野球の神様 (1分小説)
僕のお父さんは、シャイアンツの四番。
家には、トロフィーや写真、バッドが一杯飾ってある。
ある日、お父さんの100号ホームランのバッドを僕が振り回していると、柱に当たってバッドが折れた。
中から、黄色いスーパーボールが出てきた。
お父さんはあわてて隠したが、10歳の僕には、不正を隠ぺいしているとは思わなかった。
その日の夜、仏師というお仕事をしている人がテレビで言っていた。
「すでに、木の中には、仏様がおられるのです。私は、彫刻刀で仏様を掘り起こしているだけなのです」
それを聞いた父は、思いついたように言った。
「バッドも、木でできているだろ?バッドの中にも、神仏がいるんだよ。さっきの、小さな黄色い球がそうだ。誰にも言うなよ」
【5年後】
夏祭りの日、スーパーボールすくいの前で、僕は立ち止まった。
テキ屋は、ホイをひとつ、僕に手渡した。
「キミ、どう?やっていかない?」
ホイはなかなか破れず、僕は32個ものスーパーボールをゲットした。
気づくと、周囲に、黒山の人だかりができていた。
僕は、自分が客寄せパンダにされたのだと気がついた。
「あらかじめ、ホイに、防水スプレーでも掛けておいたんでしょ?インチキだ」
すると、テキ屋は言った。
「金魚すくい屋も、同じことをしているよ。お互い助け合って、お客さんを喜ばせてるんだ」
今日、父が200号ホームランを放った。
持ちかえってきたバッドを、僕は、柱で割って調べたが、中から、スーパーボールは出てこなかった。
「200号は、自分の力だけで打ったの?」
父は間髪入れずに答えた。
「人聞きの悪い。オレは、毎回、実力で打っている」
僕は、テキ屋さんの言葉を思い出した。
━━ 助け合って、お客さんを喜ばせてるんだ ━━
「お父さん、ホームランボールは、どこ?」
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