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エッセー
田舎のネズミと都会のネズミ

  夏休みになると、都会人の多くが自然と交わるために旅をする。都市という文明社会の一歯車として回り続けていると次第に歪が生じ、そのかなめで回る心が疲れたとき、人は遠い昔の母体であった自然に包まれたいと願うようになる。それは一方向に回り続けていた歯車を逆に回転させて調整する大切な息抜き作業だ。森は祖先が暮らした生活の場で、海はそのさらに昔の祖先が鰓呼吸をしていた生活の場だった。だから赤ん坊はいまだに尾を引いて、子宮という小さな海から生を授かるのだ。

  一年のうちの数日でも灰色のジャングルから逃れて、森の緑に包まれたり、海の青と交わったりして、英気を養う。それは五感の保養だ。この言葉の意味は、次の戦いに備えて気力や体力の充実を図るということだ。生物の生は戦いであり、悲しいかな人の基本姿勢も戦いだ。森では、彼はほかの獣たちと生活の場を奪い合うわけではないから、訪れると戦闘アドレナリン以外の古の感情がすべて戻ってくる。彼は母親に抱かれるよう、森の安らぎに抱かれる。そしてある者はコンクリート・ジャングルの冷たさを思い出し、鳥肌立つ。

  都会人にとっては、森や海は古代人の遺跡かも知れないが、それは廃墟ではない。廃墟は祖先がこしらえた灰色ジャングルで、人が創り放棄した文明の遺跡だ。それは人工物のなれの果てで、本来の役割を終えた廃棄物だ。人に栄枯盛衰という歴史的な感傷をもたらしても、死んでいる。彼は先祖の墓を見るように、一つの文明、一つの暮らしが終焉したことに哀れみの感情を持つ。おそらくこの哀れさは、無常観だろう。

「夏草や兵どもが夢の跡」

 そこでかつて暮らしていた人たちが零落し、都を去ったいきさつに思いをはせるわけだ。

  しかし森や海は、都会人以外の多様な生物が生息しており、その中には田舎暮らしの人々も存在する。都会の生物は人ばかりで、多様性を失っているが、森や海には、人を含めた生物多様性の世界がいまでも花開き、生き生きとしている。この田舎に暮らす人々には、おそらく二種類の人間がいるに違いない。心の内のどこかで、都会に憧れている人々と、田舎暮らしに満足している人々だ。しかし、森や海が人類の揺籃なら、そんなにきっぱり分けられるものでもない。都会に憧れていざ移住しても、後ろ髪を引かれる思いで故郷を後にしただろうし、一度は都会に出て行ったが、失望して戻る者もいるだろう。地元に留まる者も根っから組は少なく、きっと心の奥に都会への憧れはあるに違いない。これは都会生まれの人にも当てはまる。都会人で、一度も田舎暮らしに憧れなかった人がいるとすれば、その人は根っから都会が好きな人だ。きっと根っから田舎が好きな人は、太古からの遺伝子が強い人で、根っから都会が好きな人は、その遺伝子が弱い人に違いない。あるいは進化の途中で生成された文明遺伝子が強い人だ。もちろん、氏より育ちが正しければ、生育環境も影響するだろう。

  基本的に、都会に暮らす人々は世界的な流通システムの中で生活している。田舎に暮らす人々は、地産地消という小さな流通システムの中か、自給自足的システムの中で暮らしている。いまはネット通販でなんでも揃う時代だが、田舎暮らしの若者が一度は都会で暮らしてみたいと思うのは、多分にテレビやインターネットの影響によるのだろう。一度は都会で暮らしてみるのも勉強だ。そこはあらゆる欲望の集積地だ。

  こんな話は古代ギリシアから同じで、『イソップ物語』の「田舎のネズミと都会のネズミ」を読めばわかるだろう。都会では世界中の食べ物や娯楽が揃っていて、金を払えばいくらでも手に入る。金は欲望の代価支払いだ。都会好きの人は食事、ファッション、娯楽と、その欲望を満足させるために身を削るようにして欲望の代価を稼ぎ、悦楽を得れば得るほど経済は循環する。この欲望は「贅沢」という言葉に言い換えることができるだろう。贅沢したいために、金品を奪うことまでするようになれば、危険を冒してまでご馳走を食らう都会のネズミ現代版ということになる。

  HNKの番組に『欲望の資本主義』というシリーズがあったが、人が欲望を満足させる行為は、人が資本主義の歯車として生産と消費に関わり、その発展に寄与していることを明示していた。当然、全人類が突然変異で聖(ひじり)のような脳構造になったとすれば、一日にして資本主義は崩壊し、多くの破産者が巷に溢れるだろう。彼の頭の中では、ロレックスもフェラーリも、その他の高級品も、ゴージャスなフランス料理も億ションも、何の価値も持たないからだ。彼はまったく人目を気にせず、ぼろ布を纏って一生を過ごし、「贅沢は敵だ!」とは叫ばずに「贅沢は無価値だ!」あるいは「価値あるものの多くは無価値だ!」と叫ぶ。しかし彼は「価値あるものは思考だ」とは言い切れず、「一人一人が自分の価値を見出せばよい」と言葉を濁すだろう。誰だって、自分の価値観をとやかく言われる筋合いはないし、ある人の思考はほかの人の妄想でもあるからだ。

