川緑清

リタイアした材料・デバイス系技術者(男性)です。  第二の人生(終活も含め)を模索中で…

川緑清

リタイアした材料・デバイス系技術者(男性)です。  第二の人生(終活も含め)を模索中です。 その中で 過去の経験のまとめと 何か創作活動ができないかと noteへの投稿を始めます。

最近の記事

塗料メーカーで働く 第六十五話 思わぬ助っ人

 10月27日(火)午後2時頃 川緑は 実験室で 電線メーカー各社から依頼を受けたUVカラーインクのサンプルを作製していた。  TKM会の共同研究が進まない状況に 川緑は ケイトウ電機社の内藤次長や松頭産業社の菊川課長に申し訳ない気持ちで作業していた。  そこへ 前期の実習生 永野さんがやってきた。  彼は 「川緑さん TKM会の件で何か実験することがあったら手伝いますよ。」と言った。  驚いた川緑は 作業の手を止めて 「いったいどうしたの?」と尋ねた。  彼は 「

    • 塗料メーカーで働く 第六十四話 押し寄せる仕事

       電子線・放射線技術に関する国際会議 ラドテック Asia‘93の発表者募集に手を挙げた途端 川緑に仕事の依頼が押し寄せてきた。   10月21日(水)午前11時頃 昭立電線社光ケーブル技術課の担当者から電話が入った。   彼は 「近く 新規に海底ケーブル用の光ファイバーを生産する予定です。 つきましては 今週中に それ用のUVカラーインク12色のサンプルの発送をお願いします。」と言った。  海底ケーブル用光ファイバーは 国内で用いられる光ファイバーの様に 途中で分岐し

      • 塗料メーカーで働く 第六十三話 背水の陣 

         1992年10月19日(月)午前10時頃 新規事業部 研究部の杉本部長は 技術部へやってきて 居室の一番奥にある米村部長の机に向かって行った。  彼は 「米村さん ちょっといいかね。」と声をかけて 暫くの間 なにやら話をしていた。     話が終わると 杉本部長は 川緑の所へ来て 「来年のラドテックに 技術部で 何かいいテーマはないかいね。」と言った。   ラドテックとは 電子線・放射線技術に関する国際会議の名称で 関連する設備メーカーや材料メーカー等が最新の商品や技

        • 塗料メーカーで働く 第六十二話 いつやる?

           10月15日(木)午後2時に 技術部の会議室で 松頭産業社と 光ファイバー用樹脂材料の関連業務について 今後の方針打ち合わせが行われた。   松頭産業社 野崎部長と菊川課長の来社に 営業部 渕上課長 技術部 米村部長と川緑が対応した。                             議題の1つ目は 電線メーカー各社向け UVカラーインクの取り組みについて 2つ目は 新規UV樹脂材開発の取り組みについて 3つ目は TKM会の共同研究の進め方についてだった。  

        塗料メーカーで働く 第六十五話 思わぬ助っ人

          塗料メーカーで働く 第六十一話 パンクしとるじゃろ

           10月9日(金)午前7時頃 会社の居室で目を覚ました川緑は 実験室へ降りて 古友電工社向けの新タイプUVカラーインクの製造を再開した。     この日 技術部では 事業部長への月次報告会が予定されていた。  午前8時頃 出社してきた米村部長に 川緑は 今月分の業務報告書を提出し 「すみません。今日は インクの製造作業がありまして 報告会は欠席します。」と言った。  部長は 「しゃーないな。 あんたの欠席は わしから伝えとくわ。」と言った。  午後3時頃 川緑は 注文分

          塗料メーカーで働く 第六十一話 パンクしとるじゃろ

          塗料メーカーで働く 第六十話 製造ラインが止まる

            10月7日(水)午後4時頃 上期の新人研修発表会が終わり 技術部の実験室に戻って来た川緑に 松頭産業社 事務担当の浦本氏から電話が入った。   彼女は 「古友電工社 三重事業所さんから新タイプUVカラーインクの注文が入ったんですが 東京工場さんでは対応できないそうです。」と言った。  この時 新タイプUVカラーインク各色は三重事業所に仮採用されていて 川緑は 東京工場への製造引継ぎを終えていたが まだ インクの生産体制は整っていなかった。  東京工場の生産体制の遅れ

          塗料メーカーで働く 第六十話 製造ラインが止まる

          塗料メーカーで働く 第五十九話 新人研修発表

           1992年10月7日(水)午前9時に 会社の講堂で前期の新人研修発表会が始まった。         新規事業部技術部の実習生永野さんは 2番目手で 司会者の指名を受けて登壇した。  川緑は 会場の最前列に置かれたOHPの前に座り 発表資料の1枚目をかざした。   スクリーンには 研修テーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」とサブタイトル 「酸素阻害」の文字が映し出された。                        永野さんは 落ち着いた様子で 「新規事業部技術部

          塗料メーカーで働く 第五十九話 新人研修発表

          川緑 清の テクニカル レポートNo.4

           ご覧頂き ありがとうございます。  本文は 【連載小説】 塗料メーカーで働く 第五十九話に記載の 新人実習生 永野さんの研究発表をレポートにまとめたものです。  彼の発表の詳細について ご興味を持たれた方 ぜひ ご参照ください。 背景  塗料メーカーに勤める川緑は 電線メーカーからの依頼を受けて 光ファイバー用の高速硬化タイプのUVカラーインクの開発を担当します。  競合他社に比べて 貧弱な開発体制の中 UVカラーインクの開発競争に勝ち残るために 川緑と永野さんは

