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記事集・K

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川端康成関連の連載記事、および緩やかにつながる記事を集めました。
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#雪国

織物のような文章

織物のような文章

【※この記事には川端康成作『雪国』の結末についての記述があります。いわゆるネタバレになりますので、ご注意ください。】

縮む時間の流れる文章

 川端康成作『雪国』の終章の前半である、縮(ちぢみ)について書かれた部分には――「縮」だから「縮む」というわけではありませんが――縮む時間が流れています。

 この小説では、縮織は縮(ちぢみ)と書かれていますが、縮は産物であり製品です。

 たとえば、ある

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音もなく動くもの(スクリーン・06)

音もなく動くもの(スクリーン・06)

「薄っぺらいもの(スクリーン・05)」の最後に書きましたが、その記事で紹介した川端康成の『名人』の一節に、私がどきりとしたと言うか、はっとした部分があるので、今回はそれだけに絞ってお話ししたいと思います。

静の描写 細かく見てみます。

・「二日目の対局室は、明治時代のさびのついたような二階で、襖から欄間まで紅葉づくめ、一隅に廻した金屏風にも光琳風のあてやかな紅葉であった。床の間に八つ手とダリア

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映・写、移・動(スクリーン・02)

映・写、移・動(スクリーン・02)

 今回は「さえぎる、うつす、とおす(スクリーン・01)」の続きです。

「リーダーズ英和辞典」(研究社)と「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)で screen を調べると、以下の日本語訳が目に付きます。

 1)さまたげるもの、さえぎるもの。ついたて、すだれ、びょうぶ、幕、とばり、障子、ふすま、仕切り、障壁、目隠し、遮蔽物、遮蔽、スクリーンプレー。おおい隠す、かくまう、かばう。

 2)うつすも

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長いトンネルを抜けると記号の国であった。(連想で読む・02)

長いトンネルを抜けると記号の国であった。(連想で読む・02)

「「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」(連想で読む・01)」の続きです。

連想を綴る この三文は私にいろいろな連想をさせ、さまざまな記憶を呼びさましてくれます。

・「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」

 約物である句点も入れると二十一文字のセンテンスをめぐっての連想を、前回は書き綴りました。

 今回は、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号

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「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」(連想で読む・01)

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」(連想で読む・01)

 川端康成作『雪国』の冒頭の段落を引用します。


「国境」(くにざかい)と言えば、国境(こっきょう)を連想しないではいられません。私自身「くにざかい」という言葉を日常生活でつかった記憶はありません。県境(けんざかい)ならつかいます。

 たとえば、岐阜県だと飛騨と美濃の国がかつてあって、いまは飛騨地方と美濃地方と呼ばれています。

 飛騨の北には越中国(えっちゅうのくに)があり、それがいまは富

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『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』の終章では二つの時間が流れています。「縮む時間」と「のびる時間」です。「縮む時間」については「伸び縮みする小説」と「織物のような文章」で詳しく書きましたので、今回は「のびる時間」に的を絞って書いてみます。

 ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。

     *

「のびる時間」というのは、火事になった繭倉の二階から葉子が落下する瞬間が、くり返し描かれるという意味です。

 

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葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

 今回は『雪国』冒頭の汽車の場面で、葉子が島村から一方的にその姿を見られ、さらには声を聞かれる部分を見てみます。

 結論から言いますと、映っている現実(うつつ)は美しいということです。現実そのものではなく、映っている現実だからこそ、美しいのです。

エスカレート
 これまでの回をお読みになっていない方のために、この連載でおこなっている見立ての図式を紹介いたします。

・『雪国』(1948年・完結

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相手に知られずに相手を見る(する/される・01)

相手に知られずに相手を見る(する/される・01)

「する/される」という連載を始めます。「「移す」代わりに「映す・写す」」で予告したものです。

 今回は、相手に知られずに相手を見る、つまり一方的に相手を見るという行為について、川端康成の『雪国』の冒頭にある汽車の場面を読みながらお話しします。

見立て
 川端康成の書いた膨大な数の小説(掌編・短編・中編・長編・連作・連載)のうち、一部の作品に流れている傾向に目を注いでみようと思います。

 傾向

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伸び縮みする小説

伸び縮みする小説

【※この記事には川端康成作『雪国』の結末について触れています。いわゆるネタバレになりますので、ご注意ください。】

観光案内としても読める小説
 川端康成作『雪国』の最後の章では――章といっても一行空けて区切ってあるだけですが――、冒頭で縮織(ちぢみおり)についての話が語られ、最後は火事の話で終わります。

 この小説では、縮織は一貫して「縮(ちぢみ」」と表記され、『雪国』の舞台となる地方の縮をめ

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