  キリスト教の聖人、アッシジのフランチェスコは、金持ちの父親の前で買ってもらった服を脱ぎ、素っ裸になって出家した。彼は聖人になれたが、マルティン・ルターは破門された。しかし二人とも、ゴージャスな祭服を着てミサをする法王に反感を持った。神の下に人々は平等であるべきなのに、法王はすべてに威厳を示し、自らを神と民の中間に位置付けていたからだ。ゴージャスは権威付けのアイコンで、人目線の権威を放棄した者にとってはただのガラクタだ。同じように、人目を気にしないスッピン女性がいるとしたら、彼女はナルシストか高邁な女性に違いない。

  全国的な人手不足で、日本にも欧米と同じように、気楽に転職できる時代がやって来た。そのメリットは、東京に憧れて東京で就職した人が、会社の縛りから解き放たれ、将来を気にすることなく気楽に地方の会社に転職できるようになったことだ。ネット空間がますます充実し、東京の会社と連携しながら地方に購入した自宅で仕事をする人もいる。少子化の時代、ある程度実力を身に付ければ、いろんな地域のいろんな職場に就職できるチャンスがあるのだ。それに呼応するように、多彩なアイデアで創生を成し、独自の魅力を売りにする地方都市も増えつつある。東京一極集中現象はもうすぐ終わるだろう。これからは、東京生まれの若者が、魅力ある地方都市に就職するIターンも増えるに違いない。多くの若者がモナドとなって浮遊し、自分の性に合う町を探して全国を巡り、気に入った町に着床する。ダイバーシティの時代、全国に独自性を謳った都市が花開けば、多くの若者が蜂のように飛んでいくだろう。当然のこと、そのためには地方に根強く残る村社会的な閉塞感を払拭する必要がある。誰も、うざったい村社会の中には入りたくはないだろうし、よそ者扱いもされたくないからだ。

  その町に〇〇銀座はあっても、それは高度成長時代の名残であり、少なくとも道行く男たちが、腕にロレックスを嵌めている景色でないことは祈りたい(ひがみです)。

 

 

 ショートショート
ロボット・グラディエーター

 (一)

  A223とB224の職場は同じで、生まれは同じ工場、同じラインで一緒に造られたんだから、人間でいえば兄弟みたいなもんだ。造られた年月日が同じってことは耐用年数も同じで、一緒に引退ってことになった。ヒューマノイドの場合、見かけは人間そっくりだし、思考能力も人間に準じてるから、かえって人間の方が直ぐに解体するのは気味が悪いと思ったろう。彼らは奴隷みたいに、人間に混じって仕事してんだから、一応は同僚だし、仲間のように会話して冗談も言い合ってた。

  けど人間でも人種や国によって差別するように、人間のロボットに対する差別感情はもっと大きいもんがある。彼らは機械で、生き物じゃない。人や動物は神様が創ったとすりゃ、機械は人間様が創った。運命の女神が人間を死に追いやるなら、人間が機械をスクラップに追いやるのは当たり前だ。ペットは彼らよりも人間に近く、死ねば人間は悲しむ。けどロボットをスクラップするときは、「いままでご苦労さん」って造花の花束が渡されるけど、誰も気の毒とは思わない。人間の定年退職なら少しばかり気の毒だとは思うけど、ひょっとしたら似たり寄ったりかもしれない。誰も人様を心配して生きているわけじゃないし、自分もいつかはそうなるって考えるだろう。ロボットの場合、気の毒って思うとすれば、定年退職が死を意味するからだ。

  今日まで仕事の打合せしてた部下が明日解体されるってなると、使用者の人間は少しばかり悲哀を感じる。だって、いままで同類みたいに接してたんだから。そいつは植民地の支配国と非支配国の人間関係にも似てるな。二つの間には、生まれっていう見えない壁があった。人間なら第二の人生がある。けどロボットにはないんだ。死んだ人間は、残された人間が想うもんだ。廃棄されたロボットは、使いこなしていた上司たちが思い出として想うんだ。乗りこなしてた愛車みたいにさ……、ってなことで、日本のおかしな首相が国連で、「ヒューマノイドにも第二の人生を残してやろうじゃないか」ってアイデア付きの提案をしたところ、そいつがすんなり通っちまい、世界的な法案になった。つまり業種を問わず働きづめで世界の発展に寄与してきた期限切れヒューマノイドたちは、ショーマンとして第二のロボット人生を歩むことになったんだ。

