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竜さんの「つぶやき以上○○未満」

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長すぎるつぶやきと……。
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新橋から消えゆく岡山ラーメン。おばちゃんと、いつもと違う夏。

新橋から消えゆく岡山ラーメン。おばちゃんと、いつもと違う夏。

新橋駅前の岡山ラーメンが八月いっぱいで閉店になると教えてくれたのは、原価無視の贅沢な寿司をたらふく食わせてくれたきっぷのいい銀座の寿司屋の大将だった。

都内で用事があったり深酒をして遅くなったときは新橋に泊まることが多いのだが、翌朝、二日酔いでふらふらしながら界隈のラーメンやらうどんやらを喰らってから帰る、というのも楽しみのひとつになっていた。

ガッツリいきたいときは、「おにやんま」で肉うどん

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表参道のトムヤムヌードルと神宮の森

表参道のトムヤムヌードルと神宮の森

家人が美容院に行っているあいだ、一人で明治神宮を歩いた。

都内で時間が空くと、ボクはよく明治神宮や代々木公園、新宿御苑などを歩いた。

明治神宮、一の鳥居は記憶していたよりもずっと巨大に聳えていた。ボクはしばらくそれを見上げていた。

派手な髪をして、めいっぱいお洒落をした若者が何人も歩いていた。彼らは皆、鳥居をくぐるときに一礼していて、ボクはそれを見て少し驚いた。入口に〈神宮の杜芸術祝祭〉と看

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茅ヶ崎から、伊豆下田へ。ひたすら海岸線をゆく。

茅ヶ崎から、伊豆下田へ。ひたすら海岸線をゆく。

四月にオートバイが納車されたので、すこし長く走ってみたくなって、伊豆下田まで足を伸ばしてきた。

本当は本格的な猛暑になる前に信州や北陸、東北あたりを走りまわりたいのだが、慣らし運転が終わらないことにはなんとも心もとなく、まずは走り慣れた伊豆半島で距離を稼ごうという算段である。

五月二十三日。快晴。気温二十三度。絶好のツーリング日和。往路はひたすら海岸線。国道一三四号線から西湘バイパス、一三五号

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僕の事務所でイッパツお手合わせ願えませんか?

うおおおおおと声が漏れました。けもなれ、っていうの?『獣になれない私たち』っていうドラマの第一話を観て、ちょうどそのとき二日酔いでえびしおラーメン大盛りを食べた後の気怠い午後だったというのもあるんだけど、がんばり病のガッキーの息苦しい暮らしに俺の胃もきりきりきりきり痛んで、やばいな嘔吐しちゃうかないったん観るのやめようかなと思うくらい感情移入しちゃってたら、電車に飛びこみそうになるシーンが出てきて

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遠州の香る宿。湯に毒を流す。

遠州の香る宿。湯に毒を流す。

九月も終わったというのに日中の気温は三十度を超え、夏の余韻がしつこく残っていた。僕は四十三歳で、浜松の温泉にいた。

香りのいい宿だった。和風でモダンなロビーには茶香炉が炊かれ、建物に入った瞬間にじんわりと心がほぐされた気がした。客室はもちろん、廊下にもエレベーターにも大浴場の脱衣所にも、ふだん人間の生々しい匂いが満ちているはずの空間のすべてが、穏やかでひかえめな茶葉の香りに包まれていた。

浜名

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僕は九月が一番好きだ、と最近思う。

僕は九月が一番好きだ、と最近思う。

「ブログ書いてくれないんですか?」という、嬉しい催促をもらったが、なんでもない日常を送っているので、書くことがないのである。だって本当になんでもないんだもの。

でも、なんでもない日常って、すごく楽しい。これはもう本当に、びっくりするくらい。目の前で起こるあれこれをじっくり見ていると、どうして今まで僕は何も感じなかったのだろう、気づかなかったのだろうと不思議に思う。けれど、それは人に説明したり勧め

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まどろんだ午後のロードショーで。

話題の『カメラを止めるな!』って映画を観たんだけどね。

予想してたとおりの出来というか、ひっくり返るほどおったまげるほどではなく、でもそれなりにおもしろくて、楽しませてもらったんだけど、ぶすぶすとやや不完全燃焼で、まあこんなもんだろう、っていうふわふわしたのが率直な感想。ワケわかんねえな笑。

