複雑性PTSDと愛着障害(虐待)は同じですか?|ほぼ同じですが原因が違うことがあります

複雑性PTSDについて、愛着障害との関係から詳しく解説しています。結論は【症状は同じ、しかし原因が違う場合がある】ということです。愛着障害は虐待が原因ですが、複雑性PTSDは虐待以外にも原因となるものがあります。

複雑性PTSD(C-PTSD) の解釈は専門家によって違いますか? 高間さんは【C-PTSD = 愛着障害】と何度か書かれてる気がするのですが、 たとえば基底欠損ではない人が親以外からの性的暴行経験や戦争での捕虜経験などを一定期間繰り返し受けることは、C-PTSDではなくPTSDでしょうか?
wikiやネットの当事者発信などを散見する限り【基底欠損の以外のC-PTSD】が存在するように感じます。

高間しのぶの質問箱より

世の中には2つの診断マニュアルがあり、アメリカおよび世界各国で用いられている基準がDSM-5です。それとは別に、WHOが採択している基準にICD-11があります。日本の医療現場では、DSM-5がメイン、ICD-11がサブで用いられていることが多いようです。複雑性PSTDについてこの2つの基準に沿って解説します。

※今回の記事はラジオでも視聴できます。テキストを見ながらどうぞ▼

※この記事は、Twitterの質問箱に来た質問を深掘りして回答したものです。

■DSM-5における複雑性PTSD

DSM-5では複雑性PTSDという概念がありません。ICD-11で初めて登場した診断名です。さてDSM-5のPTSD関連障害群をみると、

  • 愛着障害(反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害)

  • PTSD

  • 急性ストレス障害

  • 適応障害

この4つがあります。この4つの症状で、複雑性PTSDを説明するとすれば、愛着障害とPTSDの2つでしょう。愛着障害は長期にわたる虐待ですので、複雑性PTSDそのものですね。

しかし愛着障害のすべてを複雑性PTSDの概念で説明することはできません。それを次にみていきます。

PTSDと複雑性PTSDの違いも後述します。

■複雑性PTSDの変遷~愛着障害との違い

1980年代に精神科医のジュディス・ハーマンは、「心的外傷と回復」(中井久夫訳)の著作の中で、複雑性PTSDを提唱しました。

彼女は児童虐待を複雑性PTSDとして捉えています。ですから愛着障害と複雑性PTSDはほぼ同じ概念であることが分かります。わたしの「愛着障害は複雑性PTSDである」という根拠がここにあります。

しかし愛着障害と違うところは、

  • 複雑性PTSDは目にみえる虐待に対して定義されています。つまり、性的虐待、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、この4つに対して生じるのが複雑性PTSDとされました。

  • 実際の虐待は、目にみえない虐待のほうが大きな影響力をもっています。つまり、情緒的(社会的)ネグレクトです。コフートのいうところの「自己の障害」がこれになります。

そして「目にみえる虐待+目にみえない虐待」が愛着障害です。言葉を代えると「複雑性PTSD+自己の障害」が愛着障害です。ですから複雑性PTSDで愛着障害のすべてを説明することはできませんが、少なくとも愛着障害の一部は複雑性PTSDによって説明できるということです。

またPTSDを引き起こす原因によって、愛着障害と複雑性PTSDを分けることも可能です。

  • 愛着障害は養育者が原因のPTSDです。

  • 複雑性PTSDは養育者だけではなく、父親、カルト、誘拐、監禁、戦争など多岐にわたる原因によるPTSDです。

養父からの暴力は首をしめられている感覚があったが、母からの無視は汚泥の中で空気を奪われて窒息していくようだった。

そんなふうに語る人もいました。養父からの暴力は複雑性PTSDの原因であり、母からの無視は愛着障害の原因になりました。

■ハーマンによる複雑性PTSD

ハーマンの複雑性PTSDには、次の7つの困難さ(変化)があって、それらの変化は子どもが虐待環境を生きのびるための【適応・順応した形態】であるとしています。

①全体主義的な支配下に長期間服従した生活史があること。例えば、人質、戦時捕虜、強制収容所生存者、一部の宗教カルトの生存者、DV、児童への性的虐待、身体的虐待など。

