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#ショートショート

冬の終わりの始まり

冬の終わりの始まり

梅がほころぶ季節となりました。

寒さがまだ厳しいこの時期に綻ぶ梅の花を、あなたが一番好きだと言っていたことを僕はずっと覚えています。

「冬の終わりの始まりなのよ」

あなたのその言葉が、僕は忘れられずにいます。今でもずっと、梅の花が綻ぶ季節がくるたびに、耳の奥の方でその声が寄せては引いていくのです。冬の空気の緊張感は、この時期は溶けることがなく、春まではまだまだ遠い。それでもあなたは、この季節

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雨








今日の放課後までこの突然の雨が

ってたらいいのに。そしたら私は
あ な た
に 一 緒 に 入
り ま せ
ん か

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堕ちてみたけど、

堕ちてみたけど、

さらさらと砂が落ちるように堕ちてい
く、どこまでも。あなたと一緒なら
堕ちるのも悪くない気がして、あ
なたの手を掴んでしまった。
深い夢に落ちるように、
アルコールを浴び
たあの日のよ
うに。







































ねえ、こっち向いてよ。

ねえ、こっち向いてよ。

風の向くまま、気の向くまま。
君は、ひらひらと揺れている。

せっかくかわいい顔してるのにさあ。
なんで、こっち向いてくれないの?

あっちに何があるんだよ。
教えてよ。

「ねえ、こっち向いてよ」

前を歩く君の背中に投げてみた。

風がふわりと吹いて、
君の頭がゆらりと動いて、

一瞬だけこっちを向いた。

とびっきりの笑顔がかわいくて、
僕の目は釘付けになったのに、

あっという間に君は前を

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夕焼けに向かって、自転車漕いで、

夕焼けに向かって、自転車漕いで、

夕焼けに向かって
自転車を漕ぐ

まだ今日が終わりませんようにって

風が吹いて
スカートが揺れて
振り返ったら夜になってて

もう今日が終わるんだなって思った

ああ、もう帰んなきゃって
宿題やだなって
そんなことを思ってて

目の前の角をキュッと曲がったら
どっからかカレーのにおいがした

家の前に自転車止めたら
うちのカレーだってわかって

おなかがぐうって鳴った

「おかえり」っておかあさ

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ぽっかりと空いた穴が、教えてくれる。

ぽっかりと空いた穴が、教えてくれる。

冷たい風が吹いた。

風は肌を撫ぜる。
肌を撫ぜたはずだったのに、
風は僕の中に入ってきて
僕は体の中に穴が空いてるって気づいた。

知りたくなかった。

ぽっかり空いた穴なんて。

秋はこれだから嫌だ。
寂しくなる。

春に花が咲いて、
夏に弾けて、

いつの間にやら穴が空いて
秋になって落ちてゆく。

僕は地団駄を踏んだ。
踏めるだけ踏んだ。

足元が緩んでいく。
足が沈んでいく。

僕は泣い

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まんまるおつきさま

まんまるおつきさま

あかるかったんだ
いつもよりずっと
うえをむいたら
えにかいたような
おつきさま

かなしくてないていたような
きみとけんかしてしまったような
くるしいなあなんて
けっとばしたこいしが
こつんとじぶんにもどってきたような
さみしいよるだとおもってたんだ

しずかなおつきさまがいて
すずしいかぜがふいて
せかいのどこかで
そばにいないだれかも
ただそらをみあげてるのかなっておもったら

ちょっとだけ

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daydream

daydream

アナウンサーは
いつものように笑っている

うつむくまつ毛は
エリザベスさながらで
オリンピアの戦士を讃えている

感染する
気味の悪い価値観を
くびれた腰に巻きつけて
原稿どおりの
言葉を吐き続ける

囁くような
静かな声で
すみませんと聞こえた気がした

世界の切り取り方が
想像していたものと違うんです
玉の輿に乗りたかっただけなんです

挑発的な言葉尻は
つまらないセリフなんです
てにをはさ

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romanticist

romanticist

アイスクリーム
いちごのケーキ
ウイスキーボンボン
エクレアに
おおばんやきに
カスタードプリン

君のうちまで届けよう
くつのかかとを2回ならして

ケーキが崩れないように
ころばないように
桜色の大きな紙袋に
しっかりしまって

スケジュールは確認した
青天の霹靂が起きない限り
そっと運べば大丈夫

たのしみに待っている
ちょっとだけラフな格好の君に
月が綺麗ですねって
手をぎゅっと握って

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詩|monochrome

詩|monochrome

あいちゃんは
行ってみることにしました
生まれて育った家に

遠足気分でたどり着いた家には
思い出がいっぱいありました

かえるの鳴き声
綺麗な星空
草のにおい
喧嘩したこと

子どものころの思い出がいっぱいです

寂しいできごともありました
しあわせなできごとを
少しだけ
背中を
そっとおすように思い出しました

立ち上がればこんなに色んなものが
小さかったのだろうかと思いました

冷たい水で

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詩|tomorrow

詩|tomorrow

あしたに
いろをつけよう
うんとすてきな
えのぐで

おもいのままに
カラフルに
きれいじゃなくてもいい
クレヨンでもいいよね

けしごむで
こすってもきえないぐらいえがこう

さっそうと
しずかに
すずしげなかおしてあしたはやってくる

せなかばかりおいかけそうになるけど
そんなのごめんだ

たまには
ちょっとくらいだけでも
つまさきだけでもおいぬきたい

てをたたいてよろこんで
とまったしゅん

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詩|影とダンスを

詩|影とダンスを

私は影を見つめる

私の足元に落ちた影を
踏み潰し、連れ回す

日が昇ると、次第に影は小さくなる

私は影があったことさえも
忘れてしまう

あちいあちいと日陰を探し
無機質な影にすっぽりと包まれ
ほうと一息安堵する

夕暮れに影が伸びる
私はおかえりと言う

踏み潰して、連れ回して
なんだか要らぬもののように
扱ってきたのに帰ってきた

懐かしい友との再開に
私は橙色のスポットライトを
浴びてダ

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詩|階段、おりるか、のぼるか

詩|階段、おりるか、のぼるか

のぼり続け
て苦しくな
って一気に
駆け下りた。のぼる時
よりも足取りは軽いが
焦れば焦るほど、もつ
れそうになる。焦るな焦るな慌て
るな。誰も追ってきてやしない。
勝手にのぼってきただけで、誰か
に要求されたわけじゃない。自分でのぼると
決めただけだ。降りるのに理由は必要ない。
のぼるも降りるも、自分の好きにすればいい

くだらない。格好悪いぞ、情けない。諦める
にはまだ早い。ここまでのぼってこ

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