マガジンのカバー画像

虐待論ー高齢者介護施設におけるー

19
高齢者介護施設において何故虐待が起こるのでしょうか?  虐待は職員の教育不足の結果なのか、それとも、職員の倫理観の欠如によるものなのか?  abuse/虐待の概念整理、虐待の構造…
運営しているクリエイター

#虐待

介護世界の世人(das Man)ー虐待論Ⅵ

介護世界の世人(das Man)ー虐待論Ⅵ

「世人」で考える介護 池田喬(哲学者)さんの『ハイデガー『存在と時間』を解き明かす』(2021年NHK BOOKS)はハイデガーの主著『存在と時間』をとても分かり易く解説していて勉強になります。
 この本から学んだ概念に「世人」(独 das Man、英語the one)があります。この世人という概念はもちろんハイデガー(Martin Heidegger:ドイツの哲学者、1889年~1976年)の造

もっとみる
逮捕・送検・まとめ読み

逮捕・送検・まとめ読み

 超高齢化社会では、高齢者はいつでも、どこでも、誰にでも、被害に遭いやすい社会なのかもしれません。 

1.延岡市の老健の職員が傷害の疑いで逮捕 宮崎県延岡市の介護老人保健施設の職員(男性・37歳)が入所者(女性・80歳台)の顔を数回殴るに暴行を加えたとして、傷害の疑いで逮捕されました。
 事件は、被害者の家族が「施設内で虐待を受けている」と警察に通報したことで発覚。加害者は容疑を認めているとのこ

もっとみる
実録ルポ「介護の裏」

実録ルポ「介護の裏」

 

 甚野博則(ノンフィクションライター)さんの『実録ルポ介護の裏』(2024.05.17 文春新書)を一部抜粋した記事がYAHOOニュースに掲載されています。

1.虐待のあれこれ 東村山の首都圏で最大級の規模(156室)を誇るサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)での虐待事案を中心に介護施設での虐待の実態を紹介しています。
 上記のサ高住では施設長の指示の下で虐待があったといいます。
 記事

もっとみる
虐待の責任は?  虐待論Ⅴ-4

虐待の責任は?  虐待論Ⅴ-4


1.構造としての虐待 abuse/虐待は、虐待した職員の道徳観の欠如や易怒性などの性格の問題や専門性の欠如等の個人的な要因によって起因するものではなく、もっと複雑かつ構造的な要因で発生するのだと思います。

 例えば、介護における関係の非対称性(権力性、抑圧性、暴力性)、パノプティコン的権力、パターナリズム、職場で語られるボキャブラリーや言葉遣いなどの言語環境、文化的環境、エビデンス重視の科学的

もっとみる
虐待は個人的問題か?構造問題か?

虐待は個人的問題か?構造問題か?

 毎日新聞の気になった記事です。
 介護現場での虐待の背景や原因、そして防止方法についての記事です。
 毎日新聞政治プレミアの取材に林和歌子(城西国際大学福祉総合学部教授)さんが応じたといいます。

 ようするに、虐待に至る因果関係は次のような図式になるということでしょう。

人材不足 → 仕事量増大 → 過労・ストレス増大 → 自らのコントロールを失う → 虐待

 上記の因果関係にさらに、教育

もっとみる
虐待防止教育について-虐待論Ⅴ-3

虐待防止教育について-虐待論Ⅴ-3


1.虐待防止対策のあれこれ 虐待事件が発生した場合、その事件を受けて多くの介護施設が虐待防止対策を改めて講ずる、表明することになることでしょう。その際に虐待防止対策として挙げられるのは、おおよそ以下のようなことではないでしょうか?

① 職員に対して虐待防止教育を徹底する。
② 職員間の円滑なコミュニケーション環境の醸成(風通しの良い組織)
③ 監視カメラを設置し、虐待防止抑止力を高める

 ③

もっとみる
人権教育で虐待は防げるのか 虐待論Ⅴ-2

人権教育で虐待は防げるのか 虐待論Ⅴ-2

 abuse/虐待を考えるとき朱喜哲(哲学者)さんの哲学はとても参考になります。
 朱喜哲さんの次の著作を基にabuse/虐待をいかに防止するのかについて考えてみたいと思います。
 『<公 正>を乗りこなす』太郎次郎社エディタス
 『偶然性・アイロニー・連帯』100分de名著
 『人類の会話のための哲学』よはく舎