②感情が制御できなくなる。例えば、不機嫌で、自殺のことを常に考えていて、自傷を繰り返す。爆発的な(あるいは極めて抑制された)憤怒や性衝動がある。

③意識が変化する。例えば、解離性健忘、フラッシュバック、解離エピソード、離人感がある。

④自己感覚が変化する。例えば、孤立無援感や主体性のマヒ、罪業や自己非難、他者とは全く違った人間であるという感覚(分かってくれる人がいない、自分は人間ではない)。

⑤加害者への思考が変化する。例えば、加害者を理想化したり、感謝したり、全能であると思い込む。(ストックホルム症候群(*))

⑥他者との感覚が変化する。例えば、親密な人間関係を築こうとするとPTSDを再体験し、対人関係において極端に不安定になる。孤立・ひきこもりになる。親密な関係を切り捨て、不信感の中に生きる。

⑦意味体系が変化する。例えば、信仰や希望を喪失し、絶望的感覚が生活の中心になる。

(*)ストックホルム症候群とは精神医学用語の一つ。誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象。

日本大百科全書(ニッポニカ)「ストックホルム症候群」の解説より

■ICD-11による複雑性PTSD

単一あるいは数個のトラウマとは違って、トラウマの中でも幾重にも重なり複雑になったものがあります。家庭や監禁など逃げることができない状況下で、DV(家庭内暴力)や虐待などが日常的にくり返されることで生じるトラウマです。

ICD-11ではこのトラウマを複雑性PTSDとしました。先にあげたハーマンの概念が診断名として採択されたのです。

つまり、ハーマンとICD-11の複雑性PTSDは同じものとみなしてもよいのです。

■複雑性PTSDとPTSDとの違い

ICD-11によると複雑性PTSDは、PTSDの診断基準(外傷体験および再体験・回避・過覚醒)を満たしたうえで、独自の自己形成の問題(A.感情制御の困難、B.否定的な自己概念、C.対人関係の障害)があることで診断される疾病です。つまりPTSD+3つです。この3つの部分(A~C)はハーマンの複雑性PTSDの説明を参照できます。

  • A. 感情制御の困難さは、②

慢性的な抑うつ状態で、常に恐怖、怒り、かなしみ、絶望が入り混じって感じられ、他者とのつながりが切断されて自分が解体してしまう感覚に陥ります。この混沌とした感情状態を制御するために、自傷、性行動、嘔吐、危険行動などの自己破壊行動に出て、病的に感情を制御しようとします。

  • B. 否定的な自己概念は、④、⑦

「自分は悪い子だ、だから両親は良い親である」と自分を非難して、加害を正当化する意味体系を発達させます。

  • C. 対人関係の障害は、③、⑤、⑥

解離的に過覚醒状態に自分を置くことで加害者に精巧に波長を合わせ、良い子にしていることで加害状況を支配しようとします。これは加害現場に適応させた防衛機制です。

このPTSD+3つの部分は、さきほども述べたように、彼らが生きのびるために必要不可欠なものとして発達させてきたものであることが分かります。

■治療方針

複雑性PTSDの治療については、別記事で解説しています▼

■まとめ

  • 複雑性PTSDと愛着障害の症状は同じだが、原因が違うことがある

  • 複雑性PTSDは、母親(養育者)、父親、カルト、誘拐、監禁、戦争などが原因である

  • 愛着障害は、母親(養育者)が原因である

  • 複雑性PTSDの症状はハーマンの7つの困難さによる

  • 複雑性PTSDの症状は、PTSDの症状プラス3つ


□動物のアトピー|ラジオおやすみカフェ

今日のラジオおやすみカフェのテーマは…アトピーは人間だけではない。詳細はラジオをお聴きください。

■他の助けを求めるのもいいでしょう

あなたが愛着の問題を抱えている場合は、自分の物語を十分に話せる臨床心理士などの専門家に相談するとよいでしょう。もし、いまのカウンセラーがいまいちと感じるのなら、別のカウンセラーを探しましょう。あなたにとって良いカウンセラーはあなたの一生の財産になります。あなたのカウンセリングがうまくいきますように。

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