習作


 深夜。東京郊外、山中。
人里から見えない山と山の間に巨大な建造物がある。

 むき出しの鉄骨に、無骨なコンクリートで作られた外壁。
太いネジで繋がれたパイプが、ごろごろと音を立てて何かを流す。

 何かの工場に思える。
しかし、こんな人の目を避けるような場所で、こんな時間に稼働する工場とは一体なにの工場であろうか。

ビッビー!

 目を光らせた巨大なトラックが、山間に作られた道を抜けて工場に到着する。次々と。そのトラックたちが並んで巨大な搬入口に直に付けると、わらわらと現れた作業員が巨大な冷蔵庫のような荷物を積み込み始めた。

「おい、揺らすな!」

「へへ、すんません」

 責任者らしき白衣の男が注意を飛ばす。
男は背丈ほどもある白い長方形のブロックに駆け寄ると、異常がないか神経質に確認している。その間も、作業員たちは荷物を黙々とトラックに積み込み続けた。

「オーライ!オーライ!」

 そこらじゅうで声が上がる。白衣の男が端末で何かを確認し、頷く。
搬入口に並んでいたトラックたちは、また目を光らせると真っ暗な山中の道へ向けて走り去っていく。僅か数十分、忙しない出来事だった。

 白衣の男はいくらか安堵したような顔で、カードキーをリーダーにかざす。シュコン、と空気の抜ける音とともに、強度の高そうな扉が上に開いた。作業員たちはばらばらと、各自解散していた。

カツ、カツ、カツ

 建物の中、白衣の男が薄暗い廊下を歩く。誰も居ない。
いや、居るかも知れない。だが人の気配、誰かの息遣いというものが決定的にかけていた。する音といえば、男の足音、電子音、機械の低音。
これほど巨大な建造物にも関わらず、この建物の中には、まるでこの男しか居ないようであった。

 白衣の男が突き当りの巨大な扉にたどり着いた。リーダーにカードキーをかざすと電子音がして、扉が開いた。

 室内から、緑色の光が漏れ、白衣の男を照らした。
男の口の端が釣り上がる。笑っている。それは、自らの研究成果を誇る、高慢の笑みだった。

 室内は広く、壁に沿うように緑色の液体が満たされた円筒が並んでいる。その円筒から中央にコードが伸び、コンピューターにつながっていた。コンピューターには「クローンコンプリート」という表示。

 白衣の男は円筒に近づく。その、緑色の液体の奥に、人影が見える!黒い紙、褐色の肌、インド人だ!円筒で、インド人がクローン生産されている!

「これで、とうとうインド人カレーが量産できる」

 男は高慢な笑みを隠さない。コンピューターに歩み寄ると、キーボードをカタカタとタイプする。画面には驚くべき計画が表示された。

『クローンインド人→【驚く】→カレー』

 そう、クローンインド人をカレーで驚かせることで、無限にインド人もビックリカレーを生み出し続けるという、悪魔の研究。これは、禁じられた永久機関と言えるのではないだろうか。

「ククク…ハハハハハ!」

 男の高笑いが研究所にこだまする。それを咎めるものは居ない。ここは彼の研究所。この神をも恐れぬ狂った計画のための。彼のインド人びっくりカレー計画は始まったばかりなのだ…!

【終】

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