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ソーのnote好きな小説まとめ

41
とりあえず、分野にこだわらず、好きな物を集めた
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2022年6月の記事一覧

水鏡の向こう側

水鏡の向こう側



 豪雨が山間の温泉街を襲った翌日、私は大きな水溜まりの前で感嘆の声をあげた。

 剥げたオレンジ色の屋根の喫茶店は、前に大きな窪地があり、大雨が降ると、いつも直径が何メートルもの大きな水溜まりができる。

 空を見上げると綿あめのような高積雲。それは、水溜まりが作る水鏡に映り込み、店の屋根と仲良く並んで、退屈な街の景観を補ってくれる。水がそよ風に揺れ、微かに歪んだ雲と、その空とは異なる色彩は

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【ショートショート】ショートショート王様#毎週ショートショートnote

【ショートショート】ショートショート王様#毎週ショートショートnote

「勅令である」

 直方体のたらこ唇から、厳かに告げられる。

 白と青のツートンの正体を誰も知らない。かにを自称するそれは、小さなヒレをパタパタと動かす。

 日曜日、王様がショートショートのお題を出す。国民はみな一週間以内に上納品を提出するのだ。

 血眼になって走り回り、ネタを捕まえ、磨きをかける。

 ネタが見つからない国民は悲惨だ。浮浪者のように彷徨い「アラヤダあの子、まだ上納できないの

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視線の先|#夏ピリカ応募

視線の先|#夏ピリカ応募

 山形から東京の高校に転校した初日から、僕の視線の先は彼女にあった。

 一番前の席で彼女は、僕が黒板の前で行った自己紹介には目もくれず、折り畳み式の手鏡を持ち、真剣な顔で前髪を直していた。そのことが気になって、彼女の様子を観察してみる。休み時間になる度、彼女は不器用そうに手鏡を開く。自分の顔と向き合い、たまに前髪を直す。何度か鏡の中の彼女と目が合ったような気がする。鋭い目つきで少し怖い。隣の席の

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4年ぶりの通学路(後編)|#夏の香りに思いを馳せて

4年ぶりの通学路(後編)|#夏の香りに思いを馳せて

                    前編→
 気がついたら、教育実習も終わりに近づいていた。7月が目の前に来ている。教育実習が終わったら、確かすぐに期末テストになると聞いていた。『七夕飾りに、みんなのテストの結果が良いものでありますように…と、願いを書こうかな。』そう考えて、ある日帰り道途中で駅前の花屋に寄り笹を、文房具屋で折り紙を買って帰った。自転車の前かごで笹の葉がワサワサと揺れている。な

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星とハンス|#夏ピリカグランプリ

星とハンス|#夏ピリカグランプリ

ハンスはときどき、夜中に家を抜けて草原に行き、寝っ転がって星をながめるのが好きだった。

両親はハンスが幼い頃に亡くなっていた。祖父母に育てられたが、その祖父母も亡くなって数年経つ。だから、夜中に家を出て、草原で夜明かししても誰にも怒られない。「今日は冷えるな。」と、自分で自分の体のことを注意するくらいだ。

「今夜も星がきれいだ。」

昼間、大工の親方に「お前は何でそんなに不器用なんだ。」と叱ら

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わたしへ。

わたしへ。

「びじゅつかんへお出かけ
おじいちゃんや
おばあちゃんも
いっしょに
みんなでお出かけ
うれしいな

こわくてかなしい絵だった
たくさんの人がしんでいた
小さな赤ちゃんや、おかあさん

風ぐるまや
チョウチョの絵もあったけど
とてもかなしい絵だった

おかあさんが、
七十七年前のおきなわの絵だと言った
ほんとうにあったことなのだ

たくさんの人たちがしんでいて
ガイコツもあった

わたしとおなじ年

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へびくんは

へびくんは

へびは みんなから こわがられ

毒もないのに こわがられ

ある日 迷い込んだマンションの

三日は ほんとに こわかった

少しだけ 昼寝してただけなんだ

暑いから 冷やっこいところ 

みつけて

そしたら 人間にみつかって

逃げたんだ

その日は すみっこで寝たけど 

畑への帰り方が わからない

次の日 おじさんが 棒をもってきた

つつかれた

へびは なにがなんだか

わからな

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消えた物語

消えた物語

物語が、消えた。

昼過ぎから、書き上げて完成した物語が、消えた。

3000文字前後の、物語が、消えた。

綺麗さっぱり、物語が、消えた。

私は、少々おかしな物語の書き方を、しているのだ。
私は、少々おかしな方法で、物語を公開しているのだ。
私は、少々おかしな手順を踏んで、物語を保存しているのだ。

それが幸いし、物語が、消えてしまった。

私は、ワードで書いた物語を、メールで自分宛に送信し、

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あえてやる

あえてやる

あえて旅をし あえて本を読む

あえて挑戦し あえて全力を尽くす

あえて友を作り あえて恋をする

あえて努力し あえて勝利を目指す

あえて学び あえて働く

あえてふざけ あえて楽しむ

あえて結婚し あえて子育てする

意味とかいいから

あえてやってるのです

あえて生きてるのです

「詩」五行詩群 工場の月 十一~十五

「詩」五行詩群 工場の月 十一~十五

十一

廃墟になった工場の中で
月はスヤスヤと眠っている
雨はまだ降り続ける
森の中に住む小さな人たちが
縦笛の練習をしている

十二

海への憧憬と畏怖
漁船のデッキで蝋燭を
灯して見つけたい
小さな光の向こうにある
原初の温かな闇を

十三

海など近くにないのに
君の音がする
置き忘れた三輪車から
雨粒が滴っている
この涙も 海へと還るのだろう

十四

さよならという言葉は
夢の中で覚えた

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「詩」五行詩群 工場の月 六~十

「詩」五行詩群 工場の月 六~十



幾つもの観覧車を乗り継いでも
あなたには辿り着けない
最上部から道化師は飛び降りたが
私はいつまでも廻り続ける
それが究極の愛だと信じて



三角屋根の洋館から
零れるオルガンの音が好きでした
オルガンは燃えたのですね?
月が溶けだす場所では今でも
哀色の旋律が鳴っています



あなたのデジャブに触れると
回転木馬が軋む音がする
ここはどこですか?
メランコリーに染まる交差点に
ピエ

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「詩」五行詩群 工場の月 一~五

「詩」五行詩群 工場の月 一~五



工場は忙しなく稼働している
煙突からは黒煙が吐き出され
その上で月は 青白く輝いている
下駄箱に座った少年だけが
沈黙の中で その月を眺めている



幾重に遮光カーテンを引いても
記憶は無意識の中で輝き
死さえそれを消すことは出来ない
残された記憶は魂と呼ばれ
今日も詩人は それを拾い集める



教授はドルコストについて語り
私はアジャセについての思索に耽る
ふと眺めた窓の外
空中庭

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【ショートショート】消しゴム顔#毎週ショートショートnote

【ショートショート】消しゴム顔#毎週ショートショートnote

 いつからだろう。

 ぼくはいつも、クラスのみんなからさけられていた。

 すごくゆうきをだして、はなしかけたことがある。

 でも、みんなにげた。

 消しゴムのケースをそっとはずして、かくれていた顔をみつめる。

 「ねえ、ぼく、なにかわるいことしたのかな」

 すこしこまったような顔がこたえてくれる。

 (きみはおともだちとなかよくするのが、にがてなんだね。

 なかよくしたい?)

 

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