つまりやっぱり、もうここまで話題になっちゃって、単館上映だったインディーズに毛が生えたくらいの作品が1

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ああ、夏休み。

ああ、夏休み。

何日か前くらいから、いつの間にか夏休みしてた。気づいてなかったけど。

ちょっと今日はもういいかあ……なんつって次の予定を取りやめにして、だらーんとして、洗濯物を畳んでみたり、途中でゴロゴロしてみたり、届いたばかりの本を読んだり、何しよっかぼんやり考えたり、眉間に皺を寄せながらアホみたいに集中して「何をすべきか」と考えこんでみたり、飲みたくもないのに瓶ビールを開けてみたり、猫を撫でてみたり、岩盤浴

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まる子とももこの光と闇。

まる子とももこの光と闇。

さくらももこさんの訃報を聞いて、あまりにも驚いてショックを受けている自分にまず、驚いた。

五十三歳というのはたしかに早すぎる気がしたし、ちびまる子ちゃんという国民的アニメが日常に浸透しすぎて、永遠のように錯覚していたのかもしれない。

ちびまる子ちゃんとの出会いは、高校生の頃ハマっていたオーケンこと大槻ケンヂさんのエッセイだったと思う。

それまでは、サザエさんと同じように家族で楽しむホームコメ

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噂の効能。僕らは陰口を食べて生きてきた。

噂の効能。僕らは陰口を食べて生きてきた。

たまに、昼時にテレビをつけるとうんざりすることがある。

俳優だと言いながらバラエティで見ない日はない声の大きな司会者が、今日も世にはびこる不正や問題に斬りこんで、我が事のように真剣に腹を立ててがなりたてている。午前中いっぱい懸命に仕事をやり通した後にそんなの見たくない。お昼からうるさいんだってば。

もちろん、うるさいと思うのなら見なければいいだけの話なので、すぐにテレビを消して、iPhoneも

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罪の意識とひきかえに。たぁぁぁかねの花よ。

罪の意識とひきかえに。たぁぁぁかねの花よ。

おいちゃんは東京で生まれて野島伸司で育ったので、今も毎週『高嶺の花』というテレビドラマを観ている。意味もなく唐突に「たぁぁぁぁぁかねの花よ!」と石原さとみちゃんの真似をして家族に鬱陶しがられている今日この頃です。

野島伸司のドラマはいつもその時代の世相や色あいを見せてくれる。浮かれた時代には底抜けに明るい色恋ものを、平和ボケした時代には後ろ暗くあさましい人間の闇を、閉塞した時代には心温まる絆の物

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野菜のごちそう

野菜のごちそう

最近、僕もじじいになったもんだなあと感じるのは、野菜が非常においしくなってきたことだ。

以前なら、ラーメンだ焼肉だエスニックだと、刺激が強く脂っこい食物ばかりを欲していたのに、今はちょっと飲みにいこうかとか、お昼になにを食べようか、というときに、自然と気持ちが野菜の方を向いていることが多い。

とはいっても、野菜中心の食生活をしているわけではなくて、今でもわりと頻繁に焼肉もラーメンもパスタもたら

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さようなら風見鶏。

さようなら風見鶏。

その店は、どことなく不思議な店だった。

チェーン店のようでチェーン店ではなく、中華料理店らしくないけどれっきとした中華料理店で、ファミレスのような清潔でポップな外観なのに、働いているスタッフは家族のような雰囲気で、いつ訪れても同じメンバーが元気よく迎えてくれた。

何かが特別うまいわけでもなかった。ラーメンも餃子も炒飯も、おいしいけれど、まあどこにでもあるようなクオリティというか。

料理や接客

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飲みたい夜が終わるとき。

飲みたい夜が終わるとき。

富士山麓に広がるキャンプ場は、想像していたよりずっと広大な土地で、見わたす限りの山と芝の緑にはため息がもれるほどだった。

ハンモックに揺られ、うまいメシを食らい、やがてうるさく飛びまわっていた虫たちも夜露の重みに羽根を落ちつける頃になると、聞こえるのはテントから漏れる子どもたちの寝息だけになっていた。

僕と家内はルミエール・ランタンの小さな炎に揺られながら、ワインをちびちび啜って、とりとめのな

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