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塗料メーカーで働く 第五十八話 研究設備

 6月17日(水)午前10時頃 技術部に 運送業者の4トン トラックが到着した。

 積荷は 1.2m四方程のコンテナ2つに入ったナイコ・ジャパン社製の顕微FT-IR装置で 川緑は ドライバーに指示して それを実験室に運んだ。

 10時30分頃 ナイコ・ジャパン社 営業の柳田氏は 同社の社員二人と共に 技術部へやって来て 「この度は 弊社の製品をご購入頂き ありがとうございました。」と言った。

 彼等は 実験室に案内されると FT-IR装置の梱包を解いて 装置を組み立て始めた。 

 7月16日(木)午後2時頃 ナイコ・ジャパン社 技術の栗崎氏は 技術部を訪れた。

 中肉中背 紺のスーツ姿の彼女は 愛想笑顔無しに 「本日は よろしくお願いします。」と言って名刺を差し出した。

 実験室に案内された栗崎氏は 顕微FT-IR装置を前にして 川緑と永野さんに 装置の操作方法の指導を始めた。

 彼女は 通常の操作方法を説明すると その後 コマンド方式と呼ばれる この装置に特有な機能について説明した。

 コマンド方式とは 装置に付随のパソコン画面から 装置の操作を対話形式により行うものだった。

 コマンド方式を使って装置を操作することにより オートステージ動作時の待ち時間や測定時間等をコントロールすることができ 通常の自動測定に比べて測定時間を短縮することができた。

 栗崎氏は 「私達は 他社との差別化するために コマンド方式を開発したのですが この機能を使って頂けるお客様は少ないです。」と言った。

 彼女の指導を受けて 川緑達は 顕微FT-IR装置のオートステージ上に分析サンプルをセットして コマンド方式のモードで測定を行った。

 サンプル上の200点の測定の結果 得られた赤外吸収スペクトルのデータは 定量分析が可能なもので 目的とする樹脂の硬化状態の解析が可能になったと分った。

 7月23日(木)午後2時頃 ケイトウ電機社 放電灯事業部の川辺氏は 技術部を訪れた。 

 彼は 松頭産業社の菊川課長の依頼を受けて 開発品のUVレーザーのデモ機を運んできた。

 UV(He-Cd)レーザー照射装置は 波長325nmの紫外線を照射する装置で 実習生の永野さんの研究に用いるものだった。

 以前に調査した文献には UV硬化型樹脂の表面硬化について 紫外線の波長が影響することが指摘されていたが その明確なメカニズムは分っていなかった。 

 川緑は 永野さんの酸素阻害の研究に 単一波長のUVレーザーを用いることで 実験系を単純化し 酸素の影響をより分りやすくしようと考えた。

 川辺氏は 装置を渡すと 「申し訳ないのですが このUVレーザーは次の使用予定がありまして お貸し出きるのは 1週間だけです。」と言った。

 永野さんと川緑は 1週間にできる実験計画を立てると 直ぐに 「酸素阻害」の研究に取り掛かった。

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