照らしている。「くそったれ」「ああ、神よ……」

出口を求め、風の吹いてくる方へ向かったデリックとヴァシリーだが、力鬼士は次々湧いて来て、次第次第に追い詰められる。光る苔やキノコも次第に増える。「な、仲間の方とかは」「いない。俺は単独行動だ

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#2

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#2

【前回】「力鬼士の棲む洞窟に財宝があるって、噂を聞いて。昨日黙って出ていったんです」

デリックは首を傾げた。表情と沈黙に促され、少女、ソフィアは続けた。

「うちは貧乏です。母は二年前の疫病で死んで……父は仕立て職人なので、二人でなんとか食べてはいけます。けれど、きっと私の将来のことを考えて……」少女は顔を手で覆い、また泣き出した。デリックは彼女を宥めながら、店の奥へ連れて行く。女房が事情を察し

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われら新天星開発公団

われら新天星開発公団

泥7節から10節ころのボルスは俗に「新人殺し」と呼ばれる。岩泥混質の滑らかな挙動に目測を狂わされたパイロットが操作を誤り、大概は張り手を横から浴びて爆散する。5建高の巨躯と相反する反応速度から、8期公団までは泥節中の「整地」が禁止された程だ。
今は違う。爆炸弾頭に燃束、何より新型の機体がある。ボルスの挙動をサイトに捉えつつ、飛んでくる熱誘導ミサイルも……え?
ミサイル?

「モリタ!3番機!」

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きみと、力士の彼方の夢を見る

 地球外気圏内へ到達したケプラー442b星人達は驚愕した。青く緑豊かな星だと推測されてきたこの惑星は肌色だった、より正確に言えば、地球の上空が肌色の何かによって完全に覆われていたのである。

 「どうなってる、まさかこれが"地球人類"なのか……?」

 調査員の一人が表面拡大映像を見て慄く。そこに映っていたものは、幾重にも重なり密接し合いながら地球上空を飛行する無数の成人男性。彼らの人種は様々った

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魔法航空力士少年┳聖丸

聖丸は空に浮かぶ巨大な球体を睨む。半径およそ100mの蒼い球体型土俵(エンゲージリング)、中央に仕切る河童力士は聖丸を見下ろして仕切りを誘う。
「気合い入れていくでゴワス!」
力士妖精オヤカタが聖丸の背中に回り、角融合八卦炉(かくゆうごうはっけろ)に力水を注ぐ。
「おう!!」

聖丸の『友を助けたいという覚悟』が角力(かくりょく)に変換され、角融合八卦炉(かくゆうごうはっけろ)を回す。
ギュン……

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航空相撲2

十両力士の鰯雲は聞いたことのない初顔合わせの力士と立ち会い、違和感を覚えた。

違和感と言うよりも、その立ち会いは異様であった。

片方の力士が空高く舞い上がり、それをもう片方が中腰のまま見送ったのだ。

世は航空力士全盛の時代。空を飛び、上を取り、抑え込み、相手を地面に叩きつける。鰯雲はそう教わり稽古をしてきた。まして学生相撲でも空を飛ぶこの頃、ちびっこ相撲ぐらいでしか地上戦などありえないだろう

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