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アートのお部屋

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#今こんな気分

アートに満ちた小さな島

アートに満ちた小さな島

その日、ウサギは図書館の閲覧席でじっと画集を見つめていた。何度も手に取った画集なのに、見るたびに新たな発見があり、彼女はその度に心が躍るのを感じていた。

それでも本当のことを言えば、室内で静かに絵を見ているのは少し苦手だった。広い青空の下で元気に走り回るのが、彼女にとっては何よりも好きなことだったから。

「アートを観られる場所は室内だけじゃないんだよ」と、隣に座るカメが言った時、彼女の目がキラ

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妖美な灯りと物語

妖美な灯りと物語

その日、ウサギとカメは百段階段の「おはなしの玄関」の前に立ち、御簾越しに灯りを見つめていた。ウサギがカメに囁いた。「今日はどんな物語に出会えるかしら?」その声には、どこか切ない期待が漂っていた。

歩を進めると、涼やかに揺れる風鈴の音の向こう側で、まるで何か秘密を知っているかのような猫が、二人を静かに見つめていた。

十畝の間に足を踏み入れると、そこは竹取物語の世界だった。無数の竹が放つ柔らかな光

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宙を飛ぶ大きな猫

宙を飛ぶ大きな猫

その日、ウサギとカメはGINZA SIXの広々とした吹き抜けの下で足を止めた。二人の目は、天井から吊り下げられた大きなオブジェに釘付けになっていた。ウサギはカメの袖をそっと引いて、小さな声で囁いた。

「ねえ、見て、あれ…。私の目には岡本太郎の太陽の塔に見えるんだけど?」

カメは目を細め、その大きなオブジェをじっと見つめた。しばらくの間、二人の間に静かな時間が流れた。

やがて、彼は穏やかに口を

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いつだって最先端

いつだって最先端

カレッタ汐留の展望台から地上に降りると、高層ビルが再びウサギとカメを取り囲み、その高さから二人を見下ろしていた。

「未来的な景色が目を引くけれど、このあたりには歴史の息吹も感じられるんだよ」と、カメは穏やかに話し始めた。

「たとえば、1872年に日本初の鉄道が走った新橋駅が復元されているんだ」と彼は続け、
二人は旧新橋停車場に向かって歩き出した。

「当時は西洋建築が珍しくて、日本初の鉄道ター

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レトロ浪漫に魅せられて

レトロ浪漫に魅せられて

薄曇りの空の下、根津駅に降り立ったウサギとカメは、言問通りをゆっくり歩き始めた。弥生式土器発掘の碑を過ぎ、緩やかな暗闇坂を下っていくと、弥生美術館が現れた。

レトロな香りが漂う美術館で待っていたのは、和モダンの雰囲気に満ちた憂いを帯びた女性が描かれた「マツオヒロミ」の作品だった。

「そう、この絵よ。初めて図書館で見たときに心に強く残ったの。まるで時間が溶け合っているみたいな不思議な魅力があるの

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お茶に咲き 散る花びら

お茶に咲き 散る花びら

鮮やかな色の流れと幻想的な音の渦が、かすかな香りを纏って、ウサギとカメを優しく包み込んでいた。二人のまわりは夢の中のような、案内図のない迷宮の世界だった。

「何か不思議なことが起こりそうね」とウサギは静かに言った。その一言が、未知の世界への扉をそっと開いた。

ここは麻布台ヒルズの地下に広がるチームラボ・ボーダレスの世界。「一度行ってみたいわ」と、いつかウサギが呟いたその言葉が、二人をこの場所に

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謎をよぶ デ・キリコ展

謎をよぶ デ・キリコ展

国際子ども図書館を過ぎたウサギとカメは、やがて東京都美術館に到着した。正面玄関のエスカレーターを降り、二人は「デ・キリコ展」の世界に身を委ねた。

ジョルジョ・デ・キリコ。その人物は謎に包まれている。時に画風を変え、さらには自らの作品を偽作だと訴え、裁判にまで発展させた画家だ。デ・キリコの作品は、まるで時空が歪んだかのような、不思議な雰囲気を纏っており、二人はその深遠なる謎に向かった。

「デ・キ

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タローのダンス

タローのダンス

その日、ウサギとカメは不思議な力に引かれるかのように、表参道の岡本太郎記念館を訪れていた。降り続く小雨を置き去りにして、二人はそっと傘を閉じ、館内に用意されているスリッパに履き替えた。そして、ゆっくりと、絵画が待っている2階へと向かった。

「岡本太郎にダンスって、なんだかイメージがなかったけれど…」ウサギはそう言いながら、目の前の絵をじっと見つめていた。絵の中の色彩は激しく、それでいてどこか憂い

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