ゆめくらげ
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おかえり。ただいま。
「おかえり。ママ、殺しといたよ」
真っ黒の玄関の奥からパパの声がした。
日差しに眩んだ目が慣れて、玄関の奥が見えるようになると、優しいパパの笑顔が見えた。その足元にはモップのように広がる髪の毛、その隙間からは、ママが好きなペディキュアと同じ色の液体。
液体は上がり框からポタポタと垂れて、階段のタイルを這うよう流れ、タイルの目地をぬるぬると進み、私の靴に到達した。キィ、と玄関の扉が軋む音
アンチ・マンハッタン
誰かが死んだ。誰かが路地裏で死んだ。
それは私に関係のないことで、その時に私は多分、明日の朝ごはんとか、ストリッパーのペニスとか、この街の行く末とかを考えてたと思う。
私がその死人に会ったのは、朝ごはんを食べ終えて午後になってからだ。これから盗みに入る家のことを考えながら、もやの晴れないディーノニクス通りを西へ進んでいて、ちょうど蒸気を噴きながら走る馬車とすれ違った時だった。
死体なんて見慣れ
カミガタ・バニッシュメント
男。
着衣はボロボロだが、着物だとかろうじて分かる。
手には、汚れてすり切れた扇子が握られている。
噺家だ。
「おつとめご苦労さん」
その噺家の前、豪華な着物を着た、また噺家が言った。
じろり、と、ボロボロの男が睨んだ。
そして一言。
「何の用や」
通る声だ。
その声に気圧されたか、豪華な着物の噺家は、口をムッと結んでから答えた。
「兄弟子にそんな無礼な口、よう叩くな」
「それは兄
カミガタ・バニッシュメント-4
袖からはキラキラの高座が見える。
客は大入り。かの名人、眠屋小朝を見ようとすし詰め状態。
長かったな、と当の小朝は思った。
入門から磨きに磨いた落語の技量。それは僅か数年で頭角を現し、その時点で弟子の中で一番と言われるほどにまでに至った。むしろ、それがいけなかった。
独りよがりの落語に落ちて、目上の者に反発し続け、直の兄弟子の襲名を「年功序列」なんて蔑んだ。それでも落語に打ち込み続けた。それも
カミガタ・バニッシュメント-3
カン、カン、カン
遙か上まで続く簡素な金属製の階段を、着物の男女が登っている。
「エレベーターはないんか…ハァ」
「屋上はこっちからしかいけへんねん」
ボヤく小朝に金子が答える。
道頓堀メガマックスビルは大阪最大のビルであり、今や上方の象徴といえる場所だ。
『消えた』上方演芸ホールの代わりに作られた、芸能の中心地。
「カゴでも『見立て』られんか、いや、お前みたいな下手くそには無理やな」
カミガタ・バニッシュメント-2
夜、道頓堀。光り輝くグリコの広告が汚い水面に反射する。
道頓堀をまたぐ橋の上では、キャッチが群れの魚を追い込むように、通行人の塊をつつく。
「あれ、お姉さん着物キレイやん」
黒い服のキャッチの男が、さも世間話のように女性に声をかけた。
「ありがと、待ち合わせやねん」
けんもほろろ、着物の女性は用事があると断るが、ここで引けばキャッチじゃない。
「待たせる男より、待ってる男、ウチのタコヤキ
カミガタ・バニッシュメント
男。
着衣はボロボロだが、着物だとかろうじて分かる。
手には、汚れてすり切れた扇子が握られている。
噺家だ。
「おつとめご苦労さん」
その噺家の前の、豪華な着物を着た、また噺家が言った。
じろり、と、ボロボロの男が睨んだ。
そして一言。
「何の用や」
通る声だ。
その声に気圧されたのか、豪華な着物の噺家は、口をムッと結んでから答えた。
「兄弟子にそんな無礼な口、よう叩くな」
「それ
バズる、第一印象、七五調
日賀隆也(ひがたかや)は緊張していた。
初めてのオフ会。それもサシ。相手はたぶん女性。約二十年ほど生きてきて、これほど、『それらしい』ことは初めてだ。
いや、そう思うのは下心ではないか。相手はただ純粋に隆也の俳句が良いと思ってるだけの可能性もある。
そう隆也は、俳句を投稿している。SNSで。
フォロアーは多くない。数百人。盛った。百数十人。
その少ないフォロアーの中で一人だけ、いつも俳句
事件→事象→説明
→事象→説明
→事象→説明→事件の説明
ママ友、お揃い、合格祈願
校舎、夕焼け、膨らむカーテン。
ブラ部の外れた音、金属バット、声援。光に透けた茶髪。
「やっぱり、ミキとは付き合えない…友達のままでいよう」
私は頷いた。涙の味は、しょっぱい。
*
学生時代の失恋は、めばちこみたいにきれいに消え去る。おばあちゃんやお母さんはそう言っていたが、私は全然そんなことはないと思う。
神社の前。ナツコが居た。彼女はきれいな晴れ着姿で、母親らしい少し控えめな
彼氏、どんでん返し、オタク
私にはオタクの彼氏がいる。
別に、不満はない。
そりゃあ私のことを差し置いて「嫁だ!」とか、「〇〇ちゃん!(声優か架空のアイドルか両方だ)」とか騒がれるのが不愉快ではない、というわけではない。
私のことは大事にしてくれるし、意外と男らしいところもある。
いや、男らしいで思い出した。
不満がない、とは一度は言ったが、撤回したい。
街なかで「オタクバトル」を始めるのは勘弁して欲しい。
それも突然
怪談「全裸中年男性」
午前二時、自室。ベッドの上。
トウコは目を覚ました。
部屋は暗く静まりかえり、物音はない。
(ああ、嫌だ)
トウコがそう思うと、パチッと音がした。
息を呑む。
単純なラップ音にすら、トウコは怯えるようになっていた。
それには理由がある。
(まただ、また身体が動かない…!)
金縛り。ここの所、毎晩だ。
ラップ音、金縛り。ここまでくれば、起こることは知れている。
「シテ…ウシテ…シテ…シテ…」