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たこ天物語

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「たこ天」の誕生秘話、今もなお脈々と受け継がれるその精神……長い長い「たこ天」の歴史を、村長、寒海幻蔵が語ります。名づけて、たこ天物語。 PAS心理教育研究所が毎夏開催している「…
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#たこ天

たこ天今物語 #7 (寒海幻蔵)

たこ天今物語 #7 (寒海幻蔵)

 たこ天村は、夏の匂いがする。
 そういえば、村はいつも夏だなー。雪に埋もれたたこ天は、やったことない。

 学生時代、雪に埋もれる禅道場の道場守りを一人でやっていた。毎年暮れから正月の一週間、雪に埋もれた道場2棟を守るために、一人で山に籠っていた。
 話し相手は、闇の帝王と、時折やってくる狸の爺さん。雪女の妄想亡霊もよくお迎えした。

 日頃は独りを感じないが、暮れ正月になると、突然に独り世界に

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たこ天今物語 #6 (寒海幻蔵)

たこ天今物語 #6 (寒海幻蔵)

 今、たこ天に子ども村民の枠はない。
 たこ天村で、子どもはすぐに山賊になれた。英雄になれた。
 世間は、年々、大人と子どもの区別をつけなくなってきた。親と子が、みんな友だち。
 子どもに友だちは必要だが、親は欠かせない。ケンゾウのように実の親がいなければなおさら、親の役割をする世の大人が助けになった。
 何より、親が友だちになって、子が自分で友だちを作るのを邪魔してはいかん。

 親が、先生が、

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たこ天物語(前史) #5 (寒海幻蔵)

たこ天物語(前史) #5 (寒海幻蔵)

 原始たこ天のスタッフは、学生だった。東京で再出発したたこ天スタッフは、サイコセラピスト。
 サイコセラピストたちが、下働きをし、出店を出す。その出店は、多様な短期集中のグループセラピィ。
 参加者も出店を出す。自分の得意なダンス、楽器・歌唱セッション、ヨガ、筋トレ、サッカー、書道、ペインティング、合唱、盆踊り、そして時には全員での祭りが催される。

 サイコセラピストは、日本には多くはいない。カ

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たこ天物語(前史) #4 (寒海幻蔵)

たこ天物語(前史) #4 (寒海幻蔵)

 原爆スラムができたヒロシマには、孤児院から始まった養護施設が多くあった。
 縁あってケンゾウは、そこで育つ子どもたちと出会った。親の愛育のない子どもたちはみんなヤンチャで、どこの指導員も十分すぎるほどに手を焼いていた。

 親代わりに、参観日に学校に行ってみた。
 なんと、みんなまるで違う子だった。
 園では目立ってガタイの大きなガキ大将が、恐ろしく小さく縮こまっていた。ガタイが大きいので、かろ

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たこ天物語(前史) #3 (寒海幻蔵)

たこ天物語(前史) #3 (寒海幻蔵)

 ケンゾウは二つの世界を生きた。
 家と学校は、いつ死ぬるか分からない被爆者の子。山は自然なまま。
 小学校三年にもなると、笹竹小屋から遠くまで足が延びた。結構汚らしい似た者同士に出会いもすれば、縄張り争いも起きる。
 群雄割拠を夢見るが、どの世もそう甘くはない。相棒ができたと思いきや、中学生を親分に仰ぐ一団にあっさり吸収されてしまう。

 集団になると、やることがエスカレートし、大胆になる。一人

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たこ天物語(前史) #2 (寒海幻蔵)

たこ天物語(前史) #2 (寒海幻蔵)

 ジリジリと照りつける太陽が眩しい夏の朝、ピカドンはやって来た。
 一瞬の破壊は、この上ない衝撃だ。街は一面焼け野原。
 ただ一箇所、小富士のような小山の陰で、核エネルギーの破壊が弱められた地域があった。
 戦国の世に山城があった黄金山が、盾になった。
 小さいながらもりりしい子富士の懐で生き残った夫婦に、翌年、子どもが生まれた。

 「黒い雨が降り二度と草木が生えず、人も……」と言われた死の町に

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たこ天物語 #1  (寒海幻蔵)

たこ天物語 #1  (寒海幻蔵)

 これから語られるのは、われらが「たこ天」の物語。語り手は、寒海幻蔵(さむかい・げんぞう)。われわれPAS心理研究所の理事長の別名であり、「たこ天」村の村長としての名でもある。
 「たこ天」の誕生秘話、今もなお脈々と受け継がれるその精神……長い長い「たこ天」の歴史を、村長、寒海幻蔵が語ります。名づけて、たこ天物語。

 ダルビッシュ有投手が日米通算200勝を達成した。
 かつて、我が道を行く野茂英

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