マガジンのカバー画像

逆噴射小説大賞2023 個人的に好きな作品

48
運営しているクリエイター

#パルプ小説

バキラが首都にやってくる

バキラが首都にやってくる

「おーい少尉、しょーうい! デートに来たぞう!」
 時速500km超で飛行する機動艦の尻に突き刺さった大型砲弾、それを内側から突き破ったのは筋骨凄まじい巨女であった。
 銃撃で応えた三人の兵士を、数秒かけてそれぞれ蹴り、頭突き、こぶしの一撃で昏倒させると、顔面装甲にめり込んだ銃弾を指でほじくり返しながら鉄扉を前蹴りでこじ開ける。続く通路は機動艦の先端に向けて作られている。

「ガロフ少尉、あの女は

もっとみる
非合法無人傭兵

非合法無人傭兵

 まずカメラが回復する。
 青空と暗黒雲海。
 意識のタイムスタンプを確認。断絶は数秒間。
 身体ダメージ診断・軽微。武装・レーダー使用不可。カメラは生きている。
 友軍機反応、識別名『エフティー』。800m後下方。後輩の僚機。
 インパクト前に入っていた通信の復号完了。ミサオから。《準備完了。北倉庫の地下15階で。妨害警戒》
 現在通信機故障。
 ブロンソンはエフティーに向け友好的にアームを振る

もっとみる
「D.O.D」#逆噴射小説大賞2023

「D.O.D」#逆噴射小説大賞2023

「酒だけ飲んで生きていけるって知ってるか? 必要な栄養を摂れていないからあちこちおかしくなるんだが、飲んで死ぬのと、飲まずに死ぬのと、どちらを選ぶかなんて考えるまでもないだろう?」

「ドリンク・オア・ダイ、飲むか死ぬか、て昔はよく言ったが、今は違う。ドリンク・オア・ドリンク。少し飲むか、多く飲むか。短い間飲むか、長時間飲み続けるか。『二日酔いを恐れるならば、三日三晩飲み続けなさい』と言った聖人も

もっとみる
「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」

「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」

 身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。

 左肩でオトが呟いた。
「別に辞めなくたって」
 二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。
「奴らは信用できん」
「割符はどうすんの」
 陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた

もっとみる
シエラの帰還点

シエラの帰還点

 鼻血で汚れた袖口を見て、ここに鏡がないことを感謝した。
 向かってくる拳が見えたとしても、躱すのは無理だったろう。振動する床に体を預けながら、そんなことを考えた。

 閉じた世界には序列が生じる。それを決めるための闘争は避けられないし、ここでそれが起きるのは自然なことだ。なにしろこの機体は一度も着陸せず、七年間も飛び続けているのだから。信じられない話だけど、少なくとも僕を殴った男はそう説明した。

もっとみる
黄金ザクロ

黄金ザクロ

 誰もいなかった。たった独りきりだった。
 ウゥゥー……ウゥー……。
 荒涼とした大地に、呻きにも似た何かが木霊していた。言い知れぬ焦燥感とともに空を見ると、天頂には眩い光があった。耳元には囁く声。誰も、いないはずなのに。

 見えるか? あの輝きが。ぴかぴかとしたあの光が。わかるだろう? 俺とお前が求めてやまなかったもの。ありとあらゆる犠牲を費やし得ようとしたもの。俺とお前の生と死。終わりにして

もっとみる
死闘裁判 -Trial by Combat-

死闘裁判 -Trial by Combat-

 法廷の中央で、検察官の須藤と対峙する。
 距離二メートル。
 裁判官の、被告人の、傍聴席の、検察席の、全ての視線が、俺と須藤の二人に集まっていた。

 半年前、足立区で起きた、中学校教諭一家殺害事件。
 被告人の沢木に対し、検察は死刑を求刑し、弁護人である俺は、沢木のアリバイや、不当な取り調べ、証拠の不明瞭な点を論拠に無罪を主張した。
 死刑と、無罪。
 互いの主張は真っ向から対立した。
 従っ

