ゆめくらげ
アサクサチェンソーバース使用、落語アクション小説です。
SF(スシ・フィクション)小説『ピリポ寿司エンジン』の連載です。
JKVRFPS小説である本作のマガヅンです。
両遥という町がある。 町というよりは、おおきな村といった趣で、あるのは麦畑と、のどかな気性の人ばかり。もっぱら町というより里などと呼ばれる。 そんな里でも、武館はある。そこでは子どもに剣だけでなく、読み書きも教えるので、里の人達からの信頼も厚かった。 かった、というのは、そこの主が死んだからだ。 齢80。それはもう大往生で、故人の清貧ながら充実した人生を思えば、家族ですら不思議と満足感を覚えるような、そんな最期だ。 さて、葬儀の取り仕切りは長男がする。そ
ええ、なんだい。殺し屋?ヤクザなんだから、そんな話いくらでもあるよ。 見たこと?見たことは…それほどないね。そりゃそうよ。おれらみたいな下っ端が殺し屋を見るときってのはね、殺されるときだけ。 だからね、おれが見たのは、一回だけだよ。 むかしウチの組がさ、ナントカスター…えーと、あ、ビューティフルスターだ。そんな名前の女子プロレス団体に目をつけたんだよ。借金だらけで、ツラがいい女がいて、熱狂的なファンがいる。じゃあウリやらせればアガリが取れるよねって。かなり圧力か
「おかえり。ママ、殺しといたよ」 真っ黒の玄関の奥からパパの声がした。 日差しに眩んだ目が慣れて、玄関の奥が見えるようになると、優しいパパの笑顔が見えた。その足元にはモップのように広がる髪の毛、その隙間からは、ママが好きなペディキュアと同じ色の液体。 液体は上がり框からポタポタと垂れて、階段のタイルを這うよう流れ、タイルの目地をぬるぬると進み、私の靴に到達した。キィ、と玄関の扉が軋む音。 「そうだ、おやつが買ってあるんだ。シャディーズのケーキだよ。ママと買ってき
勇者が死んだ。 私がそう聞いたときに思ったのは、あの男に渡した10Gとヒノキの棒は無駄になったな、ということだった。 これは私が薄情な王だからではない。あの男に会ったのはそれきり一回だけで友情なんてもちろん無いし、国民が信じるような勇者の快進撃も、軍の最高司令官の地位から見れば局地的な戦術勝利に過ぎず、人類種の僅かな延命処置に過ぎないことを知っていたからだ。 ではその勇者の一命を賭した時間稼ぎの間に人類が何をしていたかと言えば勇者がもしも魔王を倒したら、どの貴族
私ではありません。それはポップコーンだからです。なぜなら千葉に理由があり、そこはピーナッツの産地だからです。では、私は誰でしょうか? その答えを探すためにはまずマウスの下を調べる必要があり、同じように雲を千切って綿菓子のように割り箸に巻きつけて、ところで割り箸というのは日本で使われる箸の簡素な代用品であり、細長い板の中心に切れ目を入れて箸のように素手で成形できるようにした物品です。しかし昨今のマイ箸ブームによって、その姿は殆ど見られなくなり、今では水のきれいな川や山の上
春。自殺の季節。 私は今日、満員電車で自爆する。 自爆すると決めたのだから、駅前のコンビニでストロングゼロを買おう。出社前なのに。いや、自爆するから出社はしないのだ。解放感でいっぱいだ。ストロングゼロとファミチキを買おう。 そう決めてレジ列の最後尾に列ぶと、ジジイが割り込んできた。 私は愕然とした。 その愕然は、厳密にいえば割り込んできたジジイに対してのものではない。反射的に舌打ちを抑えた自分自身に対してだった。これから自爆しようというのに、社会や体裁や面
誰かが死んだ。誰かが路地裏で死んだ。 それは私に関係のないことで、その時に私は多分、明日の朝ごはんとか、ストリッパーのペニスとか、この街の行く末とかを考えてたと思う。 私がその死人に会ったのは、朝ごはんを食べ終えて午後になってからだ。これから盗みに入る家のことを考えながら、もやの晴れないディーノニクス通りを西へ進んでいて、ちょうど蒸気を噴きながら走る馬車とすれ違った時だった。 死体なんて見慣れている。はっきり言ってアンチ・マンハッタンで死体を見ない日なんてない。治安も格差
