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エッセイ

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日々を綴っています。
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#大学生

記憶に溶けていきそうな夜

記憶に溶けていきそうな夜

玄関を開けると、母がランタンを持って佇んでいた。

初夏の匂いがする。
この匂い、東京では決して嗅ぎえない。
だから、正確には初夏の地元の匂い。

母のそばに駆け寄り、歩く。
時々たわいもない言葉を交わす。黙ることもある。

空。やっぱり地元の空は一味違う。
青と紫を溶かしたような色。
西の空にはまだ明るさが尾を引いている。東の地平線近くは闇が迫っている。
巨大な雲が、その隙間から模様を描いて

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書店を歩く

書店を歩く

昔はキラキラ眩しい表紙が苦手で、雑誌を一切買わなかった。
ティーン向けコーナーに立ち寄ろうともしなかった。
そういえば、幼い頃はズボンばかり履いていた。スカートなんてもってのほか、髪を伸ばそうとも思わなかったし、メイクに興味も持たなかった。
私には弟がいるのだが、ブームはいつも弟が持ってきた。
ポケモンも、コロコロコミックも、A列車で行こうも、弟が熱中しているのに便乗して私もハマった。
プリキュア

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気づいたら夢が一個叶ってた

気づいたら夢が一個叶ってた

80の祖母と暮らしていることもあって迂闊に外を出歩けない。
今は半引きこもり状態なのだけど、よく考えたらこんなに暇な時間があるのは小学生以来だということに気づいた。

吹奏楽部だった中学時代は言わずもがな忙しかった。放課後は常に楽器を吹いていただけでなく、机やピアノをいちいち運んだり、打楽器を三階から一階まで運んだり、トラックを呼んだり指導の先生の接待をしたりなんだか働きまくっていたような気がする

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雑記2020/02/22

紛い物が多い時代に生きている。
ポストモダンの建造物に囲まれて、複製を愛好し、手垢のついた流行を追いかけては、奇跡の一枚をネットに投稿する。

今日行ったのはスーパー銭湯。
露天風呂、自然な穴蔵に見えるけど、
実は石の配置を計算してそこから削り取ってできてるんだなあと感づいた。
だって座るのに心地よい石が、こんなにちょうどいいところにある。

それっていいことだ。切り取ったり、コラージュしたり、一

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雑記2020/02/20

雑記2020/02/20

とあるショッピングモール併設の映画館で映画を見て、それだけで帰るつもりだった。でも、映画館を出ると楽しげに歩く人々が目に飛び込んでくる。清潔に磨き上げられた床と吹き抜けの天井。パリッと爽やかなお洋服。洒落たカフェ。
本当にもう帰っちゃっていいの?まだ時間はあるのに?せっかくきたんだからもう少しここにいない?ちょっと見るだけでいいから。
といったような声が私の心の中にこだまし、ほんの少し、見てまわる

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生きるというのはあり得たかもしれない今日を捨てていく作業だ

生きるというのはあり得たかもしれない今日を捨てていく作業だ

この歳になると現実じゃない、叶わなかったいくつもの現在をあれこれ想像できてしまう。
そして幾度か通り過ぎた過去の分岐点に遡っては、あの時こうしておけば良かった、ああしておけばもっと違ったって悔やんでほうっとため息をついたりする。

(もしあの時、あの子に怒ったりしなければ、今もずっと親友でいられたのかも。
もしあの時、あの人に勇気を出して告白していれば、ずるずる引きずってつらい思いをすることはなか

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ネット上の恋は所詮脳が創り出したまやかし

高校生の頃、友人たちの間ではツイッターが流行っていた。でも私はアカウントを持っていなかった。
朝学校に行くと、私が知らない話題で盛り上がる友人たち。それはツイッター上で交わし、前日の夜に共有していた話題だった。
さて、多感な年頃の私はそれが仲間外れにされているようでいい心地はしなかった。知らない話題、だけど、それ何?って声をかけたらせっかくの盛り上がりに水を差してしまいそうで怖かった。だから、そう

