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2020年2月の色々(tricot/ROTH BART BARON/アーバンギャルド/ラストレター/甘い手/スペシャ列伝/グッドバイ/Breezin Vol.1)

月ごとの色々、昨年7月ぶりの復活!

2.1 tricot 『真っ黒リリースツアー「真っ白」』@福岡DRUM Be-1

公演3日前にリリースされたばかりのメジャー1stアルバム『真っ黒』、そのツアー初日。白い衣装に身を包んだtricotはさながら"あの頃の赤い公園"のようだなぁと思いながら、1曲目からいきなり長尺のアレンジが施された「混ぜるな危険」で、さすが一筋縄でいかんなぁと唸ってしまう。ワンマンを観るのは約5年ぶり、吉田雄介が正式ドラマーになってからは初めての鑑賞。その見心地は、2013年頃に出会った時の野蛮さは控え目となり、その演奏の構築美をとくと見せつけるようなテクニカルでシックな色合いのライブ。とはいえ地味なわけではなく、針の穴に糸を通すかのような演奏の一体感、その混ざりに感嘆しきり。ロックドラマーじゃない腕を持って、この不可思議なロックを乗りこなす吉田のプレイは間違いなく今のtricotの根幹を成す。

『真っ黒』は全編通してトリッキーながらも独特の心地よさを持ったメロウな楽曲が揃っている。前半はたっぷりとそんな曲たちに聴き入る時間を用意。しっかりと現在のモードを披露した後、「E」や「おもてなし」といった往年のキラーチューンをまとめて中盤に投下し、熱狂を巻き起こす。その後、後半は再び『真っ黒』に染め上げる、、という構成で、結成10周年にして新しいバンド像を明確するようなセットリスト。メジャーデビュー曲「あふれる」はしっかりと一段上のポピュラリティを狙って作られた素晴らしいサビにグッとくるのだが、その曲を最初のリードナンバーである「爆裂パニエさん」と並べて披露していたのはストーリーを感じて感極まった。自らのカッコよさのみを考えてやり通した10年間。その新たな一歩に立ち会えた。


2.7 ROTH BART BARON Tour 2019-2020~けものたちの名前@福岡 the voodoo lounge

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9月のミュージックシティ天神、11月の天神中央公園でのイベントと立て続けに見て、"もっと観たさ"が昂り切ったタイミングでのワンマンライブ。想像を超える素晴らしさであった。キャパ200も入らないような狭いハコなのだけど、爆撃機が飛び回る終末寸前の世界や、ここではないどこか遠い国の広原や、アンドロイドが踊る近未来までもを眼前に立ち上げてくれる柔軟なサウンドスケープに目を輝かせてしまった。ステージ後方を位置取っていたサポートミュージシャン2名が凄すぎた。主に金管楽器を吹いていたのだが、曲によっては鍵盤も鉄琴もアコーディオンもコーラスも操り、豊かな音楽を構築していた。ギターで参加していた岡田拓郎も、原曲にはないエッセンスを注入するなど、様々な才気が寄り集まったプレミアムなツアーだ。

『けものたちの名前』は不穏なアルバムである。見ないフリをしているだけで刻一刻と過酷な時代に突入する2020年を憂う、のではなく、観察するようにして描かれた世界。その現状から逃げ出すのではなくその内側にある自分たちの世界を守り抜くための音楽だ。だからこそロットのライブは厳かでシリアスにも関わらず、温かで祝祭のようなムードすら漂う。音と一体となって体を揺らすことで、魂が次のフェイズへと向かっているような気が、、と少しスピリチュアルな気分に達してしまう程に、超越的なモノに触れている気がしてくるのだ。アンコールの最後にボーカル三船さんが「2020年、マジで大変ですけど、サバイブしてまた会いましょう」と言ってくれた。生活を守ることは、こんなちっぽけな約束からでも始まっていくのだなぁ、と。