もっとみる
「青き憤怒 赤き慈悲」

「青き憤怒 赤き慈悲」

 柔い背に刺棒を挿れる度、琉の華奢な身体は悶え、施術台を微かに揺らす。
 額の汗を拭い、俺は慎重に輪郭線を彫る。
 もう後戻りはできない。
 深呼吸。顔料の鈍い香りで気を静めると、十年来の教えが脳裏に蘇る。

「尋、邪念は敵だ。心が絵に表れる」

 師匠は姿を消し、人の背を切り刻む悪鬼へ堕ちた。
 発端は、俺の背が青く染まった日。



 一週間前。幾年も耐え忍び待ち望んだ独立の記念に、俺は自作

もっとみる
棺桶から響く挽歌

棺桶から響く挽歌

 篠突く雨の降りしきる中、馬車が列を組み山道を駆け抜けている。積荷が濡れないように覆われた幌も、雨の険しさに耐えかねて、雨を撥ねつける役目を放棄しつつある。時折幌に染み込んだ雨が貨車の中に滴り落ち、積荷を濡らしていく。

 雨に濡れた土の路面には、ところどころ水溜りが出来ており。車輪がそれらを踏みつけるたび、水と泥とを激しく吹き出させる。そしてサスペンションなどない貨車を小さく揺らし、時折、大きく

もっとみる
【最期寿司】 #逆噴射小説大賞2023

【最期寿司】 #逆噴射小説大賞2023

 老舗『なりた寿し』の板前、成田セイゴはまだ二十代中頃ながら、握りの腕も包丁さばきも、店主である父ロクゾウに引けをとらなかった。
 そして、すれ違った者は残らず目を奪われる、端麗にして精悍な顔つきの男だった。
 客たちはこぞってセイゴの力量と容姿を褒め称えた。政治家や財界人の客はみな、この若人がうちの息子であれば、養子にこないか、などと半ば本気で言うのだった。
 父ロクゾウは、いいえ倅はまだまだで

もっとみる
【空港税関-怪物図鑑】 #逆噴射小説大賞2023

【空港税関-怪物図鑑】 #逆噴射小説大賞2023

 空港のバックヤード、冷たい床を背に、腕に渾身のチカラを込めて、俺はチュパカブラの首を締めていた。

 なんだってチュパカブラの首なんか締めているのか? 仕事だからだ。

 俺は税関職員だ。といっても、一般にイメージされるような薬物取締はしていない。空港に運ばれてきた動物が輸入禁止のものでないかチェックするのが俺の仕事だ。基本、イヌネコと書類を適当に眺めるだけ。

 だが、違法な動物を運ぶやつもい

もっとみる
ザメラの慟哭

ザメラの慟哭

 奴が現れたのは、10年前とちょうど同じ時間だった。

『怪獣バグラ、街に上陸しました! 次々と建物を破壊しています。周辺住民はシェルターに避難を――』

 高角月美は自分のラボから中継を見ていた。映し出される街の惨状が、20年前の記憶と重なる。彼女の祖父の乗った戦車は、あの怪獣の脚で潰された。

 母は科学者だった。怪獣に有効なウィルスを開発していた。10年前、実用化されたそれを防衛隊員の父が撃

もっとみる
幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-

幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-

 「やめた方がいいよ」
 隣を歩く少女は、そう言って顔を覗き込んできた。長い金髪が揺れる。
 クリスマスの夜。大通りは、カップル達で溢れている。
 行き交う人の中で、少女の姿は浮いていた。バニースーツを着ているのだ。どう考えても屋外で着る服ではないだろう。
 だが、通行人達が彼女に目を向ける事はなかった。

 何故なら、彼女は俺が脳内で作り出した幻覚だからだ。

「向いてないよ、蓮には、殺し屋とか

もっとみる