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ぽっかりと空いた穴が、教えてくれる。


冷たい風が吹いた。

風は肌を撫ぜる。
肌を撫ぜたはずだったのに、
風は僕の中に入ってきて
僕は体の中に穴が空いてるって気づいた。

知りたくなかった。

ぽっかり空いた穴なんて。

秋はこれだから嫌だ。
寂しくなる。

春に花が咲いて、
夏に弾けて、

いつの間にやら穴が空いて
秋になって落ちてゆく。

僕は地団駄を踏んだ。
踏めるだけ踏んだ。

足元が緩んでいく。
足が沈んでいく。

僕は泣いた。
ずっとずっと。

だって、寂しいから。

涙は体を伝って、
足元は水たまりになって。
気がつけば、かちんかちんに凍ってた。

僕は冬中、水たまりに立ち尽くした。

僕はそこから動けなくて、
世界が白くなっていくのを見つめていた。

しんしんしんしん

雪に音があるんだって知った。
部屋の中から見ていた時は、
とてもとても静かだったのに。

しんしんしんしん

僕は目を瞑る。
冬は僕の穴を埋めてゆく。

ふわふわとした雪は、不思議と暖かい。

ほかほかと暖かいお日様の光が僕を包んで、
そのうちに、雪が溶けて、川になった。

気がつけば、僕のぽっかり空いた穴から、
にょっきりと芽が出ていて、
ああ、春が来たんだと知った。

しばらくしたら、花が咲いて、
きっとまた、夏になったら弾けるんだ。
秋になったら、落ちていって、寂しくなって。
冬になったら立ち尽くすけど、

でも、また春が来るんだと

僕に空いた穴が教えてくれる。




満たされても満たされなくって。
いっつも物足りない気持ちになるのはなんでだろう。

それなのに満たされると、なんだか申し訳ない気がして、欠損を探して歩いてる気がする。




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