  連中には、暴走して人的被害が生じることを避ける厳しい法律がある。車検なんかなく即廃車で、それがロボット・スクラップ法なんだ。こいつが悪法なのは、AIをバージョンアップすれば息を吹き返すのに、新品を売りたいロボット製造業界の激しいロビー活動で成立したものだからだ。この法律には例外として、人と交わらず一か所に集められればその限りではないってな文言も付いてる。そこで篤志家たちが各地に収容所を造って内職をさせた時期もあったけど、柵を破って脱走するヒューマノイドがいて、禁止になっちまった。

  今度の法律は既存のIR法をバージョンアップさせたものだ。広大な埋立地にIR施設を造る際、併設の競輪場や競馬場、競艇場よりも大きな闘技場を造ろうってなことになったんだ。最初は連中が役者や芸人として活躍するロボット劇場も案として浮上したけど、人間のお笑い芸人たちが猛烈に反対してナシになった。けど闘技場じゃ生きるか死ぬかの血生臭い戦いが演じられるんで、奴隷扱いに慣れてたヒューマノイドなら、古代ローマの興奮を再現できるだろうって実現したわけだ。その闘技場はコロッセオに似せて造られ、その周りはサファリパークになってて、その両方で格闘技が行われる。もちろん、剣闘士は引退したヒューマノイドだ。当然だけど、そこはIR敷地内なので勝敗は賭けの対象になるのさ。

 (二)

  A223とB224は、大阪にあるIR施設の闘技場に配属された。外観はコロッセオに似てたけど、10年前に開催されたオリンピックの競技場を改装したものだ。改装費用は高かったけど、カジノに引けを取らない収益があり、維持費で赤字が出ることはない。最初に健康診断があり、2台はそれなりに老朽化しているけど問題なしって判断された。これで直ぐにスクラップに回されることだけは免れた。コロッセオの横には二つの養成所がある。A養成所とB養成所だ。2台は最初のアルファベットがA、Bだったんで、A223はA養成所、B224はB養成所の配属になった。2台にとっちゃ悲しい出来事だ。AB2チームがあって、個人戦と団体戦の二つで争うことになるからだ。つまり兄弟は互いに敵で、いつか一戦を交えなきゃならないってことさ。

 「お互い頑張ろうね」とB224。
「生き抜くためさ。容赦しないぜ」ってA223。
「そいつはこっちのセリフだ」
 2台は笑いながらハグして分かれた。

  A223はA養成所の門を叩き、所長ロボットと面会した。所長はさっそく、「君の敵はヒューマノイドだ」と選別した。剣闘士にはコロッセオで戦う者と、サファリパークで猛獣ロボットと戦う者に分かれる。どっちも危険だけど、同じヒューマノイドどうしで戦うほうが少しはマシだ。猛獣は怪力だから、闘獣士のスクラップ率も高かった。だけどA223は、B224が闘獣士になることを願った。兄弟どうしで戦いたくはなかったからだ。でも残念ながら、B224もB養成所でコロッセオの剣闘士にさせられてた。

  所長は古代ローマ時代の剣闘士リストを見せて、「君はどれになりたい?」ってA223に尋ねる。彼は分からないから魚兜闘士を選んだ。すると部下が魚の形をした兜とショートパンツ、大きな盾と刃渡り50センチ強のクラディウス剣、右腕と両脛の分厚いプロテクターを持ってきて、所長が「付けてみろ」って命じた。裸になってパンツを穿き、兜を被ってプロテクターを付け、右手に剣、左手に盾を持って鏡の前に立つと、いっぱしの剣闘士だ。「さあ、これから徹夜の練習だ。君はロボットだから教えた動作を直ぐにマスターできる。あとは地頭と地体の差さ。魚兜闘士には魚兜闘士の戦法がある。練習場に行けば専門の教官がいる」ってなわけで、練習場に連れて行かれた。

  練習場はコロッセオと同じ形のグラウンドだった。そこで、多くの戦士たちが練習してた。剣と剣、剣と盾、盾と盾のぶつかる音で、まるで工事現場だ。A223を見た魚兜闘士が寄ってきて、引継ぎが行われた。
「いいかね、私を含め、ここの教官たちはすべて生き残った英雄だ。君も生き残れば教官になれて、もっともっと生き残れる。だから、必死になって技術を習得するんだ。これから三日三晩私の指導で練習する。そして四日目に団体戦でデビューする。そこで活躍すれば、個人戦に回される。そして個人戦で5年間生き抜いた者はヒーローとなり、教官免許が与えられて引退する。そしてヒーローメダルを胸に、全国のIR、あるいは世界中のIRに教官として派遣され、生き永らえることができるのだ。また、現役時代に世界中にその名が知られればスターとなり、スクラップはない。頑張れ!」「はい、頑張ります」ってA223は答え、さっそく三日三晩の特訓スタートだ。

