川緑清

リタイアした材料・デバイス系技術者(男性)です。  第二の人生(終活も含め)を模索中で…

川緑清

リタイアした材料・デバイス系技術者(男性)です。  第二の人生(終活も含め)を模索中です。 その中で 過去の経験のまとめと 何か創作活動ができないかと noteへの投稿を始めます。

記事一覧

塗料メーカーで働く 第七十話 何か足りない

 2月24日(水)午後4時頃 川緑は ケイトウ電機社のUVランプ開発品を用いて行った UVカラーインクの露光実験の結果をまとめていた。   実験は UVランプ開…

川緑清
2日前

塗料メーカーで働く 第六十九話 仮説

 1月23日(土)午前7時頃 休日出社した川緑は 居室の机について これまでに得た実験データを見直していた。  机に広げたデータの中で 分光感度の分析結果に目を…

川緑清
9日前

塗料メーカーで働く 第六十八話 考えどころ

 1月23日(土) 休日 午前7時頃 川緑は 会社の居室に入り 部屋の電灯を点けた。  技術部のメンバーの話し声や 電話の音の無い部屋は いつもとは違い 集中で…

川緑清
2週間前
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塗料メーカーで働く 第六十七話 正念場

 1993年1月6日(水) 仕事始めの日 午前8時20分頃 川緑は 居室に入り 米村部長 森田課長 福永係長に 「今年も 宜しくお願いします。」と言って頭を下げ…

川緑清
3週間前

塗料メーカーで働く 第六十六話 重要なデータ 

 10月29日(木)午前11時頃 実習生の永野さんは 技術部の居室へやって来た。  彼は 笑顔で 「川緑さん データ取れましたよ。」と言った。         …

川緑清
1か月前
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塗料メーカーで働く 第六十五話 思わぬ助っ人

 10月27日(火)午後2時頃 川緑は 実験室で 電線メーカー各社から依頼を受けたUVカラーインクのサンプルを作製していた。  TKM会の共同研究が進まない状況…

川緑清
1か月前
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塗料メーカーで働く 第六十四話 押し寄せる仕事

 電子線・放射線技術に関する国際会議 ラドテック Asia‘93の発表者募集に手を挙げた途端 川緑に仕事の依頼が押し寄せてきた。   10月21日(水)午前11…

川緑清
1か月前
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塗料メーカーで働く 第六十三話 背水の陣 

 1992年10月19日(月)午前10時頃 新規事業部 研究部の杉本部長は 技術部へやってきて 居室の一番奥にある米村部長の机に向かって行った。  彼は 「米村…

川緑清
1か月前
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塗料メーカーで働く 第六十二話 いつやる?

 10月15日(木)午後2時に 技術部の会議室で 松頭産業社と 光ファイバー用樹脂材料の関連業務について 今後の方針打ち合わせが行われた。   松頭産業社 野崎…

川緑清
1か月前
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塗料メーカーで働く 第六十一話 パンクしとるじゃろ

 10月9日(金)午前7時頃 会社の居室で目を覚ました川緑は 実験室へ降りて 古友電工社向けの新タイプUVカラーインクの製造を再開した。     この日 技術部で…

川緑清
2か月前

塗料メーカーで働く 第六十話 製造ラインが止まる

  10月7日(水)午後4時頃 上期の新人研修発表会が終わり 技術部の実験室に戻って来た川緑に 松頭産業社 事務担当の浦本氏から電話が入った。   彼女は 「古…

川緑清
2か月前
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塗料メーカーで働く 第五十九話 新人研修発表

 1992年10月7日(水)午前9時に 会社の講堂で前期の新人研修発表会が始まった。         新規事業部技術部の実習生永野さんは 2番目手で 司会者の指…

川緑清
2か月前
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川緑 清の テクニカル レポートNo.4

 ご覧頂き ありがとうございます。  本文は 【連載小説】 塗料メーカーで働く 第五十九話に記載の 新人実習生 永野さんの研究発表をレポートにまとめたものです。…

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川緑清
2か月前
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塗料メーカーで働く 第五十八話 研究設備

 6月17日(水)午前10時頃 技術部に 運送業者の4トン トラックが到着した。  積荷は 1.2m四方程のコンテナ2つに入ったナイコ・ジャパン社製の顕微FT-…

川緑清
2か月前
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塗料メーカーで働く 第五十七話 実習生の研究テーマ

 5月に発生した 古友電工社 三重事業所でのUVカラーインクのトラブルへの対応に追われ 川緑は 実習生の永野さんの指導ができなくなっていた。  その間 川緑は …

川緑清
3か月前
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塗料メーカーで働く 第五十六話 トラブル対策

