さよならインラブアゲイン【掌編小説】
僕たちは今日でピリオドを打つ。彼女のアパートに、僕の物はもうない。
「忘れ物は」
「大丈夫」
淡々と確認する。
誕生日などイベントのたびに贈り合ったモノたちも、みな返した。
「それじゃ。……あっ」
彼女は小さく声をあげ、奥にひっこむと、手に小さな何かを持ってきた。
アトマイザー。
そのキャップをはずし、自分の手首にシュッとひと吹きする。
「これも返したほうがいい?」
「持ってていいよ。もともと2人のものだし」
「……そうね」
彼女はアトマイザーを見つめ、そっと握りしめた。
再会した記念に買った香水だった。ユニセックス用なのでペアで使い、1年でボトルは空になった。外でもつけるからと、彼女は一部をアトマイザーに移していた。
イン・ラブ・アゲイン。
再会を運命だと思った僕らだけど、別れるのも運命だったのだろうか。
あの頃の僕たちは、なんでもないことに笑い、よく抱きしめ合った。
「じゃ」
「さよなら」
ドアを開けると、外の空気がなだれこんできた。
深く息を吸った。
電車に乗ったあとも、僕らの愛のように廃盤になった香りが、鼻に強く甘くまとわりついていた。
--------------------------***
こちらはTwitterの 140字小説( https://twitter.com/asakawario/status/1351505564417703941?s=19
) を、追加修正して再掲したものです。
インラブアゲインの香りで話を作りました。……が、あら? 再販してる?? ボトルデザインが変わったみたいですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?