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はじまりのはなし

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第52回新潮新人賞に応募しましたが、擦りもしませんでした。 お手柔らかに読んで頂ければ幸いです。
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#真我

はじまりのはなし…エピローグ⑮(終)

はじまりのはなし…エピローグ⑮(終)

また年賀状が書けなかった。

小春日和の陽気な日差しが、小さな窓から射し込んだのかと思えば、もう大晦日の朝だと言う。

私はまた、数日間眠り続けていたらしい…異常なくらいの暖冬で、気候の変化が感じられず…携帯電話に表示された日付を見た瞬間は、目を疑ったし…狐に摘まれたような気持ちになった。
それでも私は彼の言う通り、精神病院に入院しているとは思えないくらい能天気で、突然のタイムスリップにショックを

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はじまりのはなし…贖罪⑭

はじまりのはなし…贖罪⑭

霰が霙に変わった…小窓の格子に溜まった氷の粒も、直に溶けるだろう。
不本意ではあるが、霙とは霰や雹と違って、雪に分類される様で…今夜雪になるという天気予報は、雪らしい雪が降っていないのにも関わらず、外れたという事にはならないらしい。

これを初雪と呼ぶには淋し過ぎる…
彼女と一緒に、今年は初雪を見ようと約束していたが…こんな霙ならば、一緒に眺める事が出来なくても惜しくはない。
今は彼女が夢中になっ

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はじまりのはなし…制約⑬

はじまりのはなし…制約⑬

陽も落ちて真っ暗になった小窓を打つ雨は、より一層激しさを増し、彼女の話もそれに伴って、その勢いを強めている。

僕は一人掛けのソファーに座り込んだまま硬直し、立ち上がる事すら出来ずに、ただ呆然としながらも、必死で彼女の話に耳を傾けていた。
気を抜く暇も無く、大学ノートに記録する事は疎か、照明のスイッチにさえ手を伸ばす事が出来ず、彼女は暗がりの中で、扉から漏れる廊下の明かりにスポットライトの様に照ら

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はじまりのはなし…創世⑫

はじまりのはなし…創世⑫

急に雨が降り出したかと思うと...

彼女は突然今まで聞いた事のない話を始めた…

「神様の模倣なんて虚しいだけです。あなたも、そうは思いませんか?

神様ごっこなんてどうせ…万華鏡の中に幾重にも映し出された自分の虚像とその片割れが…メリーゴウランドの上で、巡り逢う事もなく…張りぼての白馬に鞭打って、互いに後姿を追いかけっこしながら周り続けているだけの…そんな憐れな人間模様を、ただ覗き穴から偉そう

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はじまりのはなし…不在感⑪

はじまりのはなし…不在感⑪

自分の名前をインターネットで検索しても一件もヒットしなかった...

何かの賞を取った事もなければ、新聞に載る様な功績も、犯罪歴もない。今時、誰であってもSNSのひとつくらいは利用しているのが一般的だが、僕は何もしていない。それじゃあ当たり前だと思いつつも、何だか寂しい様な...同姓同名の人すら存在しないのかと変な傲慢さが顔を出してしまう。

芸能人じゃあるまいし、エゴサーチをした所で、馬鹿馬鹿し

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はじまりのはなし…疑問感⑩

はじまりのはなし…疑問感⑩

「双極性障害に記憶障害…それに加えて解離性同一性障害の可能性もありますが…現段階では何とも…看護師達からも報告は受けています。
仰っていた通り夕方になると何か独り言を話している様ですが、部屋に入るとパッタリ止めてしまうそうで…そのはじまりの話かどうかまでは確認出来ていません…」

「あの、人格が変わるだけではなくて、彼女が知らないような内容を話す事がありまして...」

「その様な症例は珍しくあり

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はじまりのはなし…不安感⑨

はじまりのはなし…不安感⑨

「年金だけじゃねぇ…老後2千万円でしょ…この歳じゃ働く所もないしねぇ…」

「斎藤さんが最近介護施設で調理補助の仕事始めたらしいわよ…」

「すごいわよねぇ〜…私達だって充分お年寄りなのに…年寄りが年寄りの為に働く世の中なのかしらね…若者って何処に行っちゃったの?…皆んな引きこもっちゃってるのかしら?」

「うちの子は辛うじて働いてるわよ…いい歳なのに結婚もしないで…正月にも帰って来やしない」

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はじまりのはなし…恐怖感⑧

はじまりのはなし…恐怖感⑧

「恐れとは無知の現れなのです…暗闇を恐れる事が正にそれを露呈しているでしょう。見えないだけで…解らないだけで…知らないだけで恐ろしいのです。
なんて臆病な事でしょう…放てども放てども一粒の光では一片の闇も照らせはしないのに…それでも逃れよう、逃れようと...ただ徒らに虚無を照らし続けるのです」

手首を切った彼女の第一発見者は僕だった…ナースコールを連打したり、大声で彼女の名前を泣き叫んだり…パニ

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はじまりのはなし…退屈感⑦

はじまりのはなし…退屈感⑦

「時間だけがひたすらに過ぎて行きました。それでも時間は余るのです。埋め合わせても、埋め合わせても…次から次へと現れるのです。
繰り返すばかりで、もう飽き飽きして…最早この報われる事のない虚しい気持ちを味わい尽くす事のみが、麻酔の様に気怠く悶々とした感覚を紛らわせてくれるのです」

婦長さんは何とも気丈な人だ…若い看護師さん達も、熱心に不安定な状態の彼女に寄り添ってくれているが、婦長さんはどんな事態

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はじまりのはなし…孤独感③

はじまりのはなし…孤独感③

「小さな小さな…光の粒…私はまるで蛍の呼吸のようにゆっくりと弱々しく、なんとも頼りなく瞬いていました。
周りは見渡す限り真っ暗闇で…何一つ無い物静かな場所でした。そんな空間では、私と言う一粒なんて、いつふとした瞬間に闇と同化して消えてしまっても、決して不思議ではありませんでした」

よくもまぁ…ここまですらすらと言葉が出て来るなぁと毎回関心してしまう。
彼女がはじまりの話を語る時は、決まってベッド

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はじまりのはなし…光の粒②

はじまりのはなし…光の粒②

病院に到着したなり、看護婦さんが酷い形相で駆け寄って来た。
「今は落ち着いたんですけど…彼女さん…先程まで一時間くらいずっと泣きっぱなしだったんです。お電話しようかと、婦長にも相談したんですが…午前中は様子を見ようって言われて…私は前の事もあったので、すぐにでもって思ったんですが……でも、安心して下さい。…今は落ち着いてますから…」

眠気と疲れで朦朧としていた意識から、無理矢理叩き起こされる様な

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はじまりのはなし…プロローグ①

はじまりのはなし…プロローグ①

「忘れていました。ずっとずっとずっと…
忘れた事さえも、忘れてしまっていたのです。
余りにも昔の事で…これが本当の事なのかさえ、私にも疑わしいのです。
あなたに伝えたところで、あなたはきっと信じないでしょう。

あなたはきっと笑って…明日には忘れてしまうのでしょう…

大人になってから聞くおとぎ話ほど、詰まらないものはないでしょうね。

どうして子どもの頃はあんなに心が弾んだのか…私にも思い出せま

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