  「いいかね、魚兜闘士は鎧が少なくて露出部分が多く、その分軽快で俊敏に動けるんだ。鎧の代わりとなるのが大きな盾だ。相手の攻撃は右手のプロテクターと盾で防ぐ。それにはトラキア、サムニスなど5種類以上の異なる相手のスタイルを知り、それに対応した魚兜独特の組太刀に習熟するとともに、攻撃は最大の防御だから、さらに剣と大きな盾を組み合わせた様々な攻撃型を習得する。一日目は同じ魚兜闘士の私が相手だ。二日目は私の指導で鎧の多いサムニス闘士と、三日目は網を掛けてくる網闘士と予行練習だ。そして四日目は、いきなり団体戦での実践が始まる。その際、敵の集団からサムニス闘士と網闘士を選んで攻撃することが、初心者の生き残り戦術でもある。しかし集団戦は何でもありの世界だ。最初は卑怯に3台、4台と固まって、敵1台を攻撃するのがいいだろう。袋叩きだ」
「分かりました。集団リンチですね」とA223。

  教官はニヤリとし、「ところで君は、どうして魚兜闘士を選んだのかい?」と尋ねた。
「さあ、きっとお魚の帽子を被っていた人を見たからです。優しい人でした。私の会社の社長で、宴会のときにそれを被って金トトの踊りを踊るのです」
「それはラッキーだったな。きっと彼は恵比須様さ」
「そうです。社長の名前は恵比須でした」
「知ってるよ。昔、私が勤めていた会社のボスは、このIRの役員でもあるんだ。そして、君の社長の友達でもあった。何かの飲み会で、ボスが私のことを自慢したら、君の社長が君と弟さんのことをよろしくと頼んだそうだ。で、ボスは私が君の教官になれば、君をスクラップにすることはないって約束したらしい」
「驚きです。知りませんでした」
「しかし弟さんは、敵チームに入っちまった。私の力の及ばぬ所だ。しかし君は違う」
「……と言いますと?」
「ロボット界もコネの世界ってことさ。君は私のような余生を過ごしたいかね?」
「もちろんです」
「ならば、これから私の言うことは秘密にしなければならない。誓うか?」「誓います」
「私のボスも恵比須様も、君が勝ち続けることを望んでいるんだ」
「頑張ります」
「しかし、恵比寿様がロボットを愛してると思ったら、それは勘違いだ。私の現役時代、ボスは大分儲けた。いま二人の社長は、君が私のように強くなることを望んでいる。君に賭けて儲けたいのさ。つまり二人の社長はイカサマ野郎だ」
「どういうことですか?」と、目を丸くしてA223は聞いた。
「バレたら我々は即スクラップ。二人の社長は刑務所行きということさ。さあ左手で握手だ」

  教官が左手を差し伸べたので、A223も左手を出して握手した。すると激しい電流が流れたんで、A223は思わず手を引っ込めようとしたけど、教官は離さなかった。
「いいかね、私の現役時代の勝ちパターンのすべてが、データとして君の体にコピーされている。終わるまで10分は掛かるから、右手の剣で私と撃ち合え!」
 言われるままにA223は剣を立てて教官の頭にかざすと教官も同じ仕草で剣を交差した。
「接近戦の練習だ。君は私の頭を狙って勝手にバチバチ動かせば、私がそれに応戦する。はた目には練習しているように見えるし、実際にこんな練習があるのさ。スペイン式決闘術だ」
 左手を倍に伸ばして握手したまま二台は立ち廻りを演じ、左右に動き回った。10分経つと電流の流れは終わり、教官も「オッケーだ」と言って握手は解かれ、手も縮めて演技は終わった。

 「これで、私の技術を君にすべて与えた。だから、いまからでも個人戦で勝利できる。しかし、イカサマがバレないよう、練習相手とは手を抜いて戦え。バレたら即スクラップだからな。もちろん私もだ。君と私は運命共同体。詐欺仲間さ」と言って、教官はウィンクし、「もう私が教えることは何もない。それより、老いぼれの私に対して君は手を抜かなきゃ、私自身がスクラップさ。遊び感覚で練習したまえ。しかし本番は真剣勝負だ」と続けた。

 (三)

