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知らない街の誰かの物語

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2駅でさっと読み終えて、7駅分引き摺ってしまう。 夜眠りにつく前に読んで、朝まで眠れなくなるような物語を集めました。 これは、あなたの知らない誰かの物語。 *こちらは全て僕では…
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記事一覧

遠くまで行く君に

遠くまで行く君に

物心ついた時から、いわゆる『女性らしい』部分が私には欠如してた。

例えば、目を大きくすることに必死になることだとか、前髪が揃っていないだけで落ち込むこととか。
感度の高い空気読み観測器みたいなのが、その人たちの中には内製されていてその場のヒエラルキーにあった立ち回りが身についている感じとか。小さい頃から自分の益になりそうな人を見つける嗅覚だけは鋭くて、上目遣いとか距離の詰め方とかを駆使して自分の

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人生で一番最低な夜を、人生で一番好きだった人と過ごした。

人生で一番最低な夜を、人生で一番好きだった人と過ごした。

21歳。冬。恋愛経験、それなり。

今からちょうど3年前、私にとっての初めてを、
どうでもよかったアイツにあげた。

処女のまま生き続けていくくらいなら、
とっとと捨ててしまった方がいっそ楽だと思ってた。

初めては、別に普通だった。
痛くもないし、気持ち良くもない、こんなことを私は、21年も気にして生きてきたのかと少しだけ馬鹿らしくなった。



大学2年の夏。大好きだった彼に振られた。
『ず

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この感情を終わらせることにした

この感情を終わらせることにした

人より繊細な感情を持っているのだろうってことには数年前から薄々気づいてる。普段は気付かせぬように、自分すらも気付けぬように振る舞っているが好きな人の前に限って僕らは一番嫌いな自分と向き合うことになる。

「多感な時期」だからと一言に括ることも、必死になって説明するものでもない。僕らは日々何かを感じて、何かに傷ついて生きていく。

感情は時に僕らを生かしたり殺したりするけれど、感情が僕らを守ってくれ

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最愛の友人が明日、結婚する

最愛の友人が明日、結婚する

なにか1つ法律が追加できるのなら
「〇〇歳になっても、1人だったら結婚しよう」
なんて気軽に口にする男を裁ける法がほしい。

そう言って、残していたコーヒーを啜った彼女は明日、結婚する。

飽き性の彼女と夢半ばのアーティスト

大阪駅の中央南口を出てすぐのところには路上アーティストの集まる場所があった。毎日のごとく夢みるアーティストの卵がその場所を訪れては数ヶ月もしないうちに消えていった。
あの夜

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お父さん。俺、男の人も好きになるんだよ。

お父さん。俺、男の人も好きになるんだよ。

人生で一番、愛した人がいた。

17歳年上。片想いだった。
中学の時の先生だった彼は、温厚な表情と、笑うとクシャッとなる目尻が印象的だった。彼は結婚していて、子供もいたけれど、そんなことで諦められる恋ならきっと、想い出にすらならなかったんだと思う。



小さい頃から「男らしく生きなさい」と言われて育ってきた。
小学校のランドセルの色がどうしても「赤がいい」と泣きじゃくった時は「男なんだから」と

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俺、当たり前に君とずっと一緒に笑ってられると思ってた。

俺、当たり前に君とずっと一緒に笑ってられると思ってた。

書いて。と言われている物語はいくつもあって、出して。と言われている下書きはその倍近くある。それでも、筆は進まず、言葉はつまり、本当に伝えたいことは一言も書けていない。

ありがたいことにこんなくだらない雑念ばかりのnoteにもファンが増えてきて、以前に比べて体裁ばかりを取り繕った文章に溢れてしまっているもので溢れているけれど、変わらず自分自身の話と友人の物語を描くだけのこの場所はなんだか居心地がい

