生けす料理 (1分小説)
「胃に炎症を起こしていますね。細菌が入ったんでしょうか」
声のする方向を見ると、若いドクターが、オレの腹部をメスで切っているところだった。
手術!?
いきなり目に入ってきたスプラッタな光景に、卒倒しそうになった。
ちょっと待て!
局部麻酔しかしてないのか。普通、こういう場合全身麻酔だろ。
「食中毒だな。危ない生モノでも食べてしまったんだろう」
ベテランドクターの落ち着きはらった口調が、オレの怒りを増幅させる。
「おい、お腹を切るんだったら、全身麻酔が常識だ。さっきから、会話が丸聞こえなんだよ」
そう言いながら、昨晩食べた、生けす料理を思い出した。
皿の上でピチピチと身を躍らせ、新鮮そうだった鯛。
オレは、きっとあの鯛にあたり、緊急でこの病院へ運ばれてきたんだ。
「板前もあんたらも覚えとけ。訴えてやるからな」
オレの言葉に、若いドクターの顔色が青く変わった。
「一応、麻酔をかけておきましょうか、先生」
ベテランドクターが、落ち着きはらった声で答えた。
「ずいぶん活きがいいもんな。でも、こういうことは、たまにあるんだ。検死に、麻酔は必要ないさ」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?