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食ってないもの

食ってないもの

「食わず嫌い」という言葉がある。
私は人生においてなるべく食わず嫌いは無くそうと心がけている。食ってからでないと分からない事があるからだ。百聞は一見にしかず。論より証拠。せっかく一回きりの人生なのだから何事も経験しておくに越したことはない。

例外はある。例えばホストには行きたくない。なぜならお酒もあの髪型も知らない人とのおしゃべりも苦手だからである。それにもし行って楽しくてハマってしまったところ

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コンプレックスからの脱却

コンプレックスからの脱却

大学生(または同級生間)の、あのうるさくて軽いノリが大の苦手で、学歴や趣味が同じ仲間が集まっている場所に行ってもなお、そういうノリにノレる人たちが多くいて、私はそんなチャラチャラした輪の中でただ苦笑いするしかなくて、そうすると周りの人たちが腫れ物を触るように私を扱い始める、あの空気が嫌で嫌で仕方ない。

私は一時期私の真面目さを心底嫌った。軽い冗談を言ったり、友達の冗談を大きな声で笑い飛ばすという

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都合のいい女

都合のいい女

新しい靴を買った次の日、雨が降ると恋が叶う。

小学生の頃に知ったジンクスだ。

あの頃、魔法的で不思議でちょっとドキドキするおまじないやジンクスにすごく興味があった。
親には知られたくなかったから、おやつ代のお小遣いを貯めて、こっそり本屋でまじない&ジンクスの本を買い、机の奥の方に閉まって保存していた。そして家族が寝静まった夜、コソコソと本を取り出してページをめくったのだった。
まるで真夜中のカ

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言霊と新しき世界、自ら切り拓く

言霊と新しき世界、自ら切り拓く

昨日締め切りの仕事を提出し、迎えた徹夜明けの朝。朝といっても目が覚めると昼の12時半。すぐにピンときてスマホを開ける。

新元号「令和」

和風の美しい響き。予想外の爽やかさに、心がほろほろほぐれていく。希望の兆し。解放の予感。

今年大学に合格した弟が、今日東京の寮に引っ越した。家族の新生活が始まる。私の大学も今日から新学期。久々の大学に出向く。桜がまちを所々で色付けしている。貼り出される連絡事

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新宿砂漠

新宿砂漠

新宿紀伊国屋ホール。開場は18時から。
それまで文章を書こう。でも、家だと誘惑に負けちゃうから、お昼のうちに出て外で書こう。交通費勿体無いから、直接新宿に行ってしまおう。新宿ならどこにでも喫茶店あるでしょ。

そう思い立った私、パソコンと数冊の本とノートの入ったリュックを背負って家を出る。

新宿まで徒歩込みで1時間くらい。
平日だというのに、電車は座れないくらいには混んでいる。
リュック、重い。

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青春という戦場を乗り切った

青春という戦場を乗り切った

父とお風呂に入れなくなったのは、小学校高学年の時。理由は父が嫌だったからではない。

膨らんできた胸が惨めでどうしようもなかったからだ。

子供のわたしから見た時、大人の体はとってもグロテスクだった。
だから大人は自分とは別の生き物に見えたし、自分が将来あの体になるなんて信じられなかった。

だけど、体の成長は容赦なくわたしを襲ってきた。そう、襲ってくるという感覚に近かった。わたしは自身の体の変化

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竹下通り〜表参道〜キャットストリートの洗礼

竹下通り〜表参道〜キャットストリートの洗礼

JR原宿駅の改札を抜けて、若干年齢層の低い人混みに揉まれながら竹下通りを歩く。大通りに出ると車線に沿って右に曲がり、表参道に出る。カップルや外国人やコスプレイヤーたちと一緒に信号を渡った後、都会的なウィンドウショッピングを楽しむ。キディランドの横を曲がってお洒落なキャットストリートを進む。そのまま渋谷駅を目指して歩く。

『東京という街を浴びるための散歩道→目当ての買い物をするための散歩道→ストレ

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