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ラジオポトフ(おしゃべり大好き作家と俳優で美術家のラジオ)
2023年2月28日 08:52
シリーズ・現代川柳と短文 040(写真でラジオポトフ川柳128) 美羽さんが「コックリさん」を知ったのは10歳のとき。同じ病室に入院していたカズくんという男の子に話を聞いたのだった。カズくんは美羽さんにそれを教えた次の日に退院してしまったから、美羽さんは深夜の病室でひとりコックリさんと話すことになった。10円玉が紙の上の五十音を一文字ずつ示して動く。み・は・ね………そう。「美羽」は「みはね」
2023年2月27日 09:44
シリーズ・現代川柳と短文 039(写真でラジオポトフ川柳127) 新聞やテレビのニュースで熟語内の漢字の一部をひらがなにひらいた表記を目にすることがある。警ら(警邏)や、だ捕(拿捕)がその一例だが、わたしとしては、げっ歯類(齧歯類)も捨てがたい。ややかしこまった紙面や画面で「げっ」の文字は目立つ。虚をつかれたときの間投詞「げっ」と同じ文字列だし、口語の場面で使われがちなそれがわざわざ文字とし
2023年2月26日 10:51
シリーズ・現代川柳と短文 038(写真でラジオポトフ川柳126) 彼は立ちつくすしかなかった。ブルーベリーの色素「アントシアニン」を含むサプリを買ってきたのはいいが、視力が悪くてまずパッケージの文字が読めなかったのだ。容器は茶色のびんだ。しかし棚にはすでに似たようなびんがいくつもあり、どれがアントシアニンのサプリなのか区別がつかなくなってしまった。アントシアニンを飲めば視力が回復するという話
2023年2月25日 07:34
シリーズ・現代川柳と短文 037(写真でラジオポトフ川柳125) Y字路という言葉を目にするたび、「あまりにもうまくいきすぎている」と警戒心を抱く。ふたまたの分かれ道をYで示す。完璧だ。なんの過不足もない。だからこそ「うまくいきすぎている」という気がしてくる。ひょっとしてYという文字はY字路が起源なのだろうか。つまり象形文字。いや、先にYという文字が存在し、その形に合わせて道のほうが形を変え
2023年2月24日 10:12
シリーズ・現代川柳と短文 036(写真でラジオポトフ川柳124) もしあなたが雨に打たれるヘリコプターを見て心が傷まないのなら、あなたにはヘリコプターを所有する資格がないだろう。ヘリコプター愛好家はみなヘリコプターを包むための布を心に持っている。それで心のヘリを包むのだ。ヘリが空を飛んでいるあいだ、その布は心の公園に広げられ、その上でヘリコプター愛好家の仲間たちと食事をしたりお酒を飲んだりす
2023年2月23日 09:31
シリーズ・現代川柳と短文 035(写真でラジオポトフ川柳123) 誰が誰に恋をしようが自由であり、それをだめだと言うのはおかしい。ただ、まねきねこが恋をするのはどうだろう。本来不特定多数の客をまねくのが仕事のはずが、ひとたび恋をしてしまうと、その相手をまねきたいという気持ちが強くなり、ほかの客をまねく力が薄れるのではないか。困る。商売上がったりだ。しかし、それでも恋をするのがだめなはずはない
2023年2月22日 08:02
シリーズ・現代川柳と短文 034(写真でラジオポトフ川柳122) かつて動物占いが流行っていた頃、自分のそれを訊かれるたび、面白半分に「オオカミです」と答えていた。じっさい動物占いにオオカミがいたかどうかは知らない。わざと孤高を気取るようなポーズをとるのが面白い気がしたのだが、それが周囲に伝わっていたかは定かではない。というか動物占いってなんだ。すでに干支や星座があるのにさらにそれとはべつに
2023年2月21日 07:37
シリーズ・現代川柳と短文 033(写真でラジオポトフ川柳121) かつて行った舞台公演にキャラクターのひとりが凶刃に倒れるシーンがあった。まぶたを閉じ、仰向けになる俳優。静まり返る劇場。そのとき客席からこどもの声がした。「死んだふりだ〜」うん、そうだよ。死んだふりだよ。続いて舞台上ではそのキャラクターの親友が涙を流しはじめた。こどもは一緒に来ていた親に注意されたのか、こんどはなにも言わなかっ
2023年2月20日 08:25
シリーズ・現代川柳と短文 032(写真でラジオポトフ川柳120) 東京の片隅。彼は「なんでやねん」を標準語に置き換えようとしていた。なぜですか。どうしてですか。丁寧語ではうまくグルーヴが出せない。短く言い切りながらも豊かなニュアンスを持つ関西弁に彼は憧れ、やがて関西出身の相方と新しいコンビを組んだ。しかし、自分も相方もボケ志向が強く、どちらともツッコまない日々が続いた。64年後、相方が交通事
2023年2月19日 07:44
シリーズ・現代川柳と短文 031(写真でラジオポトフ川柳119) 大きいピカチュウのぬいぐるみを抱えた小さいこどもがゲームセンターから出てきた。ぬいぐるみが大きいのかこどもが小さいのか。たぶんその両方だろう。サイズ的には「ピカチュウがこどものぬいぐるみを抱えてゲームセンターから出てきた」でもおかしくなさそうだが、わたしは実際のピカチュウのサイズ感を知らない。雨が降っていてこどもは傘を持ってい
2023年2月18日 07:35
シリーズ・現代川柳と短文 030(写真でラジオポトフ川柳118) スマホの充電器をコンセントに刺す。画面に乾電池っぽい見慣れたアイコンが出る。それに内接して見慣れない円形の意匠が追加されていた。「急速充電中」とある。急速な充電。新しい充電器と充電ケーブルを使ったらそうなった。ケーブルは床でねじれて輪っかを描いていて、その輪の中心に、きのう切ったときにどこかに飛んでいった爪が白々しい表情で落ち
2023年2月17日 08:35
シリーズ・現代川柳と短文 029(写真でラジオポトフ川柳117) レジ袋無料、と書いてある。それがサービスなのかいつものことなのかはわからない。店員が会計済の赤いかごにカニを入れた。そこは海産物に力を入れているスーパーのようで、かごにはすでにマグロの刺身やイクラも。そういえばみんな赤い。カニは茹でればもっとあざやかな赤色になるが、彼じしんは甲殻類アレルギーだ。マグロやイクラを食べながら話をす
2023年2月16日 08:19
シリーズ・現代川柳と短文 028(写真でラジオポトフ川柳116) 病院に近い叔母の家の二階で妹用のベビーベッドを組み立てている。これから生まれてくる妹はわたしより4歳下になる。つまりわたしは4歳。じっさい組み立てているのは父親で、わたしはその横で説明書の図を見ている。母親は出産のため入院していてそこにはいない。わたしは図を指差してここはこうじゃないかここはああじゃないかとなにか言っている。繰
2023年2月15日 07:58
シリーズ・現代川柳と短文 027(写真でラジオポトフ川柳115) 昼間のファミレス。四人掛けのボックス席は先ほどから株の配当の話題で持ちきりだった。「ことしから急にくれるようになったのよ」「退職したからでしょ」「ほら、あの社長、若い、浅黒い人。なんとか崎とかいう」「へえ」店の出入口に最も近い席に座っている女は相づちを打つばかりで、自分からは話題を切り出さない。その女の前にだけケーキがある。ひ