2.8 アーバンギャルド 2020"TOKYOPOP TOUR"@福岡INSA

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2020年元旦リリースのアルバム『TOKYOPOP』のリリースツアー。Perfumeのドーム公演の真裏の日程で観る趣深さよ。通常はサポートミュージシャンと共にバンドセットでライブを行っているが、今回のツアーは本メンバー3名のみで行う"テクノポップセット"。キーボードのおおくぼけいがラップトップ操作、VJ、そして鍵盤という楽器+演出の全てを担い、サイドに浜崎容子と松永天馬がスタンドマイクと共に並び立つ編成。これつまりファンモンスタイル。ダンスフロア仕様にリメイクされた過去の楽曲群がズシズシと体を揺らし、さながらレイヴパーティーであった。行ったことないけど!

アーバンギャルドを聴き始めて8、9年経つのだけどライブは初めてで。というのも、この圧倒的カルト感。正直、今回も始まる前からメイド服、ゴスロリ、セーラー服の女子たちにまざっておじさんもいっぱいいるみたいな、独自に醸造された客層に場違い感しかなかった。のだけど、実際始まってみれば、バキバキのビートに身を委ねるだけで気持ちよく、その上で繰り広げられる歌はずっと愛聴してきたものばかりで、不思議なライブ体験であった。

松永天馬氏が手掛ける楽曲には、あらゆるサブカルチャーからの引用と時代に沿ったテーマを混ぜ合わせるというテクニカルな部分と、どうしたって抗いがたい少女像への希求が混在する大変にラジカルな部分があり、その知性と本能のぶつかり合いに強烈に惹かれてしまうのです。曲に合わせて踊り狂い、叫び倒す彼の姿は表現者というよりも身体性に富む思想家のようで眩しかった。よこたんも発声がシャンソンだから、妙に高級感あって良かった。


ラストレター

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この映画はもう、森七菜ですよね。森七菜の演技ポテンシャルを最大限に引き出して活写した、デビューから続く森七菜・第1章の完結とも呼ぶべき魅力あふれる映画であった。物語の本流の中で"そこに巻き込まれた者"として素朴に躍動する颯香、物語の源流において"世界を始めてしまう者"として切なく彩りを添える裕里、そして物語の行き着く先で"大いなる者"としてエンドロールに歌声を乗せる森七菜、この3役。クラスにいかにも居そうな親しみやすさと底知れない神秘性を兼ね備えたこの女優、末恐ろしい大器だ。

岩井俊二の本質は、おかしみと悲しみだとずっと思っていて。ドタバタとした松たか子はとても面白いのだけど(デカ犬に引っ張られる様、ずっとウケてた)、森七菜が演じる高校時代のイメージを踏まえたうえで観るとあのずっこけ感もとてつもなく愛おしく切ないものに見えてきて。森七菜から松たか子になるまでに経てきた人生の苦味までもを体現する裕里という人物像に終始感極まっていた。特に最終盤の図書館でシーンとかね、あぁ人ってこういう小さな願いを持ちながら生きていくものだよなぁと。変わっていくもの、不可逆な時間についての物語だからこそ、あのシーンで松たか子が見せたハシャギっぷりは何より美しく、かけがえのないものに見えて仕方がなかった。

広瀬すずと森七菜がボルゾイを連れて散歩をする、それを福山雅治が見つけて追いかける一連は、ありえそうな出来事なのに、ボルゾイのおかげで幻想的に仕上がっていてそこも良かった。まるで白昼夢のような絶景だった。



2.15 万能グローブガラパゴスダイナモス第26回公演「甘い手」@福岡市美術館ミュージアムホール

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福岡のシチュエーションコメディ劇団、15周年記念公演。劇団員はほぼ全員が総出演、客演も合わせて合計13名による大所帯で作り出した作品であり、とてつもなく賑やかな作品であった。福岡のとある高校で、文化祭に向けて様々な生徒/教師の想いが突っ走っていくという、王道も王道の青春ストーリー、なのだけどやっぱりどこかズレてて妙な所にエネルギーが通ってるっていう、これぞ喜劇であった。僕がガラパおよび川口大樹氏の手掛けた演劇を観始めたのが最近なので、このポップでシンプルに爆発する笑いの数々は新鮮だった(どちらかというと毒気があってシニカル&ダークなコメディを得意としてる印象だったので)のだけど、元々はこういうただバカ、みたいな作品が多かったらしい。これは過去作品へも遡り甲斐があるってもんですよ。

