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さつき@読む温泉
2021年3月23日 06:04
「石を食べるサイがいる。群れを作って町に現れ、石や岩を食べていく。そして数日すると、別の町へと移動していく」そんな話を、子供のころ作ったことがある。童話のつもりだった。不思議な世界の。今は思う。あれはどこにも居場所がなかった自分の、振り下ろせなかった拳だったのではないかと。-------------------------***こちらはTwitterの 140字小説( https
2021年3月20日 13:25
「がんばれ!」応援席の私は、バスケの試合を見守る。シュート。歓声。「キャプテン、かっこいいね」隣の友達がささやく。私達はキャプテンの追っかけだ。なのに今日は、なぜか君に目がいってしまう。ただの幼なじみなのに。走る姿、真剣な横顔。「かっこいい」「だよね」君にドキドキする。 ☆ ☆ ☆試合終了。うちの学校は負けた。応援してた私は、会場から出るメンバーを迎えた。「お疲れ様」
2021年3月19日 20:25
誰にでもフレンドリーに接してしまう。「こんど飲みましょう」のお誘いメールには、「じゃあ友達も呼びますね」と返信を。がっかりされても気にしない。すぐ恋が壊れるのは見えている。幻滅されたくない。傷つきたくない。ならば最初からスタートしないほうがいい。恋がしたい。恋が……恐い。-------------------------***こちらはTwitterの 140字小説( htt
2021年3月18日 10:21
「僕と君とは、持っている世界がぜんぜん違う。僕は、君のようには作れない。君も、僕のものは作れない。ライバルって喧嘩するかい? 嫉妬もするのだろうか。それでも僕は、君の世界が好きだよ。応援してる。いつもエールと拍手を送っているよ。きれいごとの意見かもしれないけどね」ほら、僕は偽善者だからさ。と彼はシニカルな笑みを浮かべたけれど。あの時の言葉は本心だったと、わたしは今でも思っ
2021年3月16日 09:15
会社の新年度は、いつも運動会がある。豪華な賞品つきで。今年は山登りだ。皆どんどん進む。私は日頃の寝不足と体力不足で、途中でリタイア。実行委員の人が付き添いをしてくれた。「足、痛みますか」「少し」「肩を貸しますよ」イケメン顔が間近に。ドキッとした。夫とのなれそめの話。--------------------------***こちらはTwitterの 140字小説( https:
2021年3月14日 07:33
右手にアザができた。すこし痛い。病院の薬を塗ると痛みは消えた。でもやめると再発する。治らない。理由が分からないまま、アザは手に何年もあった。大小の変化はたまにある。広がることもあるが、数ヶ月かけてまた元の大きさに戻る。考えた。大きさの変化に、法則性はあるのか?ハッとした。自分に合わない仕事についた時や、家族サービスが多い時期に、アザは大きくなっていた。これはつま
2021年3月13日 06:50
僕たちは今日でピリオドを打つ。彼女のアパートに、僕の物はもうない。「忘れ物は」「大丈夫」淡々と確認する。誕生日などイベントのたびに贈り合ったモノたちも、みな返した。「それじゃ。……あっ」彼女は小さく声をあげ、奥にひっこむと、手に小さな何かを持ってきた。アトマイザー。そのキャップをはずし、自分の手首にシュッとひと吹きする。「これも返したほうがいい?」「持ってていいよ。もと
2021年3月5日 08:39
私は雪女よ。最期に君は笑った。だから空に還っていくわ。雪国育ちだったね。君の純粋さは、雪のように白かった。クールな所は、雪の冷たさ。微笑みは、日の下の雪のきらめき。君の体は、雪肌のなめらかさ──君の故郷を歩く。君のかけらを探して。気がつくと山に迷いこんでいた。雪が降る。ためらいがちに。ああ、君だね?自由になった君は、雪の舞いで僕の肩をたたく。僕の頬をぬらし、唇にふれ、
2021年3月4日 07:22
「あなたのウェディング姿を見るまでは死ねない」と言った祖母は、私が彼と挨拶にいく前に逝ってしまった。結婚式の日。教会のドアをあけて、ライスシャワーをあびながら階段を下りた時。ピールリー……すんだ鳥の鳴き声。「あ」涙がこぼれた。祖母の好きなオオルリだった。見に来てくれたのだ。--------------------------***こちらはTwitterの 140字小説( h
2021年3月3日 08:25
コロナで社会生活に影響が。でも日本人は「食事中はしゃべらずに箸を動かしなさい」と躾られてるし、手づかみで食べるものもない。ハグはせずにお辞儀を。土足はしない。疫病対策が日常的にある。うち? うちも昔から出来てるよ。食事は毎日無言だし。妻とは1m、娘とは2m以内に近づけないよ。対策はバッチリさ。あれなんだろう目から水が……--------------------------***
2021年3月2日 06:08
彼女は明るくやさしい。誰にでも。こんな地味な私にも。(もっと私としゃべって。笑顔ももっと。どこにも行かないで。他の人としゃべらないで──)蜘蛛の糸のような思い。ずっと自分のそばにいてほしいと願う。他の人をすべて排除したいという思い。これは嫉妬だ。友情ではなく。自分を恥じた。都会への大学進学を機に、引っ越しをすることに決めた。「行かないで」駅のホームで涙ぐむ彼女。「またね
2021年2月28日 06:37
互いの家に、あけましておめでとうとあいさつに行き、甘酒を飲んだ子供時代。お父さん秘蔵のウィスキーをなめて倒れ、こってりと母親たちに怒られた中学時代。久しぶり元気? とビールで再会を祝った大学時代。ワインボトルを真ん中に、別れ話をした社会人3年目。緊張しながら並んで三三九度を交わした結婚式。--------------------------***こちらはTwitterの 1
2021年2月27日 07:53
──タイムマシンがあったら何をしますか?突然話しかけてきた男がいた。戦後の闇市で芋を買う金もなくさまよっていた時。懐のにぎりめしを半分に割って、俺にくれた。路肩にしゃがんでむさぼり食った。3日ぶりの飯が腹にしみた。──私は、先祖達のプロポーズをぜんぶ見たい。お見合いや、結婚式でもいい。通りすがりの人として、おめでとうと言いたい。男がなにを言ってるのか分からなかった。家族はみんな
2021年2月25日 05:54
母のタンスに、ウールのロングコートがある。真っ白で、ギャザーとリボンがついてる可愛いものだ。でも着たのを見たことがない。着ればいいのにとうながすと、綺麗すぎてもったいないと逃げる。それが数年続いた。今年、季節の衣替えでタンスの中身の入れ替えをする時、あのコートがないなと思ってたずねると、母は「処分した」と答えた。「どうして? 気に入ってたんでしょう」「……」実は一度着たという。それ