摩撫甲介
小説など
青空に白く尾を引くジェット噴射は、いつもより速度が乗っている。 全く、厄介な相棒を持ったものだ。 沙門はそれを視界に捉えつつ、国道を全開で飛ばす。 「メランダめ、どこで待ち合わせをするつもりだ?」 久しぶりに友人に会うと云っていたが、確かあの方向には巨大なジャンクヤードがあったはず…… ジェットの軌跡が地上へ向う。思考を打ち切り、慌ててハンドルを切る。背後の車のクラクション。 入口の巨大な鉄門から、大勢の従業員が慌てふためき吐き出されてくる。 車を路肩に突っ
倉庫を整理していると、隅に耐火布の被さった小山があるのに気づいた。 近くで札束を数えているボスに訊いてみると「軍の放出品、年代モノ」というので、布をはぐると、巨人が喰うような鉄色のピーナッツが二本足で立っていた。 6発の銃弾。 戦闘服の装甲は滑るように受け流した。 真っすぐ伸ばした左腕の先、砲口が赤い火柱を噴いて、弾を撃ち尽くしたボスの腰から上を、後ろの壁まで丸く抉るように溶かした。 メカオタクを拉致したまぬけ。 自分の顔がニヤけているのに気づく。嫌な感じがし
おれのことは摩撫甲介と呼んでくれ。毎日大量の本を読んでいるがお前たちにレビューするつもりはない。 本日24/08/10に秋葉原で行われた同人即売会「資料性博覧会17」へ行ってきたので、熱気冷めないうちに感想を書き記そうと思う。 資料性博覧会17とは? まんだらけが主催している資料性の高い同人誌の即売会で、今回は17回目らしい。ポスター絵を漫画家のpanpanyaが担当している。 なぜ行った? この辺の新刊が気になったので、行ってみることにしたのだ。 始まり 電車
「おーい少尉、しょーうい! デートに来たぞう!」 時速500km超で飛行する機動艦の尻に突き刺さった大型砲弾、それを内側から突き破ったのは筋骨凄まじい巨女であった。 銃撃で応えた三人の兵士を、数秒かけてそれぞれ蹴り、頭突き、こぶしの一撃で昏倒させると、顔面装甲にめり込んだ銃弾を指でほじくり返しながら鉄扉を前蹴りでこじ開ける。続く通路は機動艦の先端に向けて作られている。 「ガロフ少尉、あの女は何者なのです!……失礼」 制御室にいる副官は厚さ100ミリの封鎖扉に棚を被せる
まずカメラが回復する。 青空と暗黒雲海。 意識のタイムスタンプを確認。断絶は数秒間。 身体ダメージ診断・軽微。武装・レーダー使用不可。カメラは生きている。 友軍機反応、識別名『エフティー』。800m後下方。後輩の僚機。 インパクト前に入っていた通信の復号完了。ミサオから。《準備完了。北倉庫の地下15階で。妨害警戒》 現在通信機故障。 ブロンソンはエフティーに向け友好的にアームを振る。 エフティーからミサイルが放たれる。 ブロンソンはコンマ遅れつつ撹乱チャフ
おれのことは摩撫甲介と読んでくれ。この前改名した。「まぶ」だからな。 上の記事のアンサーを書こうと思う。どこの店もやってないから、やることなくて呑んだ酒の勢いで書いている。上のヘッダはAIで作った。 エルロイとダイナー読んでくれたのですか。ありがたい。 エルロイはほぼホワイト・ジャズしか読んでないけどオススメ。文体の電文体がリズミカルでよく馴染む。直木賞作家の馳星周の愛読書だとか。 ダイナーの続編はこちらから(最終更新2019年) 平山夢明の新刊が出た。ありがたい。 中
「神野さん、もう悲しむことはありません」 病室のベッドの娘の亡骸に埋めていた顔を引き上げると、仏陀が立っている。 その指が伸びて己の涙を拭うのを、神野は咄嗟に払いのけた。 「なんなんですかアナタ」 仏陀は優しげな笑顔を見せると、娘の額に手を当てた。 そこから放出された金色の光が娘に染み込んだ。仏陀は神野の手を取り、彼女の額にそっと当てる。 温かい。 息の詰まっている神野へ向け、仏陀は表情を変えぬまま言う。 「この礼として、貴方には私に手を貸して頂きたいのです」
改造医の河豚は簡単に折れた。 河豚が扉越しに声をかけると、ガラス戸がかっ開き、待たせていたリンドウが端末を握ったまま飛んできた。 「直りますか?」 「ええ、一週間後に手術です」 河豚が言った。 おれが頷くとリンドウは笑顔で礼を言うなり、おれが載せられた四駆台車の取手を押し始める。 医院から出るとすっきりした表通りだ。気取ったスーツどもがビビって道を開けていく。だいぶ背の低くなったおれを見下ろしながら。 リンドウの顔を見上げると、彼女は自慢気に見返した。 「あたし