1.人権教育 介護の教科書によく「人間の尊厳を守る」とか「人権を尊重する」とか書か

もっとみる
人間の尊厳と介護 -虐待論Ⅴ‐1

人間の尊厳と介護 -虐待論Ⅴ‐1

1.尊厳は価値を超越する
 介護の世界でよく言われる「人間の尊厳」について、「そんなの当たり前」と思考停止せずに、一度立止まって、じっくりと考えてみることも大切だと思います。

 人間の尊厳について考えるとき、よくイマヌエル・カント(Immanuel Kant:ドイツの哲学者)[1]の目的の定式が参考になると言われます。この定式は次のようなものです。

 カントは、人間が互いの人格を目的とし

もっとみる
abuse/虐待論Ⅰ.虐待とabuseの相違

abuse/虐待論Ⅰ.虐待とabuseの相違


1.ギャクタイ(虐待とabuse)(1) 「むごさ」を表す日本語の虐待

 虐待の「虐」は「いじめる、むごく扱う」という意味で、字源は「虎」と「爪」の組み合わせで、虎が捕食するむごい姿を表しています。虐待の「待」は「あしらう」という意味があり、虐待は「むごくあしらう」という意味になります。
 日本語で虐待は虎が捕食するむごい姿を連想させるものですから、殴られて鼻血がバァと出ているような、むごたら

もっとみる
abuse/虐待論Ⅱ.虐待原因論(1):虐待の原因は教育不足?

abuse/虐待論Ⅱ.虐待原因論(1):虐待の原因は教育不足?


1.虐待の原因が教育不足は見当違い 介護業界では虐待の原因は教育不足であるという言説が流布しています。

 確かに、厚労省が発表している『2022年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』でも、虐待の発生原因の第一位は、「教育・知識・介護技術等に関する問題」(56.1%)となっていて、2番目の「職員のストレスや感情コントロールの問題」(

もっとみる
abuse/虐待論Ⅲ.虐待原因論(2):縄張り/スタンフォード・ミルグラム実験/社会の空気/男女差/壊れ窓理論-

abuse/虐待論Ⅲ.虐待原因論(2):縄張り/スタンフォード・ミルグラム実験/社会の空気/男女差/壊れ窓理論-


1.怒りの起源は縄張り  なぜ介護施設で入居者へのabuse/虐待がしばしば起こるのでしょうか。

 『2022年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』では、虐待の発生原因の第一位は「教育・知識・介護技術等に関する問題」が480件と56.1%を占め、第二位の「職員のストレスや感情コントロールの問題」197件 23.0%を大きく引き離

もっとみる
abuse/虐待論Ⅳ-虐待原因論(3):交差性/バザールとクラブ/双数性/残酷性

abuse/虐待論Ⅳ-虐待原因論(3):交差性/バザールとクラブ/双数性/残酷性


1.インターセクショナリティ:intersectionality(交差性)が増幅するabuse/虐待 社会には、性別、民族、国籍、年齢等の社会的経済的属性に基づいたさまざまな関係性が併存しています。

 「介護する人-介護される人」「お客様-サービス提供者」「若者-年寄り」「男性-女性」「教師-生徒」「管理職-一般職」「医療職-介護職」「生産労働者-再生産労働者」「日本人労働者-外国人労働者」「

もっとみる
函館の特養「潮寿荘」で虐待?

函館の特養「潮寿荘」で虐待?

 地元の恵山の特養「恵楽園」に続き、地元の特養で虐待?社会福祉法人戸井福祉会が経営する函館市の特別養護老人ホーム「潮寿荘」(函館市釜谷町605番地1:従来型:定員50名)で虐待の可能性があり、函館市が聞き取り調査中とのことです。

 身体的虐待・暴行か?

入所者の体に複数の不自然なあざが確認され、虐待が行われた可能性のあることがわかりました。関係者の聞き取りによると、今年の3月、
入所者(女性・

もっとみる
国立大牟田病院で職員による性的虐待

国立大牟田病院で職員による性的虐待

 国立大牟田病院(福岡県大牟田市)で介護職員3人(男性)と看護師2人(男性)が、障がいのある入院患者11人に対して、繰返し「性的な虐待」をしたとされる事件で同病院は5月2日、謝罪会見を開いたといいます。

 現在も外部の専門家でつくる第三者委員会で調査が続行中とのことですが、今のところ、虐待を受けた疑いがあった入院患者11人のうち6人については性的な虐待が認定され、1人は虐待の認定はされず、残る4

もっとみる