ママ友、お揃い、合格祈願
校舎、夕焼け、膨らむカーテン。
ブラ部の外れた音、金属バット、声援。光に透けた茶髪。
「やっぱり、ミキとは付き合えない…友達のままでいよう」
私は頷いた。涙の味は、しょっぱい。
*
学生時代の失恋は、めばちこみたいにきれいに消え去る。おばあちゃんやお母さんはそう言っていたが、私は全然そんなことはないと思う。
神社の前。ナツコが居た。彼女はきれいな晴れ着姿で、母親らしい少し控えめな色使いだが、生来の明るさも相まって周りの若者にも負けない華やかさをまとっていた。
「ごめ~ん、待った?」
私が聞くと、何のことはなく、いま来たところだと答えた。
「ミキ、ごめんね、旦那は寝ちゃってて」
私は吹き出した。
「あはっ、本当に来るとは思ってないよ!」
彼女と旦那は幼馴染。本当に仲が良くて、どこに行くにも一緒のことが多い。きっと今日も正月じゃなければ一緒だっただろう。
「じゃあ、お参りしよっか」
「うん」
1月1日、初詣。境内は騒がしく、人にあふれている。私はいいものを見つけた。
「あ、甘酒だ!ナツコ、飲もう!」
「え、ちょっと、私はいいよ」
ナツコの拒否を無視して手を引っ張っていく。ナツコは口では嫌だと言っても、なんだかんだと流されるのが好きなのだ。
私は高校生ぐらいの巫女さん二人から受け取った甘酒をナツコに渡す。
「もう、ミキ、怒るからね」
「えへへ」
巫女さんたちは笑顔でお屠蘇を配っている。よく見れば、二人の指が袖の中で絡んでいた。ドキリとする。
「ミキ、やっぱり…」
私は不安そうな顔のナツコを無視した。
「ほら、合格祈願!幼稚園お受験するんだもんね」
合格祈願のお守りをナツコに手渡す。私も一つ。息子の分だ。
ナツコは、私の息子の話をあまりしない。いや、正確には私の旦那の話をあまりしない。私に旦那は居ない。息子は婚外子だ。
「一緒の幼稚園に入れると良いね?」
私は微笑んだ。ナツコは薄く笑い返した。
「うん。本当の、兄弟みたいに」
私と、ナツコと、旦那は、同じ高校。ナツコは疑っている。私の息子の父親が、自分の旦那なんじゃないかと。
私は笑った。お揃いもいいけど、そんなことをしたらナツコと友達じゃ居られなくなる。それじゃあ駄目だ。
人波に揉まれて押し出されると、賽銭箱が見えた。
「あ、小銭!」
二人でいくらかの小銭を投げて、参拝する。
ナツコは、きっと、旦那や娘の健康を祈っているのだろう。私は、ナツコといつまでも友達でいられるように祈った。
それがナツコの願いだから。いつまでも、友達のままで。同級生でも、ママ友になっても、同じ幼稚園でも、同じ学校でも。
「ねぇ、ミキはなんてお願いした?」
「えっとね、一緒の幼稚園に入れますようにって」
同じ夫婦の母親としても。ずっと友達だ。
【終】
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