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日々のエッセイ

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2019年から湖畔暮らし。自然、家族、ヤギ、トリ、仕事、そして考え事の日々。
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#移住

電子書籍の出版と夏の思い出

電子書籍の出版と夏の思い出

2023年8月15日、電子書籍を出版した。

こう書いてしまうと簡単なのだけど、この21字の一部始終にはたくさんの時間と想いを注ぎ込んだため、そのことについて書いてみたい。

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電子書籍の出版については、実は昨年から漠然と考えていることだった。なんなら生きているうちに何かしらのかたちで自書を出版したいというのは、もっと前からの夢であった。

それを実現させようと思えたのは、他ならない飼いヤ

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百点満点ではなくとも

百点満点ではなくとも

湖畔に位置するこの町は、風がよく吹く。二つの湖に囲まれた大地にはサツマイモ畑が広がり、畑の砂がサラサラと風にさらわれていく。数日前に洗車したばかりのはずが、もう汚れてしまっている。

ここへやって来てもうすぐ三年半。長いような、短いような、そんな時間だった。家から少し歩けば夕日に照らされた湖岸へとたどり着き、誰もいない風景を独り占めできるのはささやかな贅沢だ。

しかし、来世でもこの町に住みたいで

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蔵から宿になるまでの物語【6-10話】

蔵から宿になるまでの物語【6-10話】

2022年の春頃から自宅敷地内にある、築100年の蔵をリノベーションしています。現在はすでに工事を終えて、今年2023年には小さな宿をオープンする予定です。

約8カ月間の再生工事のなかで、感じることがたくさんありました。感じたことをこのまま忘れ去ってしまうのは勿体無いと思い、公式ホームページ内で「蔵から宿になるまでの物語」をエッセイ調で記録しています。

このnoteでは原文は掲載していませんが

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蔵から宿になるまでの物語【1-5話】

蔵から宿になるまでの物語【1-5話】

昨年noteでも触れたことがあるのですが、うちの敷地内にある築100年の蔵をリノベーションして、宿にする準備を進めています。宿といっても夫婦二人で運営する、一日一組限定の秘密基地みたいな小さな宿です。今は工事もほとんど終わり、家具や内装を整える段階になってきました。今年3月にはプレオープンにたどり着けそうです。

その記録をnoteでも一時期エッセイとして書いていたのですが、宿のホームページをほぼ

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100年の歳月

100年の歳月

わけあって自宅敷地内にある築100年の蔵を改装し、宿泊施設へリノベーションすることになった。工事期間は2022年5~11月頃までを予定していて、実際のオープンは2023年春の予定。

なぜそのような運びになったのかだけ、ここに記録を残しておこうと思う。

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私が暮らしているのは湖畔の田舎町である。結婚をきっかけに2019年に移住し、2年半が経過した。サツマイモの産地ではあるものの、特に目立

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移住うつと産後うつは似ている

移住うつと産後うつは似ている

30代になり、身近な人が出産する場面が増えてきた。私自身はまだ子供を産んだ経験はないけれど、学生時代を一緒に過ごした友人が「お母さん」になることで、もろもろの興味は湧いてくる。妊娠ってなんだろう、出産ってなんだろう。

それらについて調べていくうちに、「産後うつ」のことを知った。妊娠出産は奇跡の連続で非常におめでたいことだし、華やかな面に注目されることが多いと思う。でも実は、離婚するタイミングで最

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移住と両親と

移住と両親と

縁もゆかりもない湖畔の田舎町へ引越すと伝えたとき、自分の両親がどんな反応をしたか、正確な記憶がない。ただ、母からこんなことを言われたことは覚えている。

「あらあ、どんどん遠くに行っちゃうねえ」

もともと都内で一人暮らしをしていたこともあって、実家を離れたときのような打撃はなかったはずだ。そう、実家を出た日、私たちは母子揃って泣いた。今でもその時の母の顔を思い出しては、言葉にできない罪悪感で胸が

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焼き芋の時間

焼き芋の時間

自分一人だったらやろうと思えないことも、自分以外の人がいるならやろうと思えることがある。

例えば「夜ご飯を作る」という作業は、一人だったら雑になるか、もしくはやらない可能性がある。作らなきゃ、食べなきゃ、という気持ちがそもそも起こらないのだ。何にも縛られないことは自由でもあり、虚無にもなり得る。

自分以外の人の存在があるからやる。流されているようで、実はとても大きなモチベーション。

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働くことの処方箋

働くことの処方箋

いま、期間限定で自治体の税務に関する業務をお手伝いしている。

性格が真面目な自分にとっては、税金や法律などアウトラインがくっきりと分かるものの方が付き合っていてラクなのだ。その点クリエイティブな事柄は自由すぎて、ときどき疲れてしまう。

短い間ではあるものの、ここでの仕事が久々に自分にハマっているようで、地方移住後に長らく抱え続けてきた仕事に対する「もんやりした霧」に一筋の光が差してきた。

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茜色に染まりて

茜色に染まりて

夕焼けが綺麗な日が続いている。

湖の彼方へ消えていく太陽は、リレーの選手かと思うくらいスピードが速い。特に運転している時に日の入りが重なると、その速さをありありと感じる。

車のアクセルを踏めば自分が前に進むのは当然だけれども、まるでその力が太陽にも伝わっているかのようだ。地平線の向こう側へと太陽をぐんぐん引っ張っていく。

「この町から見る夕日は本当に綺麗よねえ」

ご近所さん、近隣市町村に住

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住みたい場所と住める場所

住みたい場所と住める場所

8月は夏休みシーズンということもあって、毎週末お客さんが来てくれている。まだ始めたばかりの民泊を利用してくれるとは、とてもありがたいことだと思う。

お客さんによっては結構緊張してしまうことがあって「もっとたくさん話したいけどビビッて話せない……!」のようなことがしばしば起きる。お客さんとしてはゆっくり泊まりに来ているワケだし、ずけずけと会話し出すのも気が引ける。

こんな感じでも、朗らかにお客さ

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