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          川緑 清の テクニカル レポートNo.4

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          塗料メーカーで働く 第五十八話 研究設備

           6月17日(水)午前10時頃 技術部に 運送業者の4トン トラックが到着した。  積荷は 1.2m四方程のコンテナ2つに入ったナイコ・ジャパン社製の顕微FT-IR装置で 川緑は ドライバーに指示して それを実験室に運んだ。  10時30分頃 ナイコ・ジャパン社 営業の柳田氏は 同社の社員二人と共に 技術部へやって来て 「この度は 弊社の製品をご購入頂き ありがとうございました。」と言った。  彼等は 実験室に案内されると FT-IR装置の梱包を解いて 装置を組み立て始

          塗料メーカーで働く 第五十八話 研究設備

          塗料メーカーで働く 第五十七話 実習生の研究テーマ

           5月に発生した 古友電工社 三重事業所でのUVカラーインクのトラブルへの対応に追われ 川緑は 実習生の永野さんの指導ができなくなっていた。  その間 川緑は 永野さんに取組んでもらうテーマを考えていた。  新人研修のテーマは 従来の実習生のテーマと同様に 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」として サブタイトルを 「酸素阻害」とすることにした。  光ファーバーに用いられるアクリル系のUV硬化型樹脂は UV硬化の際に空気中の酸素により その硬化が阻害されることが知られていて

          塗料メーカーで働く 第五十七話 実習生の研究テーマ

          塗料メーカーで働く 第五十六話 トラブル対策

           5月22日(金)午後1時頃 川緑は 東京工場の会議室に入り 先に来ていた製造部と品質管理部のメンバーに 「ご苦労さまです。 ご協力 宜しくお願いします。」と言って用意してきた資料を配った。  資料は 白色インクの顔料凝集の再現試験結果をまとめたもので 会議の参加者は その資料を基に 今後の具体策と担当者を取りまとめ スケジュールを立てた。  その内容は 短期間に対応できる対策案と時間を要する対策案とを分けて それらを並行して進めるものだった。              

          塗料メーカーで働く 第五十六話 トラブル対策

          塗料メーカーで働く 第五十五話 原因究明

            5月21日(木)午前9時頃 技術部の実験室 川緑は 古友河電工社 三重事業所へ提出した白色UVカラーインクの控えサンプルと その検査成績表を取り出していた。  従来 インク サンプルを提出する際には インクと その液特性と硬化物特性の検査成績表を添付して発送し 同一ロットの一部のインクを 控えサンプルとして 50ccの遮光ビンに保管していた。    川緑は 控えサンプルを 検査項目に従い再検査したが 特に 問題は見られなかった。  今回の光ファイバーの伝送特性低下のト

          塗料メーカーで働く 第五十五話 原因究明

          塗料メーカーで働く 第五十四話 ユーザートラブル

           5月13日(水)午後4時頃 川緑は実験室で作業していると 松頭産業社の菊川課長から電話が入った。  この日 課長は 古友電工社三重事業所へ出張訪問して 先週 川緑の送付した新タイプのUVカラーインクサンプルの評価結果を聞きに行っていた。  「川緑さん。 実はですね。」と言うトーンの低い声に 川緑は 結果が良くなかったと分った。  課長は 白色インクを用いて試作した光ファイバーについて 光の伝送特性を評価した結果 伝送損失が大きく 使えないレベルだったと言った。  5

          塗料メーカーで働く 第五十四話 ユーザートラブル

          塗料メーカーで働く 第五十三話 3人目の実習生

           1992年5月8日(金)午前9時頃 技術部の居室に 今年の新人実習生がやって来た。          中肉小柄 ぼさぼさ頭に眼鏡を掛けた彼は 「お世話になります。永野です。」と言った。   「川緑です。教育実習を担当します。よろしくお願いします。」と言って出迎えると 入り口近くの空き机を指して 「ここを使ってくださいと。」と言った。  川緑は 過去の実習生のまとめた研修報告書を手渡し 「永野さんには これらの研究を継続してもらいます。 内容に目を通してください。」と言

          塗料メーカーで働く 第五十三話 3人目の実習生

          塗料メーカーで働く 第五十二話 釣りに行きませんか

           3月26日(木)午後4時頃 新規事業部 技術部内の来年度の人事異動の発表があった。       光ファイバー用樹脂材料開発チーム関連のメンバーでは 技術部 川上課長の東京工場への異動 営業部 北野係長の資材部への異動 実習生 高野さんの生産本部への配属があった。     上司の川上課長の異動後のポストは 米村部長の兼任となり 川緑は また1人チームの担当者となった。  4月10日(金)午後2時頃 実験室で作業をしていた川緑に ケイトウ電機社 内藤次長から電話があった。

          塗料メーカーで働く 第五十二話 釣りに行きませんか

          塗料メーカーで働く 第五十一話 やるしかないやろ 

           翌3月18日(水)午後1時頃 日菱電線工業社 技術部門の佐野氏は 東西ペイント社の東京工場へやってきた。  40歳代 中肉中背 表情を変えずに話す佐野氏は UVカラーインク製造ラインの見学を希望していて 技術部 米村部長と川緑は 工場の製造部と品質管理部のメンバーと共に その対応に当たった。   関係者等は 管理棟2階の会議室に入り そこで 品質管理部 樋口課長により この日のスケジュールの説明が行われ その後 製造部 西村課長の案内で 製造現場の見学が行われた。  

          塗料メーカーで働く 第五十一話 やるしかないやろ