川緑清

リタイアした材料・デバイス系技術者(男性)です。  第二の人生(終活も含め)を模索中で…

川緑清

リタイアした材料・デバイス系技術者(男性)です。  第二の人生(終活も含め)を模索中です。 その中で 過去の経験のまとめと 何か創作活動ができないかと noteへの投稿を始めます。

最近の記事

塗料メーカーで働く 第五十四話 ユーザートラブル

 5月13日(水)午後4時頃 川緑は実験室で作業していると 松頭産業社の菊川課長から電話が入った。  この日 課長は 古友電工社三重事業所へ出張訪問して 先週 川緑の送付した新タイプのUVカラーインクサンプルの評価結果を聞きに行っていた。  「川緑さん。 実はですね。」と言うトーンの低い声に 川緑は 結果が良くなかったと分った。  課長は 白色インクを用いて試作した光ファイバーについて 光の伝送特性を評価した結果 伝送損失が大きく 使えないレベルだったと言った。  5

    • 塗料メーカーで働く 第五十三話 3人目の実習生

       1992年5月8日(金)午前9時頃 技術部の居室に 今年の新人実習生がやって来た。          中肉小柄 ぼさぼさ頭に眼鏡を掛けた彼は 「お世話になります。永野です。」と言った。   「川緑です。教育実習を担当します。よろしくお願いします。」と言って出迎えると 入り口近くの空き机を指して 「ここを使ってくださいと。」と言った。  川緑は 過去の実習生のまとめた研修報告書を手渡し 「永野さんには これらの研究を継続してもらいます。 内容に目を通してください。」と言

      • 塗料メーカーで働く 第五十二話 釣りに行きませんか

         3月26日(木)午後4時頃 新規事業部 技術部内の来年度の人事異動の発表があった。       光ファイバー用樹脂材料開発チーム関連のメンバーでは 技術部 川上課長の東京工場への異動 営業部 北野係長の資材部への異動 実習生 高野さんの生産本部への配属があった。     上司の川上課長の異動後のポストは 米村部長の兼任となり 川緑は また1人チームの担当者となった。  4月10日(金)午後2時頃 実験室で作業をしていた川緑に ケイトウ電機社 内藤次長から電話があった。

        • 塗料メーカーで働く 第五十一話 やるしかないやろ 

           翌3月18日(水)午後1時頃 日菱電線工業社 技術部門の佐野氏は 東西ペイント社の東京工場へやってきた。  40歳代 中肉中背 表情を変えずに話す佐野氏は UVカラーインク製造ラインの見学を希望していて 技術部 米村部長と川緑は 工場の製造部と品質管理部のメンバーと共に その対応に当たった。   関係者等は 管理棟2階の会議室に入り そこで 品質管理部 樋口課長により この日のスケジュールの説明が行われ その後 製造部 西村課長の案内で 製造現場の見学が行われた。  

        塗料メーカーで働く 第五十四話 ユーザートラブル

          塗料メーカーで働く 第五十話 思わぬ展開

           3月17日(火)午後3時頃 川緑は 下期の新人研修発表会の途中で会場の講堂を出た。  新人研修発表会の最後には 技術本部長と研究本部長の講評が予定されていたが 彼は 明日の東京工場への出張準備のために技術部の建屋へ向かった。  居室に戻った川緑は UVカラーインクのユーザー 日菱電線工業社の東京工場見学の際に報告する技術資料の準備を始めた。  午後5時頃 講評を聞いて来た川上課長は 川緑に 「高野君の発表は 受けてたよ。」と言った。  彼は 「吉岡研究本部長は 最近

          塗料メーカーで働く 第五十話 思わぬ展開

          塗料メーカーで働く 第四十九話 新人研修発表

           1992年3月17日(火)午前9時 本館の講堂で下期の新人研修発表会が始まった。        新規事業部 技術部で研修を行った高野さんは 定刻の10時30分に発表を始めた。     発表テーマは 昨年の実習生のテーマと同じ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」で サブタイトルは 高野さんの名付けた 「UV硬化ってなんだろう?」だった。              発表内容は UVカラーインクの硬化性を数値化することを目的とし そのためにインクの硬化状態を記述する式を求める取

          塗料メーカーで働く 第四十九話 新人研修発表

          川緑 清の テクニカルレポート No.3

          ご覧頂き ありがとうございます。 本文は 【連載小説】 塗料メーカーで働く 第四十九話 新人研修発表 に記載の高野さんの研究の内容をレポートにまとめたものです。  彼の研究の詳細について ご興味を持たれた方 ぜひ ご参照ください。 背景 塗料メーカーに勤める川緑は 電線メーカーからの依頼を受けて 光ファイバー用の高速硬化タイプのUVカラーインクの開発を担当します。 商社マン 菊川課長の提案を受けて UVランプメーカーとの共同研究に着手し 競合他社との競争に勝ち残るた

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          川緑 清の テクニカルレポート No.3

          塗料メーカーで働く 第四十八話 仮説の検証

           2月27日(木)10時頃 高野さんと川緑は 東京にある外資系分析機器メーカー ビエラボ社を訪問した。   この日の1週間程前 川緑は 顕微FT-IR装置購入の件で 技術研究所 分析課の堤課長からビエラボ社の製品を検討して欲しいとの依頼を受けていた。  50歳頃 小柄で細身 面長で広い額 分析課の堤課長は 気骨のある技術者で 多くの分析受託業務に対応して 日々忙しく分析業務をこなしていた。                以前より 彼は 分析課の保有するFT-IR装置を最