 5月22日(金)午後1時頃 川緑は 東京工場の会議室に入り 先に来ていた製造部と品質管理部のメンバーに 「ご苦労さまです。 ご協力 宜しくお願いします。」と言…

川緑清
3か月前
塗料メーカーで働く 第七十話 何か足りない

塗料メーカーで働く 第七十話 何か足りない

 2月24日(水)午後4時頃 川緑は ケイトウ電機社のUVランプ開発品を用いて行った UVカラーインクの露光実験の結果をまとめていた。 

 実験は UVランプ開発品6個のそれぞれについて UVカラーインク現行品8色を組み合わせて行ったもので UVランプの露光時間とインクの硬化状態との関係を求めたものだった。

 実験結果をまとめたグラフは 縦軸にUVカラーインクの硬化度を取り 横軸にUV露光時間

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塗料メーカーで働く 第六十九話 仮説

塗料メーカーで働く 第六十九話 仮説

 1月23日(土)午前7時頃 休日出社した川緑は 居室の机について これまでに得た実験データを見直していた。

 机に広げたデータの中で 分光感度の分析結果に目を止めると 彼は 動きを止めて それの意味することを考えていた。

 分光感度のデータは キセノンランプの光を 横軸に波長分散し縦軸に強度分散した矩形の露光面で硬化した面内のインクの硬化状態を分析して得られたものだった。

 それは 面内の

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塗料メーカーで働く 第六十八話 考えどころ

塗料メーカーで働く 第六十八話 考えどころ

 1月23日(土) 休日 午前7時頃 川緑は 会社の居室に入り 部屋の電灯を点けた。

 技術部のメンバーの話し声や 電話の音の無い部屋は いつもとは違い 集中できる場所のように感じられた。
 
 彼は 懸案の研究テーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」のまとめの作業に取り掛かり これまでの研究内容を振り返り 積み上げてきた実験データを見直し始めた。

  「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」を始めた

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塗料メーカーで働く 第六十七話 正念場

塗料メーカーで働く 第六十七話 正念場

 1993年1月6日(水) 仕事始めの日 午前8時20分頃 川緑は 居室に入り 米村部長 森田課長 福永係長に 「今年も 宜しくお願いします。」と言って頭を下げた。

 机についた川緑は 引き出しから手帳を取り出し 予定表を見ると ユーザー対応で後回しになっていた幾つかの案件について 納期的に後がなくなっていることに改めて気付いた。  

 3月末までに対応が必要な案件は TKM会向けの実験と ラ

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塗料メーカーで働く 第六十六話 重要なデータ 

塗料メーカーで働く 第六十六話 重要なデータ 

 10月29日(木)午前11時頃 実習生の永野さんは 技術部の居室へやって来た。

 彼は 笑顔で 「川緑さん データ取れましたよ。」と言った。                        

 川緑は A4紙に印刷されたデータを見みて 「素晴らしい!」 と声を上げた。 

 それは 試験サンプルの2000個の赤外線吸収スペクトルデータを解析した結果だった。

 それは 2000個の測定点の赤外

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塗料メーカーで働く 第六十五話 思わぬ助っ人

塗料メーカーで働く 第六十五話 思わぬ助っ人

 10月27日(火)午後2時頃 川緑は 実験室で 電線メーカー各社から依頼を受けたUVカラーインクのサンプルを作製していた。

 TKM会の共同研究が進まない状況に 川緑は ケイトウ電機社の内藤次長や松頭産業社の菊川課長に申し訳ない気持ちで作業していた。

 そこへ 前期の実習生 永野さんがやってきた。

 彼は 「川緑さん TKM会の件で何か実験することがあったら手伝いますよ。」と言った。

 

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塗料メーカーで働く 第六十四話 押し寄せる仕事

塗料メーカーで働く 第六十四話 押し寄せる仕事

 電子線・放射線技術に関する国際会議 ラドテック Asia‘93の発表者募集に手を挙げた途端 川緑に仕事の依頼が押し寄せてきた。 

 10月21日(水)午前11時頃 昭立電線社光ケーブル技術課の担当者から電話が入った。 

 彼は 「近く 新規に海底ケーブル用の光ファイバーを生産する予定です。 つきましては 今週中に それ用のUVカラーインク12色のサンプルの発送をお願いします。」と言った。

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塗料メーカーで働く 第六十三話 背水の陣 

塗料メーカーで働く 第六十三話 背水の陣 

 1992年10月19日(月)午前10時頃 新規事業部 研究部の杉本部長は 技術部へやってきて 居室の一番奥にある米村部長の机に向かって行った。

 彼は 「米村さん ちょっといいかね。」と声をかけて 暫くの間 なにやら話をしていた。   

 話が終わると 杉本部長は 川緑の所へ来て 「来年のラドテックに 技術部で 何かいいテーマはないかいね。」と言った。 

 ラドテックとは 電子線・放射線技

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塗料メーカーで働く 第六十二話 いつやる?