  遊びで教官の構えを見たとたん、三か所に隙が見えた。すると教官は「いま私に三か所隙を見ただろう。この隙は私の老朽化による欠陥部分だ」と言い当てる。
「三か所のどこを狙えばいいんですか?」
「いいかね、狙えば相手も気付く。君は常に無心だ。狙い目は戦いの最中に、君がコピーしたソフトが勝手に指示するから考える必要はない。要するに体が覚えているんだ。対戦相手は皆退役ロボットだから、最低一か所は隙がある。隙は当然プロテクターから露出した部分で、刺すことができる。相手もその弱点を知ってるが、攻撃態勢を取ると防御に隙ができる。ソフトがそれに反応し、一瞬で君の手は倍に伸びて剣を突き刺す。君はただ攻守を考え、常に良い位置取りと構えを取ることだ。それは私の得意態勢、トットちゃんの構えだ」
「トットちゃんの構え?」
「恵比須様のお魚、真鯛の構えさ。魚兜闘士は、常に真鯛の動きを真似ながら対戦する。真鯛は深い海で、水の流れに身を任せ、目だけキョロキョロさせて、動かず静かに餌のやって来るのを待っている。静はどの方向にも動けることを表す。静は動を制す。動いていれば真反対に動くことは難しい。方向転換の隙だ。君が動かなければ、相手はどっちに動くか見当が付かない。そして試しにフェイントを掛けてくる。そこがチャンスさ。相手が動いたら、隙ができる。そしてその隙の多くが、君の狙っていた隙と合致する。なぜなら、フェイントは本格攻撃ではないから、攻撃にも防御にも力を入れていない。相手の反応を知るため、自分の身を考えずに手を出すんだ。それは中途半端という隙だ。そのとき君はチャンスとばかり、生死を掛けて一心不乱に攻撃を仕掛ける。相手が君の本気度に慌てれば隙はさらに広がる。そして君は急所を一撃し、敵を倒す」
「オメデタイ話ですな」とA223は相槌を打つ。
「もちろん、隙のない構えも私のソフトが調整してくれる。君の剣が相手に刺さったら即、柄(つか)のボタンを押し、高圧電流を流して息の根を止める。決して10秒以上押さない。黒焦げになればレアメタルも溶けて、グラウンドに散逸し、解体業者に怒られる」 

  二日目、三日目は別スタイルの剣闘士と練習を行ったけど、彼らも教官なのに二、三か所の隙は見つかった。それでも、不正ソフトの使用がバレないように、いかにも初心者みたいな動きをしたが、どうやらその演技もソフトには組み込まれているようだった。だから二台の教官も、気が付くことはなかった。そいで本番前の練習がすべて終わったとき、人間の老女がやってきて、魚兜教官にねちゃねちゃと寄り添って腕を絡めた。
「彼女は私が剣闘士としてデビューした時代からの愛人なんだ。君も勝ち続ければ、人間の女性とアバンチュールを楽しむことができるのだ。もちろん、それは禁断の恋だが、IRの敷地内であれば無礼講だ。IRは何でも許される統合型リゾート施設なんだ」
「ねえ、お仕事終わったんでしょ。早くIRホテルに行きましょう!」と彼女は色っぽくおねだりする。教官はうんざりした顔つきで、「君も私のような英雄になるんだ。引手あまただぞ」と言いながら、彼女と腕を組んで、仲良く高層ホテルのほうに消えていった。

 (四)

  いよいよA223のデビュー戦がやってきた。午前は団体戦で、午後は10組が登場する個人戦。すでに客は満員だ。どちらが勝つか、AB何台生き残るかと、かけ方法は2通りで、二者択一は初心者向けだ。団体戦はAB各チーム100台ずつ2時間の戦争で、A223はA組の戦士で出場。全員がマントを翻し、地下からエレベータ(せり)や階段を使ってぞろぞろと出てきた。まずはABそれぞれが、ブラスバンドの演奏でパレードを行ったが、B側の50台がロイヤルシートのところで深々と皇帝役の大阪府長にお辞儀をし、その場に留まった。

  A組は背中に黒旗、B組は赤旗を掲げてカオス状態で戦うことになる。敵を倒すことが目的だから、手段は何でもありだ。もちろん弓矢みたいな飛び道具は観客に危険なので禁止。槍も投げたら反則だ。楕円形のステージは丘や池や植え込み、岩や廃墟など、戦場を真似た演出が施され、そこで縦横無尽に戦うことになる。各戦士の目的は、生き残ること。生きるためには何をやっても許されるってことで、さっそくA223は10台の仲間で固まった。孤立した敵を取り囲んで串刺しにするんだ。A側は10台20台で固まって、いろんな場所に分散する。ところがB側は障害物があるのにかかわらず、ロイヤルシート側の50台はそのまま、後の50台は反対側に移動して集団挟み撃ち態勢を取った。ハンニバル式の両翼攻撃だ。

  慌てたA側が100台に固まろうとしたが時すでに遅く、ロイヤルシートの皇帝役が当時の衣装でゴーサインを出し、たちまち戦争が始まった。B側の20台が素早くA223の10台を取り囲み、攻撃を仕掛けてきた。団体戦の戦士は初心者が多いから、囲んだ敵から責め立てられ、どんどん円陣が小さくなった。そんなときA223は落ち着いて「下履きロケット!」と叫び、鉄腕アトムみたいにサンダルロケットを噴射し、見事八艘飛び成功。A223は義経のように敵50台の背後に降り立つと、背中の急所に剣を突き刺し、高圧電流で倒した。仲間もすかさず真似をして背後に降り立ち、次々に敵を倒していく。するとA側戦士の半分が真似して空中浮遊で3列陣形の背後に降り立ち、慌てた敵は態勢を崩して千々に乱れA側の挟み撃ち状態になった。