横薙ぎに椅子を男のこめかみに叩きつける。 吹っ飛んだそいつに椅子を投げつけ、腹の包丁を掴む。滑る。奥歯が割れそうになる。抜ける。 思わずたたらを踏む。 ゆっくり跳ね返ってくるそいつ。壁に押し付け、倒れ込みながら、うなじに包丁を押し込む。硬いものを断ち切る感触があった。 救急テープでスーツの穴を塞ぐ。アドレナリンとエンドルフィン剤の追加ボタンを押す。ヘルメットの血を拭い、浮いている斧を掴む。 死体をどかし、障壁を叩き破る。刃を見る。取り替える必要があるかもしれない
犬の群れが追う。 ドアを叩きつけ、もつれる手で鍵を刺す。 ロックが掛かり、吠え声と衝撃がドアを貫いてくる。 瑠璃子はバッグに手を差し込みながら、息を吸い、視線を走らせ、足を運ぶ。 バスルーム、キッチン、リビング…… 音。 クローゼット。 背後。 「危なかったな」 振り向きざまにバッグを投げる。 受け止めた男の鉄仮面に照準が重なる。 銃火。金属音。 伸びる腕。 銃弾が潰れ落ち、革手袋が拳銃をもぐ。 手刀が男の手首を打つ。弾かれた手をおさえる。冷た
母さんは昨日のことが嘘みたいなニコニコ顔のまま、お皿を2つ、僕とカナの前にそれぞれ置いた。 「ごちそうさま」 「…ごちそうさま」 また平手だった。 カナ。次に僕。 母さんが空っぽのお皿を持ち上げた。 僕は窓を見る。 「母さん」 背中が止まった。 「なあに?」 「父さんの出張、いつまでだっけ」 「お昼すぎには帰ってくるって言ってたわ」 「うん」 次は土鍋が来た。 母さんが蓋を持ち上げる。いやな蒸気が膨れ、上がった。 お玉が中身をかき回し、すくったそれを僕ら
おれのことは摩部甲介と呼んでくれ。 クリスマスプレゼントがあった。(文庫本は個人情報隠蔽用だ) 送り主は当然、この人だ。(送り状の抜粋) そう、大賞の品だ。 いまからこいつをボロニアソーセージとやって、祝う。 計算サイトによればコロナ一本は2時間で抜けるそうだから、外出時間までに充分間に合うはずだ。 こいつらはじっくり呑み進める予定。 小説の続きは先の記事に書いた通り、読みたい人はじっくり待っていてくれ。 逆噴射聡一郎先生、ダイハードテイルズさん、そして作品を読んでいた
朝起きてツイッターを見ると通知があった。 大賞おめでとうございます!だと。 記事に飛んだ。 読んだ。 勝った。 しかもダブル受賞だ。 呑みたかったが買い物の予定があるので、仕方なくボロニアソーセージを齧りレモン汁を口中に垂らす。 栄光はおれのもの。 コロナビールはおれのもの。 コメントがとても嬉しい。 いくつか問題がある。 逆噴射聡一郎先生が、続きを読みたがっている。 サイバーパンク2070(通称:サイパン。誰も呼んでくれない)を買ったばかり。 あの子の方は短編を意識し
喰いかけのボロニアソーセージを齧りながら安スコッチをちびちびやっていると、通知があった。 投稿した4本のうち、3本が選考を突破。 驚きがあった。 自信作の「牙に生え変わるとき」が落ちたからだ。 不満だが選考メモを読み一人合点する。 こいつはすごく予告編じみている。 大藪春彦要素と某モンちゃんを元ネタにした男を出せて満足したらこのざまだ。 続きは書くかもしれないし書かないかもしれないし書かないだろう、多分。 それとなにか、昨年に続き一番スキをもらった作品が落とされてるのは
ナカモトの家の玄関は広く、すっきりとしていた。新品のスニーカーが1足だけ。起爆装置のひとつやふたつはあると思っていたのだが。 「手応えのねえ扉だな。高級エンジニアにしては防犯意識が低過ぎら」 荒事屋のブルーザーがブッターギルン社の電ノコを止めて言った。 「仕事は楽な方がいい」おれは言った。 売れっ子にはおれの気持ちはわかるまい。おれにはあと28時間しか残されていないのだ。それまでにナカモトからデバイスの在り処を引き出さなければ、バラされて市場に流されるのはおれの方だ。
まず通帳を、次に結婚指輪をフロントガラスに投げつけた途端、リョーコは閃光と轟音にやられた。 耳鳴りが遠ざかると、ゆっくりと目を開けて目の前を見た。 銀行の窓という窓は消滅し、そこから黒煙が噴き出している。路上では数人が血まみれで倒れ、身動きひとつしない。 バン! びくり、と飛び上がった。見る。運転席の窓、血の手形。髪と髭がぼうぼうの大男。全身黒く汚れている。 目が合った。 男がさっと消え、後ろのドアが開く。なんで。締め忘れ?バカ! まず子供程もある大きなパンパ