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塗料メーカーで働く 第六十二話 いつやる?

 10月15日(木)午後2時に 技術部の会議室で 松頭産業社と 光ファイバー用樹脂材料の関連業務について 今後の方針打ち合わせが行われた。 

 松頭産業社 野崎部長と菊川課長の来社に 営業部 渕上課長 技術部 米村部長と川緑が対応した。                           

 議題の1つ目は 電線メーカー各社向け UVカラーインクの取り組みについて 2つ目は 新規UV樹脂材開発の取り組みについて 3つ目は TKM会の共同研究の進め方についてだった。

  3つ目のTKMの共同研究は この半年間 殆ど進んでいなかった。

 その理由は 1つ目と2つ目の案件に忙殺されていたこと 共同研究の推進に必要な顕微FT-IR装置の購入が遅れてしまったことだった。

 今月から 実習生の永野さんは 下期の研修先へ異動していて 共同研究の実務を行う人手が足りない状況で 今後のTKM会の進め方が議論された。

 米村部長は 松頭産業社の2人に 「TKM会の件は どうやったら ケイトウ電機さんにうまく断れるかと思うとるんよ。」と切り出した。 

 それを聞いた野崎部長と菊川課長は 川緑の方を向いて 「そうなの?止めるの?」とでも言いたげな表情を見せた。 

 はじめて米村部長の考えを聞いた川緑は 少なからず驚き その発言が彼だけの考えなのか 或いは 新規事業部の意思決定なのか分かりかねていた。

 川緑は 「TKM会は 今後の塗料やインクの開発技術のレベルを向上させるものです。 この取り組みができないようでは 今後 競合他社に勝る戦略は立てられませんよ。」と言った。 

 営業の渕上課長は 川緑を見ながら 「TKM会は また時機を見て取り組んだら。」と言った。

 川緑は ここで松頭産業社の2人がTKM会を止めることに賛同すれば この話は終わり 今後 共同研究のチャンスが訪れることはないだろうと感じた。

 彼は 思わず 「ちょっと待ってください! なんとか TKM会で報告できる資料をまとめます。」と反発した。

 それを聞いた野崎部長は 「そら 助かるわ。」と言った。 

 しかし 米村部長は 川緑の方を向いて 「ほやけど 古友電工社向けの新規UVカラーインクの開発や 他社から依頼を受けている開発案件は 直ぐにやらんとあかんやろ。」と言った。

 部長は 川緑を覗き込むようにして 「いつやる?」と言った。                                  

 彼の問いに 川緑は 彼等との仕事に対する価値観や優先順位に どうしようもない違いがあると感じて 返答に窮してしまった。

 この日の打ち合わせでは TKM会の共同研究の今後については結論が出ないまま終わった。

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