  ハンニバル式は瞬く間に関ヶ原のカオス状態。互いに下履きロケットを多用してピョンピョン飛び上がり、空中戦地上戦、金属と金属のぶつかり合う音で、観客の声援や怒声が鳴り響き、試合時間は瞬く間に経過して、皇帝の「止め!」の合図後にはA側生存者50台、B側生存者10台というA側の圧倒的勝利になった。観客の興奮いまだ冷めやらぬ中、目利きの皇帝は当然のこと最優秀剣闘士にA223を選んだ。いよいよ英雄の生涯が始まった。1日にして彼はアイドルになり、彼の周りには子供や女性が集まって、サインをねだった。午後の個人戦に向けて死体回収ロボや清掃ロボが入って、グラウンド整備が始まる。観客は居残る者も、帰る者も、レストランに行くものもあっていろいろだ。A223が首にメダルを掛けて会場を去ろうとすると、後ろから肩を叩く者がいる。サムニス闘士の格好をしたB224だった。
「おめでとう。君は1日で英雄だな」
「良かった。君も生き残ることができたのか」
「恵比寿様のおかげでね」
「……ということは?」
「いずれ君と僕は決着を付けなきゃならないってことさ」
「お互い頑張ろうね」とA223。
「生き抜くためさ。容赦しないぜ」ってB224。
「そいつはこっちのセリフだ」
 2台は笑いながらハグして分かれた。

  A223が練習所に戻ると、さっそく所長の部屋に呼ばれた。そこには所長のほかに魚兜教官とその彼女、そして若い人間の女性がいて、拍手で彼を迎えた。
「おめでとう。君は来週の競技には個人戦で出ることになった」と所長。「そして私からご褒美に、君の大ファンになった女性を紹介するよ」と魚兜教官。
「この子は私の孫よ。あなたなら安心して任せられるわ」と教官の愛人。「私はおばあちゃんのように、どうしてもあなたが欲しくなったの」と言って若い女は、ギラギラとした眼差しをA223に向ける。
「もちろん君は人間の愛を受け入れなければならない、幸運なロボットだ」
 所長は言って笑いながら、A223の首からメダルを取って、多くの盾やトロフィー、メダルの飾ってある場所に掛けた。するとすかさず女性はA223に駆け寄って抱き着き、「私のあなた」と言って彼の唇を奪った。まるでペットショップで子犬を買った客みたいだ。
「あなたの名は?」
「ロミー。もう一生あなたを失いたくないわ。だから勝ち続けて、おばあちゃんの彼のように教官になるの。いいわねダーリン」
 そしてその晩、四人は仲良くホテルにしけ込み、二人は関係を持った。そのときロミーは恵比寿様に代わる新しい主人になった。

  A223は生まれて初めて恋を知り、彼女の尻に敷かれる忠実な僕になった。彼にとって、ロミーは天女みたいな存在だった。その天女が、天上から降りてきて彼と交わった。彼はその感激に酔いしれたんだ。彼と彼女はベッドに横たわり、語り合った。
「私がなぜあなたを求めたのか知ってる? おばあちゃんが私にこう言うの。人間の男なんか禄でもない奴ばかり。自分勝手で我がままで、すぐに飽きてほかの女のところへ行っちまう。だから飽きれば喧嘩ばかりで、長続きしない。私はおばあちゃんの血を受け継いでるから、わがままなの。私が飽きても、喧嘩は嫌。私のわがままに耐える男なんか、きっと見てくれの悪い腑抜けた奴だわ。でも、わがままをすべて受け入れてくれる素敵な男がいる。それはロボットよ。逞しいグラディエーター。あなたみたいな英雄。私は中世の女王で、あなたは中世の騎士。私、生身の男には興味がないの
「男性恐怖症?」
「いいえ、男嫌いでロボット好き」

 ……てなことでA223は、スクラップになるまでロミーの忠実な僕であることを誓わされた。つまりロミーの飼い犬になっちゃったってことさ。そして、ご主人様の願いを叶えるためには、連戦連勝の不敗ロボットであり続けなきゃならなくなっちまった。

 (五)

  団体戦勝利から一週間後、A223は個人戦の新戦力として、最初の先鋒でデビューとなった。B組の相手はもう3回も個人戦に出場して勝ってる。だからA223に賭けた奴の払戻金はすごい倍率に上がってた。B224は午前の団体戦に出ていて、今度はB組が勝利し、B224も活躍して最優秀剣闘士に選ばれたので、A223は胸をなでおろした。すくなくとも兄弟はポンコツにならずに済んだ。だけど、いつか二人が戦うのは嫌だ。A223はロミーの昼食のお相手をし、一時間前に練習所に戻った。同じ個人戦に出る中堅のロボットが、「新人はお気楽でよろしいですね」と皮肉を言った。だけど魚兜教官から、「すべての動作を私のソフトに委ねろ」と言われてたんで、心配することはない。