塗料メーカーで働く 第六十二話 いつやる?

 10月15日(木)午後2時に 技術部の会議室で 松頭産業社と 光ファイバー用樹脂材料の関連業務について 今後の方針打ち合わせが行われた。 

 松頭産業社 野崎部長と菊川課長の来社に 営業部 渕上課長 技術部 米村部長と川緑が対応した。                           

 議題の1つ目は 電線メーカー各社向け UVカラーインクの取り組みについて 2つ目は 新規UV樹脂材開発

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塗料メーカーで働く 第六十一話 パンクしとるじゃろ

塗料メーカーで働く 第六十一話 パンクしとるじゃろ

 10月9日(金)午前7時頃 会社の居室で目を覚ました川緑は 実験室へ降りて 古友電工社向けの新タイプUVカラーインクの製造を再開した。
  
 この日 技術部では 事業部長への月次報告会が予定されていた。

 午前8時頃 出社してきた米村部長に 川緑は 今月分の業務報告書を提出し 「すみません。今日は インクの製造作業がありまして 報告会は欠席します。」と言った。

 部長は 「しゃーないな。 

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塗料メーカーで働く 第六十話 製造ラインが止まる

塗料メーカーで働く 第六十話 製造ラインが止まる

  10月7日(水)午後4時頃 上期の新人研修発表会が終わり 技術部の実験室に戻って来た川緑に 松頭産業社 事務担当の浦本氏から電話が入った。 

 彼女は 「古友電工社 三重事業所さんから新タイプUVカラーインクの注文が入ったんですが 東京工場さんでは対応できないそうです。」と言った。

 この時 新タイプUVカラーインク各色は三重事業所に仮採用されていて 川緑は 東京工場への製造引継ぎを終えて

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塗料メーカーで働く 第五十九話 新人研修発表

塗料メーカーで働く 第五十九話 新人研修発表

 1992年10月7日(水)午前9時に 会社の講堂で前期の新人研修発表会が始まった。       

 新規事業部技術部の実習生永野さんは 2番目手で 司会者の指名を受けて登壇した。

 川緑は 会場の最前列に置かれたOHPの前に座り 発表資料の1枚目をかざした。 

 スクリーンには 研修テーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」とサブタイトル 「酸素阻害」の文字が映し出された。         

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川緑 清の テクニカル レポートNo.4

川緑 清の テクニカル レポートNo.4

 ご覧頂き ありがとうございます。

 本文は 【連載小説】 塗料メーカーで働く 第五十九話に記載の 新人実習生 永野さんの研究発表をレポートにまとめたものです。

 彼の発表の詳細について ご興味を持たれた方 ぜひ ご参照ください。

背景

 塗料メーカーに勤める川緑は 電線メーカーからの依頼を受けて 光ファイバー用の高速硬化タイプのUVカラーインクの開発を担当します。

 競合他社に比べて 

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塗料メーカーで働く 第五十八話 研究設備

塗料メーカーで働く 第五十八話 研究設備

 6月17日(水)午前10時頃 技術部に 運送業者の4トン トラックが到着した。

 積荷は 1.2m四方程のコンテナ2つに入ったナイコ・ジャパン社製の顕微FT-IR装置で 川緑は ドライバーに指示して それを実験室に運んだ。

 10時30分頃 ナイコ・ジャパン社 営業の柳田氏は 同社の社員二人と共に 技術部へやって来て 「この度は 弊社の製品をご購入頂き ありがとうございました。」と言った。

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塗料メーカーで働く 第五十七話 実習生の研究テーマ

塗料メーカーで働く 第五十七話 実習生の研究テーマ

 5月に発生した 古友電工社 三重事業所でのUVカラーインクのトラブルへの対応に追われ 川緑は 実習生の永野さんの指導ができなくなっていた。

 その間 川緑は 永野さんに取組んでもらうテーマを考えていた。

 新人研修のテーマは 従来の実習生のテーマと同様に 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」として サブタイトルを 「酸素阻害」とすることにした。

 光ファーバーに用いられるアクリル系のUV硬化型

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塗料メーカーで働く 第五十六話 トラブル対策

塗料メーカーで働く 第五十六話 トラブル対策

 5月22日(金)午後1時頃 川緑は 東京工場の会議室に入り 先に来ていた製造部と品質管理部のメンバーに 「ご苦労さまです。 ご協力 宜しくお願いします。」と言って用意してきた資料を配った。

 資料は 白色インクの顔料凝集の再現試験結果をまとめたもので 会議の参加者は その資料を基に 今後の具体策と担当者を取りまとめ スケジュールを立てた。

 その内容は 短期間に対応できる対策案と時間を要する

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