          塗料メーカーで働く 第四十八話 仮説の検証

          塗料メーカーで働く 第四十七話 仮説

           1992年2月4日(火)午後2時頃 東西ペイント社で TKM会が開催された。  ケイトウ電機社 内藤次長 笹原氏 藤崎氏 須崎氏が来社し 松頭産業社 野崎部長 菊川課長は 彼等に同行して来た。                       新規事業部 米村部長 川上課長 高野さん 川緑は 本館1階のロビーで 彼等を出迎え 「ようこそ お出でくださいました。」と言って 会議室へ案内した。  一同が着席すると 川緑は 「今日は UVカラーインクの硬化の理論の組み立てに必要と

          塗料メーカーで働く 第四十七話 仮説

          塗料メーカーで働く 第四十六話 共同研究の行方

           12月12日(木)午後2時30分 ケイトウ電機社 放電灯事業部でTKM会が開かれた。      会には 東西ペイント社 新規事業部 城山営業部長 米村部長 川上課長 川緑 高野さんの5名が 松頭産業社 野崎部長 菊川課長 奥田氏の3名が ケイトウ電機社 藤次長以下7名が参加した。  長テーブルを繋いで 四角く囲った会議席に 参加者が着席すると 川緑は テーブルを回りながら 報告書を配布した。  川緑は 席に付くと 「今日 報告しますのは UVランプ開発品の発光スペクト

          塗料メーカーで働く 第四十六話 共同研究の行方

          塗料メーカーで働く 第四十五話 UV照射装置の改造

           12月3日(火)午前10時頃 ケイトウ電機社の放電灯事業部の藤崎氏と西口氏と池崎氏は 新規事業部技術部に社用車でやってきた。   彼等は TKM会での取り決めに従い ケイトウ電機社製のUVランプ開発品を用いた露光実験のための環境整備を行うために来ていた。                          彼等は 持参したUVランプ開発品と ランプを点灯させるためのいくつかの装置を技術部の実験室に運び込むと 休みなく設置作業を続けた。   この日から3日間連続して ケイ

          塗料メーカーで働く 第四十五話 UV照射装置の改造

          塗料メーカーで働く 第四十四話 2人目の実習生

           1991年10月15日(火)午前10時頃 技術部に下期の教育実習生がやってきた。  「こちらでお世話になります高野です。よろしくお願いします。」と言った彼は 長身でがっちりした体格 はっきりと視線を合わせる態度に 物おじしない性格が感じられた。   「教育実習担当の川緑です。こちらの机を使ってください。」と言うと 川緑は 高野さんを連れて技術部内を案内し ここで取り扱う材料 実験設備 加工機等について説明した。     午後になると 高野さんに UVカラーインクの作り

          塗料メーカーで働く 第四十四話 2人目の実習生

          塗料メーカーで働く 第四十三話 怒るやろな

           9月3日(火)午前11時頃 松頭産業社の会議室 川緑は ナイコ・ジャパン社 営業担当の柳田氏と打ち合わせを始めた。  ナイコ・ジャパン社は 分析機器の製造販売を生業とする会社で 最新の顕微FT-IR装置を取り扱っていた。  川緑は 彼の考える実験の詳細を柳田氏に説明し ナイコ・ジャパン社の最新の顕微FT-IR装置を用いてその実験が可能かどうかを尋ねた。  実験は 平らな基板にUVカラーインクを薄く塗布し 分光した紫外線を照射したサンプルを作製し これを顕微FT-IR装

          塗料メーカーで働く 第四十三話 怒るやろな

          塗料メーカーで働く 第四十二話 共同研究の方針

            8月28日(水)午前11時 米村部長と川上課長と川緑はJR新横浜駅近くにある松頭産業社の事務所を訪ね そこで野崎部長 菊川課長 奥田氏と合流し ケイトウ電機社へ向かった。  この日の午後 菊川課長の企画した3社の共同研究TKM会の2回目の会合が予定されていた。  TKM会の開催は それぞれの会社の部門責任者等の合意の下に開かれたのではなく とりあえず泳がせて様子を見ようという彼等の思惑の中でスタートすることになった。  午後1時 ケイトウ電機社 放電灯事業部の会議室

          塗料メーカーで働く 第四十二話 共同研究の方針

          塗料メーカーで働く 第四十一話 TKM会発足

           8月1日(木)午前9時に 新横浜駅から車で約20分くらいの所にあるケイトウ電機社の放電灯事業部で 菊川課長の企画した3社による共同研究の第1回目の会合が開かれた。   会合は 菊川課長の申し出により 3社の社名の頭文字をとって TKM会と名付けられた。     会合には ケイトウ電機社から放電灯事業部の内藤次長 森永氏 久保氏 鎌田氏が出席し 松頭産業社から菊川課長が参加し 東西ペイント社から米村部長 川上課長 川緑が加わった。  この日の会議は 関係者の顔合わせが主目

          塗料メーカーで働く 第四十一話 TKM会発足

          塗料メーカーで働く 第四十話 共同研究案件

           1991年7月25日(木)午前10時前に 川緑は 新横浜駅の近くにある松頭産業社を訪問した。              松頭産業社の会議室で菊川課長と話をしていると 開けてあったドアをノックし「失礼します。」と言う声とともに 40歳くらい 中肉中背 眼鏡を掛けた男性が入ってきた。  彼は 光学部品の製造販売を生業としている発田光学社の技術者の泉氏で 菊川課長の依頼を受けて来社していた。  名刺を交換し 席に付くと 川緑は 実験に必要な光ガイドの試作について話し始めた。

          塗料メーカーで働く 第四十話 共同研究案件