いつもは1つのセット、1つの状況を暗転もなく描くスタイルの芝居が多いのだけど、今回は場面を飛ばしながら切り替えていく手法を導入したことで、漫画やアニメのようなテンポ感が生まれ、自由度高い演出が花咲いていた。劇団メンバーもそれぞれの本名に近い人物名を与えられたことで、よりどこか身近な存在感のあるキャラクターとして生き生きと転げまわっていた。

ガラパが生まれた大濠高校にほど近い会場で、まさしく"高校生とステージ"という設定があるとなんだか物語以上のエモーションが加速する。旗揚げメンバーはもう教師を演じる年齢だけど、新人の加入も活発な昨今、こうやって若手団員が活躍する芝居を15周年記念と打って敢行できるのは、開放的でとても良い。今年12月に開催予定の1か月ロングラン公演も楽しみだ。


2.21 スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2020@福岡BEAT STATION

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毎年、情報も追っているし、今年誰が選ばれるかを予想したりなんかもしてるけど実際に行ったことはなかった、毎年恒例・SPACE SHOWER TV主催による若手ショーケース対バンツアーに初参加。第13回目となる今回、幕間に流される歴代出演者の映像に歴史を感じながらライブへと臨んだ。

①ハンブレッダーズ
ようやく観れたけどライブで観るとだいぶ迫力があってのけぞってしまった。1音ではっきり分かる骨の太さ。徹底的に"陰"な我々の側であり続けてくれる姿勢に加え、最近ではそんな僕らを鼓舞するような頼もしさもある曲も増えてきており、そんな折でのメジャーデビューという追い風吹きまくりモード、30分に旨味を閉じ込めていた。「DAY DREAM BEAT」は御守りだ。


②Suspended 4th
こちらも初見で、だいぶぶっ飛ばされた。ハードコアなミクスチャーでありながらヒップホップのテイストも色濃く反映されたその音楽性はもちろん、ステージングに見惚れてしまった。挑発的なGt.&Vo.、スタイリッシュなGt.、スラップで踊り狂うBa.、ジャズ畑の外タレドラマーという、あまりにもバラバラな4人が織りなす支配的な30分。バスドラが壊れるアクシデントをすんなりとアドリブセッションで乗り切る姿が眩しかった!


③ズーカラデル
この日、唯一観たことあるバンドであり本命だった彼ら、気ままなのに力強い、安心感溢れるライブだった。MCは全然舌が回ってなかったけど、歌は幾らでも雄弁。異色の対バンツアーであるスペシャ列伝そのものを謳ったような「友達のうた」、関係が深まった先のファイナルで聴いたらより良いだろうなぁ。「アニー」から「漂流劇団」でのトドメ、泣いちゃうな。リハで鳴らされた「誰も知らない」も凄く良かった。


④KOTORI
この日のトリ。個人的には観測範囲外のバンドだったんで知らなかったのだけど、もう完全に1つのシーンのセンターになり上がった光景を繰り広げていてびっくりしてしまった。ギターロック的エモーションをメロコアを経由して発するような、まさに1995年生まれを強く感じる音楽性。拳を突き上げ、飛び交う人々、イントロで「これは俺の曲だ」とばかりに飛び跳ねる若者、壮観。アンコールでプレイした「トーキョーナイトダイブ」が大好き。


バンドという形態がやや時代遅れになりつつある2020年において、今回スペシャが選出した4組は狂おしいほどに純然たるロックバンドのみだった。ギター、ベース、ドラム、歌がやかましく重なり合うロックの威力を思い知るようなツアーになるはず。