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僕たちはもう二度と、友達には戻れないかもしれない

僕たちはもう二度と、友達には戻れないかもしれない

縛られるのが嫌いだから。
僕たちはそう言って互いに他の人と遊んでた。

別に特別なことはない。それが当然だと思ってたし、別れる時は別れるのだと思ってた。

どれだけ会える距離に居ても、どれだけ互いが暇でも、2人がそうしたいと思うまでは会うことも、ましてや電話をすることもなかった。

彼女との相性はよかった。
身体的な相性以上に、精神的に相性が良く、相手をストレスだと感じることもほとんどなかった。特

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つまらない人に恋をした

つまらない人に恋をした

「仲間」とか「友達」とか。そんな言葉に当てはめてしまうにはどこか難しい関係性の人が多い。つくづく、僕は言葉を知らないなと思う。

気付けば大切な人で、気付けば横に並んで歩いてて、気付けばひとり。その人の下の名前も忘れてしまってるのか、そもそも知らないのか。

「ねえ、僕たちの関係には名前がないね」

そう言いあった関係のあの子とはもう連絡を取れていない

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今思えば、つまらない人だっ

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あの夜に忘れ物をしてきたから

あの夜に忘れ物をしてきたから

彼女とはバイト先の居酒屋で知り合った。
好きな歌手、好きな曲、性格も大体同じ、味付けは辛口が好みで、嫌いな食べ物は二人ともグリンピースだというところまで同じだった。

そんなだったから、気付いた頃には互いに惹かれあっていたんだと思う。
それでも、互いに「好き」とか「愛してる」の言葉を口にすることはないまま時間だけが過ぎていった。

「ねえ」

少し後ろを歩く彼女のほうを振り返る。バイト先のお世話に

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今夜は1人で踊ろう

今夜は1人で踊ろう

役職でしか知らなかった女が目の前に座っている。こちらをみて「ねぇ」と呼ぶ彼女も、きっと僕の名前をフルネームで覚えてるわけじゃない。

これまで出会うことのなかった人種を見るような眼差しで、彼女は僕のこれまでをこれでもかと聞いてきた。自分のことを話すことが苦手な僕にとっては酷く億劫に感じる時間で、普段の何倍にも延ばされた1時間は無限にも思えた。

店内のBGMは徹底してクラシック調で整えられていて、

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午前8時7分発の電車に乗って、この街を離れる

午前8時7分発の電車に乗って、この街を離れる

人を好きになったことがない。と言っていた彼女に彼氏ができた。

彼女は星屑みたいな人だと言って笑ってた。

彼女は大学の唯一の友達で、大学の人気者だった。

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元々知り合うはずもなければ、交わることもないであろう根暗な僕とは正反対。初回の授業で前後だったとかが理由でない限り彼女とは縁がなかったと思う。

そんな、偶然座席が前後になって仲良くなった僕らが距離を縮めるのに時間がかからなか

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「君は私になろうとするけれど、私は君には永遠になりたくないな」

「君は私になろうとするけれど、私は君には永遠になりたくないな」

"もうすぐ夏が終わるよ
いつまで夏から逃げてんの?

今朝、そんな文章が友達から届いた。

下界はまだ夏だったのか。という気持ちと
もう夏が終わるのか。という気持ちが僕の中にフツフツと現れたのを感じてた。

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2018年、夏が目を覚ましてそろそろ暑くなりだそうかと思ってた頃だったか

「君は、、私になろうとするけれど、、、、
私は君には、、、永遠になりたくないな。

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僕は、特別可愛くもない彼女に恋をした

僕は、特別可愛くもない彼女に恋をした

良くなりたい。そう言いだして半年が過ぎた。

真夜中の終電に揺られながら当てもなく向かう。冬の空気は心地いい。僕たちをどこまでもそっと運んでゆく。永遠にも思えた車内アナウンスと、繋いだ手。

物事には終わりがある。

母が読んでくれた紙芝居、父と通った公園、誰かと歩いた歩道橋、誰かと口ずさんだ曲。20余年も経てば終わり、消えてゆく。

何かが終わるたび、もう何も始まらなくていいと思い。何かが始まっ

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彼女の下の名前も忘れたけれど

彼女の下の名前も忘れたけれど

物事には始まりと終わりがあって
始めてしまえば終わりに向かうしか道はない
「だから、私にはまだ始めたくない物語があるんだ」

***

「好き」と「したい」は違う

1年前、ものすごく好きだった彼女にフラれ、僕は恋愛をしばらく止めた。

かといって、若かった僕らの自然と出てくる性欲に勝てるほど意思の強くなかった僕は、月に一度遊んで体を重ね合わせてくれる人にぶつけてた。

「、、はじめまして、」

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