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人生で一番最低な夜を、人生で一番好きだった人と過ごした。

21歳。冬。恋愛経験、それなり。

今からちょうど3年前、私にとっての初めてを、
どうでもよかったアイツにあげた。

処女のまま生き続けていくくらいなら、
とっとと捨ててしまった方がいっそ楽だと思ってた。

初めては、別に普通だった。
痛くもないし、気持ち良くもない、こんなことを私は、21年も気にして生きてきたのかと少しだけ馬鹿らしくなった。



大学2年の夏。大好きだった彼に振られた。
『ずっと一緒に居ようね』と安っぽい言葉を囁いてくれた彼は、私のことを『重いよ』と言って振った。

『初めては大切にしたいから』1年付き合ったのに、結局彼とは一度も交わることはなく、何度か彼の誘いを断るうちに、彼は手を出してこなくなった。抱けない女とは付き合ってられないってこと?

「まだ20歳だよ、もっと色んな人と遊んだほうがいいよ」

別れ際、何も言えないでいた私に彼はそう言った。
1つ歳上のあなたが大好きだったから、背伸びして大人っぽいメイクをしてた。『髪の長い子が好き』とあなたが呟いていたから、邪魔だと思ってた髪の毛をこんなに伸ばしてた。


過剰に塗ったマスカラがやけに邪魔に思えて、涙なんか絶対に見せてやらないって思ってたのに悔しいくらい涙が込み上げてきた。
気づかれないように、シャワーを浴びながら頭が割れそうなくらい泣いて、気持ち悪くなって、それでも泣き続けた。

浴室から出ると彼は居なくなっていて、綺麗に畳まれたお気に入りのタオルだけが洗濯機の上に置かれてた。
大好きだった。



いつまでも泣いていられないからと立ち直れたのは、私の負けず嫌いな性格と『ユイを振るなんて見る目ないね』といつだって笑い飛ばしてくれた友達のおかげだった。

少したりとも彼のことを思い出したくなくて、肩下まであった髪をバッサリと切り落としてやった。髪を染めて、メイクも服装も全部、ぜんぶ変えた。

彼との繋がりを残しておきたくなくて、新しいSNSのアカウントも作ったりなんかして、大嫌いだったクラブにも通うような女になった。でも、どれだけ取り繕っても『初めて』だけがやけに重たく感じて、終電の2本前には必ず家に帰るような生活。


そんな私のことを『シンデレラ』と呼んでくるようなアイツとは、大学3年の春に知り合った。

話が合う、趣味が同じで、普段聴いてるバンドを紹介したら次の日には必ず聴いてくる。他人に甘くて、自分にはもっと甘い。性格はほとんど同じ、価値観は多分きっと、全然違う。

出会って数ヶ月しか経っていないのに、お互いの友達からも『お似合い』だと言われたりしたけれど、付き合うとかとはちょっと違う。
それに、彼の周りには可愛い女の子たちがたくさんいた。逆立ちしたって彼の横に女として並べれる自信はなかった。彼はいわゆる「人たらし」だった。

彼とは二人で何度か飲みにも行った、彼が常連だというBarにも連れて行ってもらえるようになった。
重たくなってきてしまっている私の『初めて』を、誰かにあげてしまうのなら、もうコイツでいいやと半ばヤケクソになったりもして、結局出会ってから1年くらい経った21歳の冬。『映画みよう』と案内された彼の部屋で、気づけば裸にされていて、好きでもなかったアイツの腕に抱かれてた。


初めては、別に普通だった。
痛くもないし、気持ち良くもない、こんなことを私は、21年も気にして生きてきたのかと少しだけ馬鹿らしくなった。


それから、不思議と全てのことがどうでも良くなって、生まれて初めてマッチングアプリを入れたりした。それなりに恋愛もして、よく知りもしない男の腕の中で眠るようなことを繰り返した。結局、アイツとはそれきりで、今どこで何をしているのかなんて知る由もない。

最近、大学時代のサークル仲間との集まりで久しぶりに彼を見かけた。私のことを『重いよ』と振った彼。お店を出てから声をかけられて、駅までの道を二人で歩いた。

「綺麗になったね」と言う彼に、うまく素直になれなくて「相変わらず軽いね」と無愛想に答えた。いつか見返したくて、懸命に綺麗になろうとしてきたことを、ようやく認められた気がした。

なんとなく彼の家に行くことになって、遠慮がちにキスをしてくる彼が可愛くて、ズボンの上から触ったら「変わったね」と彼が言ってきた。待ち望んでいたはずの、彼との初めての行為は、驚くほど気持ちよくなくて、今までで一番最低な夜を、人生で一番好きだった人と過ごした。

もうあの頃の彼ではなくなったと嘆いていたけれど、変わったのは私も同じだった。もう彼からの愛情を素直に喜べるような私じゃないんだと思うと急に恥ずかしくなってきて、彼とは目も合わさずに家を飛び出した。


その日の夜は、嗚咽がするまで泣いた。
悔しくて泣いてるのか。恥ずかしいのか。惨めなのか。感情にすらならない涙が枯れるまで泣いて、大好きだった彼のLINEをブロックした。


こんなことなら、初めてをアイツなんかにあげなきゃよかった。





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