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棺桶から響く挽歌

 篠突く雨の降りしきる中、馬車が列を組み山道を駆け抜けている。積荷が濡れないように覆われた幌も、雨の険しさに耐えかねて、雨を撥ねつける役目を放棄しつつある。時折幌に染み込んだ雨が貨車の中に滴り落ち、積荷を濡らしていく。

 雨に濡れた土の路面には、ところどころ水溜りが出来ており。車輪がそれらを踏みつけるたび、水と泥とを激しく吹き出させる。そしてサスペンションなどない貨車を小さく揺らし、時折、大きく嵌っては中の荷物を跳ねさせた。

 曲がりくねった道の先にあるのは、大きな壁に隔たれた小さな街だ。いかなる国の法も干渉せず、あらゆる権威も届かない街。噂によれば、力こそが己を守るものであり、唯一の秩序であると聞く。そして大国どもの取り決めにより、その門戸は年に数度しか開かない。

 昔話から聞くところによると、どうやらその街のある場所の地下には古代遺跡があるらしい。そこから発掘された様々な機械達は、当時よりも高度に発達した機械だったらしく。やがてその機械達は魔動機と呼ばれ、現代に至るまで世界になくてはならないものとなったようだ。

 ところが、ある時から古代遺跡から魔物が溢れ出し、世界中に牙を剥いたのだ。人類共の十年近くの抵抗の末、古代遺跡の周りに壁を立て、隔離することで終息を迎えた。

 ある者から聞くところによると、その話には続きがあるらしい。世の中にはロマンを求めるものが居て、スリルと宝を求め、壁に覆われたそこに居着く者が現れた。やがて壁の中に街が出来、現在に至るという。

 貨車の中にあるのは、なにも物だけではなかった。乱暴に揺れる貨車の中に、共に運ばれる人々の姿もあった。彼らは各々の目的のために、一つの街へ向かうこの馬車に乗っている。

 あるものは、富を求め。
 あるものは、宝を求め。
 あるものは、闘争を求め。
 そしてあるものは、真実を求め。

 地下に古代遺跡を称えたその街は、棺桶の街と呼ばれていた。


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