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空に噛みつく青い鳥

  犬の群れが追う。

 ドアを叩きつけ、もつれる手で鍵を刺す。
 ロックが掛かり、吠え声と衝撃がドアを貫いてくる。
 瑠璃子はバッグに手を差し込みながら、息を吸い、視線を走らせ、足を運ぶ。
 バスルーム、キッチン、リビング……
 音。
 クローゼット。
 背後。
「危なかったな」
 振り向きざまにバッグを投げる。
 受け止めた男の鉄仮面に照準が重なる。
 銃火。金属音。
 伸びる腕。
 銃弾が潰れ落ち、革手袋が拳銃をもぐ。
 手刀が男の手首を打つ。弾かれた手をおさえる。冷たく、硬い感触。
「犬どもをどうにかしてやろうってんだよ」
 弾を受け止めたはずの仮面には、跳弾痕すらない。
「……そう」
 胸に詰まった息で、声は小さい。

 6匹の死体が転がっている。
「急に襲ってきて、だんだん増えて」
 瑠璃子はマグカップを男に差し出す。
「アンタのこと、知ってるかも」
 連続殺人犯の似顔絵。
 近くでヘリが飛んでいる。
「ハメられてね。荒事屋のオウだ」
 手袋を拭っていたハンカチをしまい、カップを受け取る。
「動物を使う殺し屋がいる」
「なんでアタシが」
「ちっ、うるさいよな」
「ヘリよね、なんだろ」
「おっと、割れちまうからな」
 カップを手渡し、ベランダの窓に手を掛ける。
 引き開けるそばから轟音と猛風が引っ掻き回し、瑠璃子の青く染められた髪が乱れ荒れる。
 なだれ込むのは重装備の制服たち。肩に赤子の紋章。銃が瑠璃子に向く。
 挙げた両手の背後、オウが叫ぶ。
「少しだけ動くなっ」
 瑠璃子の喉元にはナイフ。
 制服のひとりが片手を挙げる。
 大きな手が瑠璃子の口を押さえつけた。掌から唇に割って入るものがある。オウは耳元で囁く。
「時間がなくてな……向こうでカーペンタインという男に渡せ。もし、潰したら……お前を殺しに行かなきゃならん」
 頷く。
 
 ヘリが遠ざかる。
 音と風が失せると、オウはバッグを拾い上げ、中を探る。瑠璃子が投げつけたものだ。
 指が止まる。引き抜かれた写真を見ながら、オウは携帯端末をプッシュする。

(続く)

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