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塗料メーカーで働く 第五十六話 トラブル対策

 5月22日(金)午後1時頃 川緑は 東京工場の会議室に入り 先に来ていた製造部と品質管理部のメンバーに 「ご苦労さまです。 ご協力 宜しくお願いします。」と言って用意してきた資料を配った。

 資料は 白色インクの顔料凝集の再現試験結果をまとめたもので 会議の参加者は その資料を基に 今後の具体策と担当者を取りまとめ スケジュールを立てた。

 その内容は 短期間に対応できる対策案と時間を要する対策案とを分けて それらを並行して進めるものだった。                             

 短期間の対応策は UVカラーインクの製造条件を変更するもので 時間を要する対策案は 顔料や添加剤の種類や添加量の変更を行うものだった。 

 製造部 小神野課長は 「川緑さん 今回の件 工場は できる限りの対応をするよ。」と言った。

 東京工場では 早速 短期間の対応策を実施して 対作品を試作することになった。

 5月25日(月)午前10時頃 川緑は東京工場に入り ダンボール箱に梱包されたUVカラーインク対策品20kgを受け取ると 直ぐに 工場を出た。
 
 今回の対策品は UVカラーインク製造時のろ過条件を変えたものだった。

 インクのろ過は 加圧タンクに連結したろ過器を通して行っていたが インクがフィルターを通過する時に掛かる圧力が 顔料の凝集に影響すると予想して 対策品は ろ過圧力を低下させて作っていた。

 川緑は 松頭産業社を訪れ 菊川課長と共に新横浜駅へ向かい 新幹線で名古屋へ行き 在来線に乗り継ぎ タクシーで古友電工社三重事業所へ入った。 

 午後9時30分頃 生産技術課の村崎主任と面会し 「ご評価 よろしくお願いします。」と言って持参した対策品を手渡した。

 村崎主任は 「明日の午前10時頃には 結果がでますので 連絡ください。」と言った。

 翌26日(火)午前10時頃 菊川課長は坂本旅館近くの電話ボックスへ向かい そこから村崎主任へ電話を入れて 昨日のUVカラーインク対策品の評価結果を聞いた。             

 電話ボックスのガラス越しに見える菊川課長の表情から 昨日の評価結果が思わしくなかったことが分かった。

 午後2時頃 川緑は 菊川課長と三重事業所へ入り 案内された応接室で待っていると 鐘馗様のような風貌の村崎主任の怒りの表情が思い浮かんだ。

 やって来た村崎主任は 川緑の予想に反して 物静かな表情で 淡々と 昨日の光ファイバーのカラーリング試験の結果について述べた。

 主任は UVカラーインク対策品をコートした光ファイバーの伝送特性評価結果はNGで 前回品からの改善は見られなかったと言い 「次の対策品が届いたら直ぐに評価します。」と言った。

 この日から約1か月間 川緑は 毎週UVカラーインク新色の対策品を三重事業所へハンドキャリーして 対策品をコートした光ファイバーの伝送特性を評価結果を聞くというパターンが繰り返された。 

 この間 菊川課長は三重事業所にくぎ付けとなり 光ファイバー製造ラインの空き状況の情報入手やUVカラーインク対策品の納期調整を行った。

 その後 新タイプの白色インク対策品は 光ファイバーの光伝送特性低下の問題を解決し 三重事業場で仮採用された。

 今回の光伝送特性低下のトラブルは インク中の着色顔料の二次凝集により 光ファイバー表面にかかる圧力が不均一になり 芯線を伝搬する光の一部が散乱されることによると結論付けられた。              

 顔料の二次凝集は インク成分と顔料と添加剤を ある割合で配合することで発生し その現象は インクの製造方法の影響を受けると判明した。

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