グッドバイ

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太宰治、未完の遺作「グッド・バイ」をに着想を得て、ケラリーノ・サンドロヴィッチが2015年に発表した戯曲「グッドバイ」を原作として、奥寺佐渡子が脚本、成島出が監督を務めるという、いったい何重構造なんだという映画。結果としてキャストも含め、かなりしっかりとした布陣で作られたので安心して観れる娯楽作品に仕上がっていた。当たり前のように愛人が10人いるという設定かつ、そのそれぞれの愛人がほのかに狂い続けているという状況から生まれる、ケラさんらしい不毛なやりとりと、ヘンさ自体をまぁなんかそうなのかもと思わせる謎めいた平熱感を、しっかりスクリーンのサイズに落とし込んでいた。テンポよく笑わせられる台詞回しがちゃんとあった。

とっぽい大泉洋も凄くハマっているし、やはり彼には嘆きが似合う。そして何より小池栄子である。昨年の「俺の話は長い」ではどちらかと言えばツッコミ的な立ち回りで笑いを掻っ攫っていたが、今回が紛うことなきボケ側である。舞台でも同じ役を演じていたことも手伝っているとは思うが、キヌ子の破壊的な魅力と純朴なキュートさをこの上なく演じ切っていたように思う。ずっとすごいけど、ここ数年本当にやる役全部を想像以上に持っていくスゴイ女優だなぁと思う。故にその他の素敵な女優たちが揃っているが小池栄子待ちになっちゃう瞬間もあった。犬山イヌコ、池谷のぶえの登場はサービス的なものかなぁ、ってくらい短かったし。あと「嘘からはじまる人生喜劇」ってサブタイトルはやめてほしかった、物語の読み幅を狭めてる。

2.29 Breezin Vol.1@cafe and bar gigi(三回転とひとひねり、Ocelott、Abyssal、YOUND)

多くのライブが中止を余儀なくされた2/29。僕もこの日はフジファブリックのライブを予定していたけど延期に。ならば、とばかりに日被りで諦めていた薬院のバーでひっそり開催されていたこちらに足を運んだのだった。

①三回転とひとひねり
4年前に知って大好きになり、レビューを書き残してたくらいにはハマっていたのだけどなんだかんだでライブは初見。こういう機会じゃないとずっと見逃してたかもしれないから幸運だった。客席もステージもバーもフラットなこの会場においても、しっかりと世界観に入り込めるような導入ナレーションとか繋ぎの語りがあって良かった。つくづく朗読に向いた声質だ。

ほとんど未音源化の曲ばかりだったけど、パフォーマンスが粛々とストイックで良かった。ギターのよしださんはずっとステージを背を向けて演奏していてめちゃ不思議な画だったのだけどこの音楽ならなんかしっくりくる。ボーカルのみさきさんの棒立ち、たまにタンバリンという姿もばっちり。今年は少し大人になった新音源のリリースもあるとのことで、期待でいっぱい。

②Ocelott
本企画の主宰。このライブまで全然知らなかったのだけど、noodlesとか好きなら絶対反応しちゃうような絶妙なオルタナ感を持つバンドで。こういう平熱感とタイトさが同居してる音楽、凄く好き。この日はベーシストが不在の特別形態で、2週間前に購入したというキーボードを用いての新アレンジ、カバーなどもあって楽しかった。またフルセットで見てみたいなぁ。


③Abysall
良いライブ映像が無いのが惜しいのだけど、すごく良かった。ほんと知らないだけで福岡にはいっぱいカッコイイバンドいるんだなぁと。ローカル特有のしみったれた感じが一切なく、バキバキなグランジを奏でる3ピース。SUNNYに隣接した会場で鳴るにしてはノイジーにもほどがある演奏、ノッてるだけで酔いしれてくるような音。商売っ気の全くない衝動、というような

④YOUND
キイチビール、バレーボウイズとの対バン以来に観たYOUND。ジャイ子のような髪型になっていたあおたさん、仕事終わりでドラムぶっ叩いたまんなみさん、そしてサポートで入っているクセしかない後藤さんという、どこを切り取っても画になる3ピースでのグッドソングたち(新曲も素敵だった)。トリに相応しい多幸感であった。フリーダムで気ままな感じがとてもいいんだ。

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