男。 着衣はボロボロだが、着物だとかろうじて分かる。 手には、汚れてすり切れた扇子が握られている。 噺家だ。 「おつとめご苦労さん」 その噺家の前、豪華な着物を着た、また噺家が言った。 じろり、と、ボロボロの男が睨んだ。 そして一言。 「何の用や」 通る声だ。 その声に気圧されたか、豪華な着物の噺家は、口をムッと結んでから答えた。 「兄弟子にそんな無礼な口、よう叩くな」 「それは兄さんが下手くそやからや」 二人の後ろに控えていた男が顔をゆがませた。 当然だ。
袖からはキラキラの高座が見える。 客は大入り。かの名人、眠屋小朝を見ようとすし詰め状態。 長かったな、と当の小朝は思った。 入門から磨きに磨いた落語の技量。それは僅か数年で頭角を現し、その時点で弟子の中で一番と言われるほどにまでに至った。むしろ、それがいけなかった。 独りよがりの落語に落ちて、目上の者に反発し続け、直の兄弟子の襲名を「年功序列」なんて蔑んだ。それでも落語に打ち込み続けた。それも、いかんかった。 じきに肉体と精神と芸のバランスが崩れはじめ、酒に逃げるように
カン、カン、カン 遙か上まで続く簡素な金属製の階段を、着物の男女が登っている。 「エレベーターはないんか…ハァ」 「屋上はこっちからしかいけへんねん」 ボヤく小朝に金子が答える。 道頓堀メガマックスビルは大阪最大のビルであり、今や上方の象徴といえる場所だ。 『消えた』上方演芸ホールの代わりに作られた、芸能の中心地。 「カゴでも『見立て』られんか、いや、お前みたいな下手くそには無理やな」 「はぁ!?」 眠屋金子は今生の愛弟子である。愛人だからでは無い。その腕前は若
夜、道頓堀。光り輝くグリコの広告が汚い水面に反射する。 道頓堀をまたぐ橋の上では、キャッチが群れの魚を追い込むように、通行人の塊をつつく。 「あれ、お姉さん着物キレイやん」 黒い服のキャッチの男が、さも世間話のように女性に声をかけた。 「ありがと、待ち合わせやねん」 けんもほろろ、着物の女性は用事があると断るが、ここで引けばキャッチじゃない。 「待たせる男より、待ってる男、ウチのタコヤキホストはいつでもアッツアツでお出迎えしますで!」 女性は思わず吹き出した。
男。 着衣はボロボロだが、着物だとかろうじて分かる。 手には、汚れてすり切れた扇子が握られている。 噺家だ。 「おつとめご苦労さん」 その噺家の前の、豪華な着物を着た、また噺家が言った。 じろり、と、ボロボロの男が睨んだ。 そして一言。 「何の用や」 通る声だ。 その声に気圧されたのか、豪華な着物の噺家は、口をムッと結んでから答えた。 「兄弟子にそんな無礼な口、よう叩くな」 「それは兄さんが下手くそやからや」 後ろに控えていた、もう一人の男は顔をゆがませた。
日賀隆也(ひがたかや)は緊張していた。 初めてのオフ会。それもサシ。相手はたぶん女性。約二十年ほど生きてきて、これほど、『それらしい』ことは初めてだ。 いや、そう思うのは下心ではないか。相手はただ純粋に隆也の俳句が良いと思ってるだけの可能性もある。 そう隆也は、俳句を投稿している。SNSで。 フォロアーは多くない。数百人。盛った。百数十人。 その少ないフォロアーの中で一人だけ、いつも俳句を投稿するとRTしてくれる人が居る。それが今日会う人だ。『ミヤコ@低浮上』さん、
事件→事象→説明 →事象→説明 →事象→説明→事件の説明
深夜。東京郊外、山中。 人里から見えない山と山の間に巨大な建造物がある。 むき出しの鉄骨に、無骨なコンクリートで作られた外壁。 太いネジで繋がれたパイプが、ごろごろと音を立てて何かを流す。 何かの工場に思える。 しかし、こんな人の目を避けるような場所で、こんな時間に稼働する工場とは一体なにの工場であろうか。 ビッビー! 目を光らせた巨大なトラックが、山間に作られた道を抜けて工場に到着する。次々と。そのトラックたちが並んで巨大な搬入口に直に付けると、わらわらと現
校舎、夕焼け、膨らむカーテン。 ブラ部の外れた音、金属バット、声援。光に透けた茶髪。 「やっぱり、ミキとは付き合えない…友達のままでいよう」 私は頷いた。涙の味は、しょっぱい。 * 学生時代の失恋は、めばちこみたいにきれいに消え去る。おばあちゃんやお母さんはそう言っていたが、私は全然そんなことはないと思う。 神社の前。ナツコが居た。彼女はきれいな晴れ着姿で、母親らしい少し控えめな色使いだが、生来の明るさも相まって周りの若者にも負けない華やかさをまとっていた。