BWD:アヴァタール・リキシ

朝、少年が目覚めるとリキシになっていた。
ベッドを降り、力強く四股を踏み、かしわ手を打つ。まごうことなきリキシである。

「タダシ?どうしたの?」

四股の荒々しき音を聞き付けて少年……タダシの部屋に現れた母親はいるはずのないリキシに卒倒し、床にひっくり返った。

「母さん!」

タダシは床に倒れ伏した母をそのたくましいリキシの腕で抱き上げる。普段のタダシからは大きく見える母はリキシの目線ではひどく小さく見えた。

冬のこの時期に母親をこのままにはしておけぬ。タダシは母を寝室に移すと丁寧に横たえ布団をかけた。しかるのち、寝室より去る。このまま自分が居ては再度気絶させると判断したのだ。

改めて自身の手をまじまじと見る、それはかつて自分の手とサイズを比べた伝説のリキシ、ライ=デンのそれに似ていた。本来の貧弱モヤシ相撲オタクの自分とは比べるべくもない。

「これは相撲の神様が僕に与えたリキシとしてこの世において善を為せという思し召しでは?」

タダシは確信を得た。ならば街に繰り出してこの世に蔓延る悪をたださねば。そこでタダシは気づいた。今の自分はマワシ一丁である。

「ムンッ!」

タダシが気合いをいれるとユカタが生成され、リキシの身体を柔らかく包んだ。そのまま街に繰り出していく。玄関のドアが実に窮屈であった。

ーーーーー

リキシの目線で眺める世界は新鮮であった。
多くのものが自分より下の目線に映る。タダシは普段と勝手が異なる身体で他者を傷付けないよう細心の注意を払った。

「ギャーアアアーッ!」

街を見聞するタダシのリキシ・イヤーに断末魔が届く!リキシ・ダッシュするタダシ!現場には唐突に現れたガーゴイル・アクマが通り魔めいて人々を惨殺していた!アスファルトに飛び散るレッドインクめいた赤い血!つるし上げた犠牲者から生き血をラッパ飲みするガーゴイル・アクマ!

「ドスコイ!」
「キュケーッ!」

タダシのハリテ・スマッシュがしたたかにアクマを打つ!石の身体に深々と残るリキシの力強き手形!
普段のタダシであれば即座に逃げ出していただろう、今も実際コワイ。だが今この場にはリキシである自分しかアクマに立ち向かえる戦士はおらぬ!ならばSUMOUだ!

一方ガーゴイル・アクマは突然の闖入者がおのれの晩餐に水を差した事実に怒り、震える!もはや待ったナシ!アクマに向かって身を低くハッケ・スタイルをとるタダシ!

「キュケケケケッ!」
「ハッケ・ヨーイ……」

身構えるタダシに大きく口を開くガーゴイル・アクマ! 口腔に蓄えられたのは地獄の焔だ!タダシに向かってジゴク・ブレスが放たれる!

「ノコッタ!」

殺戮ツンドラマンモス特急めいて火炎に飛び込むタダシ!トシノセにひたすら薪を燃やす暖炉の灰の様になってしまうのか!?いな!

「ドスコイ!」
「キュケーッ!!!?」

燃え盛る炎を貫き不死鳥の如くリキシ・ブチカマシがガーゴイル・アクマに突き刺さる!トラックに轢かれる転生者めいて撥ね飛ばされガーゴイル・アクマがブロック塀に叩きつけられる!

「キュ、キュケー……」

まだだ!キマリ・テを繰り出しアクマに止めを刺さなくてはならぬ!

おおみよ!タダシが天に掲げた腕の先には金色に輝くレジェンドリキシ、エド=モンが現れる!伝承の如く不動直立のリキシ・ミサイル形態を取るエド=モン!

「ハアアァァ……ッ!ドスコイ!」
「キュケーッ!」

タダシの放ったイマジナリ・リキシがガーゴイル・アクマのど真ん中に突き刺さり黄金のリキシ・エクスプロージョンが巻き起こる!跡形もなくガーゴイル・アクマは消滅した!

キマリ・テ:キアイ・リキシ・ミサイル

生存者がリキシを讃えるチャントを唱える!

「ワアアアアアーワアアアアアー」

ーーーーー

「はっ」

ベッドの中で貧弱モヤシ相撲オタク少年タダシは目を覚ました。自分の身体はいつも通りモヤシだった。

「夢……そうか、そうだよね」

妙にスッキリした心地で夢でそうしたようにタダシは四股を踏んだ。

次の瞬間、そこにはたくましいリキシの姿があった。

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