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新宿砂漠

新宿紀伊国屋ホール。開場は18時から。
それまで文章を書こう。でも、家だと誘惑に負けちゃうから、お昼のうちに出て外で書こう。交通費勿体無いから、直接新宿に行ってしまおう。新宿ならどこにでも喫茶店あるでしょ。

そう思い立った私、パソコンと数冊の本とノートの入ったリュックを背負って家を出る。

新宿まで徒歩込みで1時間くらい。
平日だというのに、電車は座れないくらいには混んでいる。
リュック、重い。本を取り出す気力が削がれたので、ポケットにあるスマホを取り出す。
wi-fiないのにSNSで勝手に再生される動画をぼーっと見てしまう。
乗り換え。無機質な駅。もう慣れてるから足は自然に動くけど、その間何を考えていたか思い出せない。
電車が来る。押し出された地下の生ぬるい空気を顔に浴びる。ちょっと不快。
先ほどの電車よりますます混んでいる。顔の位置に貼られた広告にしか目のやり場がない。

新宿に到着する。
人が多くてスマホを取り出すのが億劫なので、適当に歩いて喫茶店を探す。
良さげな店を見つけて入ると、中は窮屈で席同士が近い。しまった、電源のある店に入ればよかったと気づいたところで席に着いてしまったのでもう遅い。もういいや、とやけになり紅茶付き1000円もするケーキを頼んでしまう。

右隣におばちゃん2人、左隣に就活帰りの女性2人。体の不調自慢の話と結婚仕事話から飛び出す言葉に女の一生を横断している気分になる。
いけないいけない音楽聴こう、ウォークマンを取り出してイヤホンを耳に突っ込んで回避。

1時間後お腹が痛くなる。トイレに向かうも一つしかないため長居できない。
泣く泣く喫茶店を出て、トイレを探す。
そういえば新宿のジョナサンに電源があるとネットに書いてあったことを思い出す。そこなら二つ以上はトイレあるだろう。

人の波に揉まれてやっと見つけたジョナサンもほぼ満席。案内された席には電源がなかった。店員さんも忙しそうなので、席を変えてくださいなんて言えない…。
とりあえず腹がやばかったのでトイレに向かう。片方は赤。片方は青。なんとか滑り込みセーフ。ドアの向こうから人が並んでいる気配がする。もう片方の個室からは子供の声が聞こえ、開く気配がない。これは、私が出なきゃいけないパターンか?
スッキリしないまま出て席に戻る。
お腹が空いたので、何か安めのものを注文しようとするも、ジョナサンは高めのファミレスだということに気づく。やけになってピザを頼んでしまう。
周りは親子と甲高い声のギャル。パソコン作業なんてとても集中できない。
諦めてスマホを眺める。ツイッター、胸が痛くなる事件ばかり流れてきて落ち込む。なんでそんな社会派の人ばかりフォローしてるんだ私。でも時間は潰せるのでついつい見てしまう。
ピザくる。貪るように食べる。最後苦しくなっても頑張って残さず食べ切ってしまう。
再び腹が痛くなってきたのでトイレに駆け込むと、両方赤。5分、10分待っても開かない。
なんで!
店を出た方が早い気になり、席に戻って荷物をまとめ、会計を済ませる。

歩く。歩く。人混みの中。みんな笑ってる。誰かと一緒に。まるで爽やか。ファッションがオシャレだ。時々香水のいい匂いが鼻をかすめる。みんなどこに向かって歩いているのか。何の目的があるのか。この街、楽しいのか。
きっとみんなは楽しいんだろう、だからみんなには、この街が似合っている。私だけ、なぜか必死。

紀伊国屋が見えてくる。徐々にお腹の痛みが治まってきたので、トイレへの執着がなくなる。
ふと時計を見るともう17時。1階の本屋で立ち読みをして時間を潰すことにする。
リュック、重い。結局1000字くらいしか書けてない文章の入ったパソコン。肩痛い。仕方ないので足の間にリュックを降ろす。汚れる心配などもはや頭にない。疲れてる。
簡単そうな自己啓発本を手に取る。可愛らしいイラストと、どこかで聞いたことのあるような短文が並ぶ。読み終えるとちょうど1時間。やっとの思いでホールに向かう。「開場します」という、救いのアナウンス。

チケットに印字されてるアルファベット&番号と同じ席に腰を下ろす。自分の居場所にやっとあり着いた安堵感。
ここにいていいよ、と言ってくれているようなこの席が愛おしくて、ちょっと泣きそうになりながら、深く背を預けてみる。

そんな一日。

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