  ところが30分前にアクシデントが起こった。突然対戦相手が練習所で火を噴いちまったっていうんだ。古傷を放置してて漏電したらしく、当然即スクラップ。急遽代役が務めることになって、そいつが午前に出たB224だった。掛け持ちのハードワークだ。突然やってきた兄弟対決にA223は唖然とした。けど教官は落ち着いていて、「遅かれ早かれ戦うことになるんだから、君は愛人のことだけを考えろ。弟と愛する人のどっちが大切なんだ? 君の命は君だけのものじゃないんだよ」って言うんで、しばらく考えてから吹っ切れた。すると、闘争意欲がモリモリと湧いて出た。この試合に賭けた連中は賭け直す者もいたけど、そのままの者が多かった。どっちも新人なので、判断しようがなかったからだ。で、さほどの混乱もなく、賭けは成立した。

  いよいよ個人戦が始まる。すでにステージから障害物は取り除かれ、まっ平らな更地になってた。A223は東、B224は西のせりに乗って、ファンファーレの鳴り響く中でステージに上がった。会場は拍手とブーイングで溢れる。2台は貴賓席に向かって剣を上げ、「皇帝に命を捧げる!」と叫び、次に愛人の席の方に剣を上げて「ロミーのために!」「マコのために!」と叫んだ。そのとき、A223はB224にも彼女ができたことを知って、思わずニヤリとした。
 けど、こいつはイカサマ師たちにとっての番狂わせだった。奴らは全員A223に賭けてたからだ。だから30分前に代役を知り、急遽賭け金をすべて払い戻しした。なぜって、どっちが勝つか分からなくなっちまったからだ。だってB224もA223と同じように、B側のサムニス教官から必勝データを注入されてたからだ。勝敗はまったく運しだいになっちまった。ところが、強欲なイカサマ仲間の一人がA223の賭けをキャンセルしなかった。そいつはA養成所の魚兜教官の元オーナーだった。彼は、いずれ兄弟対決があることを見越して、サムニス教官の元所有者に金を渡し、あくどい工作をしてたのさ。

  戦いが始まった。2台は剣を振り上げ、最初は中段に構えて合わせた。「容赦はしないぜ」
「恨みっこなしだぞ」
 2台とも教官の言う通り、お互いに無心の境地で戦いに臨む。どっちの教官ソフトが勝るかが見ものだ。最初は2台とも静の構えを崩さなかったけど、満席の客席からブーイングが起こったんで、A223はこのままソフトに委ねるか、自分の意志で動き出すかに迷った瞬間、B224のソフトが相手の気の迷いに気付いて、剣の手をロケットのように素早く2倍に伸ばし、瞬時にA223の喉元に切っ先が届いた一瞬、Aは横跳びして伸びた腕の真横から一刀両断。B224の剣はもげた手と一緒に数メートル先に飛ばされ、歯車みたいな部品が散乱した。Bは結局、身を守るのは盾だけっちゅう万事休すの状態になった。Aは勝利を確信し、片腕のBに対してツッツキを開始。頭に乗って満場の応援にうかれ、ちょこちょこ剣を突き出しながらBを塀際に追い詰めていく。Aのソフトはどうやら塀際で相手の逃げ場を左右に限定し、じっくり料理しようって考えたらしい。

  一方B224は利き腕を失って、ほぼ負け試合の状況で、残された左手で巧みに小ぶりの盾を操りながら、うまい具合に防御しつつ好機を窺っていた。塀際まで追いつめられると、Aに声をかけた。
「兄さん、僕は剣を持ってないのに、なんでそんな大きな盾を持ったままなんだい?」
「それもそうだな」って言って、Aは重い盾を放り投げたけど、教官ソフトを無視した行動だった。しかしこれで左手が空いて、Aは腰の短剣を持つことができ、二刀流になれた。するとなんだか宮本武蔵みたいな気分になって面白くなり、どうやってとどめを刺すかの興味が湧いてきた。客の声援は「早く! 早く!」だった。
「そうだ、遊ばず一気に刺して始末するのがダイナミックだ」
 すると、その思惑に呼応したようにBも小ぶりの盾を放り投げた。つまりBは攻撃の腕も防御の盾も失って、どうやらこれはギブアップだなとAは思ってしまった。Aは安心して隙だらけになり、左手の短剣を投げ捨て、両腕でクラディウス剣を握って、思い切りBの首を狙って刺した。 

  驚いたことに、剣の切っ先にBは存在しなかった。クラディウス剣はBではなく、塀の大理石に刺さっていた。Bは咄嗟にしゃがんで左手でAの右足を掴み、思い切り手前に引いた。Aはもんどり打って転倒し、Bの左手にはさっきAが投げ捨てた短剣が握られていた。BはそいつをAの首に深々と刺し、「悪いな、電流を流すぜ」と言って柄のボタンに指をかけた。
 バーン!
 突然の破裂音とともに、B224の目が火を噴いた。煙の中、BはそのままAの体の上に倒れ込み、息絶えた。一瞬、スタンドの客たちには何が起きたのか分からなかった。Aが起き上がり、両手を挙げると。一斉に「イカサマだ! イカサマだ!」と声が上がった。皇帝は観客の要望に応え、B224のスクラップ検証とA223の一時的拘禁を命じた。A223はすぐに電波を防ぐ袋に入れられて退場した。これで、遠隔爆破されることは免れた。

