記事一覧
家族の再生をめぐるタイムループ・ミステリー
<ブックレビュー>
『ロング・プレイス、ロング・タイム』
ジリアン・マカリスター著 梅津かおり訳
弁護士のジェンは、亡父が設立した事務所を引き継ぎ、内装業者の夫ケリーと18歳になる息子トッドの3人で、イギリス・リバプール郊外に慎ましくも幸せに暮らしていた。ところがハロウィーンを控えた夜、深夜に帰宅したトッドが家の前で、見知らぬ男をナイフで刺し殺してしまう。トッドは、その場で警官に逮捕された。
飲み物に含まれるマイクロ/ナノプラスチックは予想以上に多いのかもしれない
アメリカ・コロンビア大学のウェイ・ミン博士らが、従来より10分の1~100分の1の微細プラスチック片を検出できる技術を用いて市販のボトル水を調べたところ、平均して1㍑あたり2万4000個ものプラスチック片を検出したと、今年1月、『米国アカデミー紀要(PNAS)』に発表した( Naixin Qian et al.:Rapid single-particle chemical imaging of
もっとみる新型コロナウイルス──オミクロン系統の新たな変異株JN.1が流行の主流に
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の5類感染症に移行して8か月が経過した。社会は「コロナ禍」以前の状態をほぼ取り戻したが、新型コロナウイルスが消えてしまったわけではない。いまだに感染流行はつづいており、免疫をくぐり抜けやすく、より感染が広がりやすい株へと、変わらず変異を繰り返している。
日本では、定点医療機関あたり感染報告
清涼飲料に含まれる「糖分」が腸内細菌を通じてメタボリック症候群を引き起こす
9月7日の記事で、腸内細菌叢の変化(ディスバイオシス)が腸管バリア機能を低下させ、非アルコール性脂肪肝や肝硬変、さらには肝がんを引き起こす可能性があるという研究報告をいくつか紹介したが、その原因の1つとして、砂糖(ショ糖や異性化糖)の過剰な摂取がクローズアップされてきた。
一般に「砂糖」と呼ばれているものは、サトウキビ(甘蔗)やテンサイ(甜菜)から精製されるショ糖だが、異性化糖はトウモロコシ
肝がんの発症や進行に腸内細菌が関与か
男性では、罹患率・死亡率ともに5位にある肝がん(正確には肝細胞がん)の発症や進行に、腸内細菌が関与しているという研究報告が、日本の研究機関から最近(2022~2023年)あいついで発表されている。
いまや男性の65.5%、女性の51.2%が、一生のうちになんらかのがん(癌)に罹り、男性の4人に1人、女性の6人に1人はがんを原因として亡くなる(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」)
新型コロナウイルスはどこへ行くのか
<第14回>
日本では、2023年5月8日にCOVID-19が「2類相当」から「5類感染症」に移行し、季節性インフルエンザ並みの扱いとなった。それ以前は、毎日感染者数や死亡者数が報告・発表されていたものが、定点医療機関からの週1度の報告に基づいて感染者数が公表されるだけとなった。国内の全感染者数は正確には把握できず、「定点あたり」で増減を判断するしかなくなった。感染を防ぐための行動制限はなく、
強毒ウイルスを生み出すコウモリの免疫系
<第13回>
第2回および第3回でも書いたように、SARS-CoV-2の起源動物はコウモリ(キクガシラコウモリ属)でほぼ間違いないと多くの研究者は考えている。エボラ出血熱、ニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症、SARS、MERS、そして今回のCOVID-19と、新興感染症には原因ウイルスがコウモリ類由来のものが少なくない。古くからある狂犬病もそうだ。幸い人間に感染することはなかったが、2
奇妙な変異株オミクロン
<第12回>
日本では、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が感染症法上の「第5類感染症」に移行してからも感染者数がふえつづけており、7月に入って日本医師会が「現状は第9波と判断するのが妥当」と発表した[1](ただし、数日後政府はこれを否定)。第5類移行で全数把握されなくなり、定点あたり報告数から推測するしかないが、6月、7月と明らかに感染者数は増加している。この波
パンデミックをもたらした「D614G変異」
<第11回>
SARS-CoV-2は変異しつづけている。初期に採取されたPANGO系統分類のA系統(A株)とB系統(B株)のうち、その後世界的に広がったのはB株だった。2020年のはじめ、そのB株からB.1株が派生する。はっきりとはわかっていないが、出現時期は1月はじめと考えられており、おそらく中国国内で出現して、それが旅行者とともにヨーロッパにもたらされた。イタリアでは、2020年2月から3
最初の感染はいつ、どこで、どのように起こったか
<第10回>
これまでのところ、SARS-CoV-2の起源にかんしては、野生動物か研究所漏出か、2023年6月現在、結論は出ていない。多くの研究者は野生動物起源と考えているが、その決定的な証拠はない。そこで、感染のはじまり(大元)を探ろうと、さまざまな方面からの研究が試みられている。その1つが、進化生物学や生物情報科学(バイオインフォマティックス)からのアプローチだ。
SARS-CoV-2
野生動物取引と動物由来感染症のリスク
<第9回>
A型インフルエンザウイルス同様、ヒトコロナウイルスも人獣共通感染症=動物由来感染症であり、オリジナルはすべて動物にある。すでに書いたように、SARS-CoVはコウモリが自然宿主でありハクビシンあるいはタヌキを介してヒトに感染したと推測されている。MERS-CoVもまたコウモリ由来で、ヒトコブラクダが媒介したことがほぼ確実である。
これに対してOC43の自然宿主はネズミの仲間だと
19世紀の「ロシアかぜ」の原因はコロナウイルスか?
<第8回>
スペインかぜに先立つこと四半世紀、記録が残る最初の呼吸器感染症パンデミックとされるのが、19世紀末、1889年〜1893年にかけて世界中でおよそ100万人を死亡させたといわれる「ロシアかぜ(Russian flu)」である(表参照)。ただし確実とはいえないが、歴史上の文献からは、インフルエンザによるパンデミックが1510年以降、何度か発生したと考えられている[1]。
ロシアかぜ