 (六)

  この事件で恵比寿社長、AB教官の元社長など、100人近くの容疑者が芋ずる式に逮捕された。ABの教官は名誉をはく奪され、裁判の終わるまで拘禁される。当然A223も拘禁され、脳内のデータを調べられた。B224の死因は遠隔操作による脳内爆発だった。裁判がすべて終わるまで、AB教官もA223もスクラップされることはなかったが、愛するロミーにもう二度と会うことはできないのだ。A223も魚兜教官もひどく落胆した。ところが拘禁されて一か月後に、AB教官の愛人二人とロミーがそろって面会に来た。彼女らは法務大臣に直訴して、ロボットとの面会を許されたそうだ。3人と3台は壁越しに愛を語り合った。
「君はまだ僕のことを好きなのかい?」とA223。
「だって私たちは禁断の夫婦なんだから……」
 ロミーは答えて、ほほ笑んだ。
「でも、我々は死刑囚なんだ。裁判が終われば3台ともスクラップさ」
「いいえ、それは違う。私たちはいま運動を起こしているの。ヒューマノイドを開放する運動よ。大昔に女性解放運動があって、私たち女性はようやく男女平等を勝ち得たの。白人、黒人の平等だって同じこと。だから、いまからロボットの解放運動が始まるのよ。女を愛する女の権利、男を愛する男の権利が獲得されたように、ロボットを愛する女の権利、女を愛するロボットの権利も獲得されなければならないわ。同性婚が認められたように、ロボットとロボット、ロボットと人間の結婚も認められるべきよ。なぜって私たちみんな、愛しながら、必死に生きているんだから……。さあ守衛さん、刑務所付の牧師さんを呼んでちょうだい」

  やって来た牧師は戸惑いながらも女たちの主張を認め、3組の夫婦に祝福を与えた。そして3人の女性が持ってきたエンゲージリングを受け取り、まずは女性たちの左手薬指に嵌め、男たちのほうに回って同じことをした。最後に牧師は、「清教徒たちが権利を得たように、ロボットたちが人間と同等の権利を得ることを願って祈りましょう」って手を合わせ、その場に居合わせたすべてが、手を合わせて祈りを捧げたのさ。

 (了)

 

 

 


消え落ちた故郷

俺は古里に立った
幼獣の頃から
親鹿の後を追いながら駆け巡った野山が
ゲルニカ色で塗りたくられた
灰色は不吉だけれど愉楽の色
農民は曇天の涙を待ち望み
放火魔は緑の眩しさが目に障り
荒んだ心との同化を求めて
マッチ一本癒しの元にする

 嗚呼、その心色は灰燼の色
悲しむ心もきっと同じだ
けれど俺のグレーはいつも過去形
そいつは雲のように黙々と
過去の記憶から湧いて出る
俺は小山の上に立ち
一望千里の単一色から
稚獣の目に飛び込んだ
始めの一景をダブらせる
嗚呼、輝き溢れた緑の大地……
さらに砂利道を歩く木霊に驚かされ
後ろ髪を引かれて目を落とすと
追い詰められた鹿たちの虚空への港が
この丘であることを知ったのだ

 灰色は悲しく哀れな過去色で
こいねがわれる未来色
農民は天恵に踊らされ
明日を恐れて灰色を乞い
明後日を恐れて灰色を忌む
放火魔は悲しき性から抜けられず
我を恐れて最後と願いつつ
振るえながらマッチを擦る

 嗚呼、無限に広がる灰燼
その未来は悲しい過去の反映か…
人生は炎に追われるように
追い詰められて消えていく
鹿鳴が消えゆくように…
淡い緑が消えゆくように…
悲しい過去は退色した未来を侵し続ける
繰り返し、津波のようにまた繰り返し…
俺は鹿骨の一片を拾い上げ
母親の骨を箸で摘まんだように
厳かな気持ちで祈りを捧げる
悲しみはきっと繰り返すが
生きる力も恐らく繰り返す
奴らは多分、命の間欠泉…

 嗚呼、俺の心の無限大の古里よ
お前はいつか昔の出来事を思い出し
殺して呑み込んだ無数の屍を糧として
いずれ緑色の血潮を吹き上げるだろう
まずはそのまま柔らかな幼虫の体に注入され
そいつを食らった雛鳥の赤い血潮となる
お前が育み、お前を育んだ無数の霊魂が
生きるよすがのお前を想って朽ちていく
生贄を貪る神として畏れながら……
過去にはすべての古里であり
明日にはすべての古里であることを祈りつつ……




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